泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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恋は突然降ってくる

第1話 予感

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「ああ、もう、いいか」
 俺がそう言うと、彼女は察したのか、ニコッと笑い。
 さっぱりした感じで言い切る。

「よろしく」
「そこは、お願いします。だ」
「ごめんなさい」
 ここは、俺の部屋。
 事後で、二人とも裸で抱き合っている。


 その日は変な天気、向こうでは晴れ間が見え、ひどく寒い。
 だが頭上では、曇天が渦巻いていた。
「雪はやめてほしいなぁ」
 俺は、営業先に向かうために、車に乗り込む。

 スタッドレスは、十二月から履いている。
 自腹で。
 会社は気合いだと言うが、雪が降っても連絡は来るし、事故ればペナルティ。
 積雪中の夏タイヤは道交法違反と言うことを、管理課は知らないのじゃないか?
 ついでに、ラバーチェーンも積んである。スパイク付きで、路面から雪が切れても数キロ走れる奴。

 JASAA認定品と言われる物。
 規定では、道路の破損が少ないとか、高速道路の本線やインターチェンジの坂道をすべてクリア、着脱が容易、関越トンネルを装着したまま走行できる、滑らかな走行、アイスバーンに強い、600km以上の耐久性とかが必須だそうだ。

 高速のチェーン規制では、チェーンがないと、そもそも高速に入れなくなる。
 下道は、夏タイヤのまま走っている奴も居るし、危なくて仕方が無い。

 そんな事を思っていたら、降ってきた。

 いきなり、路面を雪が転がり始める。
「あーこりゃ積もる」
 スキーに行くから知っている。
 降った雪が、路面ですぐ溶けるようなら大丈夫。

 だが今のように、表面を転がるときは、路面の温度が下がっている。
 つまり、積もるという事だ。

 そう思っていると、つもり始める。
 まずは、歩道との段差下。
 吹きだまって、積もりはじめる。

 まだ車道は大丈夫、摩擦熱もあるし車も通っている。
「うし。ゆっくり急ごう」

 無事に納品して、油断をしたつもりも無いが、すでに他の車にはうっすらと雪が積もっている。

 他にも、社用車がいくつか駐まっている。
 みると夏タイヤばかり。
「あらら」

 横目で見ながら、車に乗りエンジンをかける。

 すると、建物の方からすごい勢いで走ってくる女の子。
 スーツにパンプス。
「あぶねえな、雪が…… あっ」

 スッ転んで、目の前を転がっていく。
「なかなか、はでだな」
 車を降りて、様子を見に行く。

 結構かわいい子だが、なかなかボーイッシュ。

 髪の毛に雪が絡み、目に涙が浮かんでいる。
「大丈夫?」
「ああ、すみません。大丈夫です」
 そう言うが、手を出す。

 じっとみた後、掴んでくれたので引き起こす。
「怪我は、なさそう?」
「えーあー。到る所が痛くて、よくわかんないっす」
 そう言って、良く分からない言葉が返ってきた。

「まあ、怪我がないなら良かった」
 そう言ったのに、うちの車に書かれた文字を見て、むむっと言う顔。

優社精機ゆうしゃせいき、敵だ」
 そんなことを言って、頭を下げると、さっさと自分の車だろう。
 さっきみた、夏タイヤの車へ向かう。
 あー事故んなきゃ良いが、そう思いながら見送ると、外に出る一個手前で、ハンドルを切ったまま生け垣の段差に向かって、突っ込んでいく。

 どしゃっと、やばそうな音。

 ステアリングを左に切って右前。
 ロアアームかハブ辺りにダメージが出そう。スタビライザーリンクもやばいかな。

 ざっと分析をする。
 
 だが、バックをして又突っ込む。

 今度は、ゴキッっといやな音。

 ドライブシャフトか、リンクか?

 ゴキゴキ言わせながら、まだ動く。
「おおい。いい加減にしろ」
 助手席側の窓を軽く叩く。

「なに? 急いでいるんだけど」
「この車、もう動かしちゃ駄目だ。下手すりゃ死ぬぞ」
「変な事を言って、脅かさないで。退いて」
 心配だが、そこまで言われたらもういい。

 俺は踵を返すが、あの車が居ると出られんな。
 車に戻って現状の報告と、得意先への連絡をする。

「ええ。そうです。路面に結構積もって来ていますよ。―― ええ、御社も、――そうです。そういたします。それでは、そういう事で、よろしくお願いします」

 急いでいないところは、明日にまわして貰ったし、一度社へ帰ろう。
 
 出ようとすると、駐車場出口に人だかりができていた。

「なんだ?」
 外へ出ると、もうすでに五センチくらいは積もっていた。

 革靴じゃやばいかも。

 見に行くと、タイヤが取れていた?
 いや、ハブボルトが折れたのか?
 とにかく、極端なポジテイブキャンバーで、上が開いている。

 みんなが、ジャマだから押そうかという事で、話し合っていた。
「すみません。その、滑ってぶつけて」
 あわあわと、言い訳をする彼女。

 近くの駐車マスまで、何とか移動させる。
 彼女は、半泣きでレッカーを依頼しているが、かなり時間がかかりそうだ。

「まあ彼女の、あの態度じゃ俺は、役には立てないだろう」
 そうぼやきながら、車へと戻る。

 そしてだ、駐車場から出ようとしたら、目の前に立ちはだかる。
 さっきあれだけ、自分の車が滑ることを経験してこの行動。
 いい加減頭にくる。

「おい。当たり屋か? 引くぞ」
「ぐっ。ごめんなさい。車はレッカーできるけれど、人は乗せられないって言われて」
 ちょっと首をかしげる。

「普通は、レッカー中なら、乗せてくれるが?」
「駄目って言われたのよ」
 おお、このもの言い。いい加減腹が立つ。
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