泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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雪の降る日は、気を付けろ

第2話 雪景色と彼女の事情

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 うん? 晩ご飯は別に良い?

 ようく見れば、彼女の手荷物は一つ。
 大きめのザックだが、軽そうだし、よくいるハイキング気分で登山に来ました。みたいな感じだ。
 食材が、入っているのかも怪しいし、シュラフも。

「おっさん。この子、予約はベッド付き?」
「いや。素泊まり。聞かれたのは、雪景色が見えるか。だけだからのぉ」
 やばいと思ったが、口をついて言葉が出た。

「なあ、こっちはリフレッシュのために来たんだ。あんたが、どういうつもりかは判らないが、騒ぎになると迷惑だ」
 少し強めに声が出た。
 
 その言葉で、気がついたのだろう
「あの、宿泊キャンセルで良いですか?」
 その言葉に、おっさんは、安易に返してしまう。

「ああそりゃ。料金さえ貰えば、こっちは良いが」
「当日だから、百パーセントだよな。なあ君、泊まって話をしないか? これは俺の名刺だ、何か嫌なことがあれば、訴えてかまわない」
 そう言って彼女の目をじっと見る。

 おっさんは訳が分からず、オロオロし始めた。
「あのぉ、どちらにしろ料金」
 そう言って、シュパッと明細が出てきて、彼女の目の前へ。

 素泊まり一泊。
 バンガローは、三千円のようだ。
 おっさんの大損じゃん。
 何を思って、あの交渉で、うんと言ったのか、理解ができない。
 なにか、運命のようなものでも在るのか? そんな気がする。

「決まったら連絡してくれ、内線はゼロ番な」
 そう言って、そそくさとおっさんは帰ってしまった。

「お金も払ったし、荷物を置いて寛いでいてくれ。おっさん、あっ君幾つ?」
 聞いてからしまったと思ったが、彼女は答えてくれた。

「二十一歳。大学生です。柚木 凜ゆのき りんと申します。一泊よろしくお願いします。ええと、結城 一弥ゆうき かずやさん? かっこいい名前ですね」
「ああ君からすれば、充分おっさんの二十八歳だ。君が未成年じゃなくて良かったよ」
 そう言ったらジト目で見られる。

「変なことを、しないんですよね」
「違う。未成年と知って泊めると、何だっけ? そうだ、未成年者誘拐罪とか、未成年者略取罪とかになるんだ。むろん、本人の了解得ててもだ。ご両親の許可が要る」
 そう言うと、なるほどという感じで、納得をしてくれたようだ。

「もう両親は、亡くなったし、今は十八歳以上が成人なんですよ」
「そりゃ、重ねて失礼。若いのに…… 事故か何か?」
「色々と…… 後でお話をしますから、雪かきを手伝わせてください。やったことがないんです」

 とは、言ったものの、二人とも長靴などは装備していないし、つま先から冷え込みが来て、我慢ができず。今朝おっさんが作った、獣道を少し拡張をしただけで、作業が終わった。とりあえず、車は掘り出した。

「うわー寒」
「体は温かくても、足先が濡れちゃって」
「温泉がある。部屋はそっちを使って、建物を半分で使おう」
「はい」
 そう言って、幾分元気そうに、彼女は部屋へ向かった。

「人の来ない時期。人のことは言えないが、食い物も持たず、山の中。多分シュラフ寝袋も無し」
 中身はロープかな? 途中で熊さんに、それも良いかも。確かそう聞こえた。

 つまり彼女は、この美しい山中に、死にに来たのだろう。多分。
 話をして違っていたら、謝ろう。

 すぐに彼女は着替えてきた。
「足湯にするなら、温泉はそっち」
 分かる様に、指をさす。
 備え付けの浴衣と羽織を装備。少し目に毒だ。

 お湯を湧かして、ポットに入れる。
 お茶っ葉は、サービス品もあったが、買い込んできた。
 だが、ビールとチューハイ以外飲んでいない。
 箱ごと、室内に持ち込んでいる。

 どうしたって、暖房が必要なため喉が乾く。

 昼に起きたとき、喉が痛かったので、洗浄? いや消毒が正解か。それをかねて、ビールを飲んだ。

 さて普段なら、まだまだ食べる時間じゃないが、昨日の刺身の残りと、凍っていない肉。希望を聞いて出そう。刺身を出して、焼き肉か。
「あっ、おっさんに言うの忘れた」
 だが、電話をすると、
「だと思った。じゃが、気を付けろ。あの子は…… いや気がつかないのなら、相性かもなぁ」
 そんな謎の言葉を付けて、おっさんは電話を切った。

 むっちゃ気になる。相性って何だ?

「足湯って気持ち良いですね」
「だろ。それできっと、食料も持っていないんだろ」
「あっはい」
「なんで死のうと?」
 躊躇はした、だが下手な回り道はしない方が良い気がした。

「先日、お世話になっていた、おじさんが亡くなったんです」
「そりゃ。お悔やみ申し上げます」
「いえ。おじさんは、家のお母さんのお姉さん。その旦那さんで、この年まで生きていたのに、お父さんが亡くなって、又付き合いが復活をしたから。たぶん」
「うん? 君の家は、女系なのか」
 そう聞くと何か考え始めた。

「まあいい、お茶でも入れよう。こたつ、掘りごたつタイプで結構暖かい」
「お茶? その飲んでいるのは何ですか?」
「これはチューハイ。昼にビールを飲んだから」
「そんなに飲んで、大丈夫なんですか?」
「一気にじゃなく、ぼちぼちだから大丈夫」
 何か考えているようだが、返答は。

「話が話なので、私も飲んでいいですか?」
「ああ、良いけれど、アレルギーはない? 数パーセントは持っているようで、少し飲むだけで引っくり返るからさ」
「多分大丈夫です」

「「この出会いに」」
 そうして、乾杯をした。
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