泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

文字の大きさ
上 下
64 / 200
導かれし者たち

第2話 告白?

しおりを挟む
 だが、どの子も……
 幼さなのか、そういう性格なのか、数週間もすると、自分というものを前面に押し出してくる。

 そう……
 私のために。
 私が言っているのに。私…… 私。

 あげく……
 どうして、すぐ電話に出ないの? まで。

 この頃は、必要性を感じず、家電が主だった。だが、それでこれだ。

「今のは、彼女なのか?」
 親父さんは、やりとりが聞こえたのだろう。
 少し、いやそうな顔見せる。

「あーまあ。知り合いだけど、別に」
「もし、彼女として付き合いをするなら、相手は選んだ方がいいぞ」
 簡単だが、親父からの忠告。
「そうだね」

 そうして、いくつもの付き合いで、体の関係も幾人かと持ったが、これじゃない感が強くなっていく。

 そんな中で出会った、小川初音。

 周りはパニック状態で、皆必死の形相。
 恋愛? そんなもの終わってからでいい。
 だがら最初は警戒した。

 だが、ガツガツこない。
 それどころか気遣ってくれる。
 これは良いかもしれない。

 そう思い、プレゼントまで。
 向こうがこちらを思ってくれば、こちらも気を遣う。

 そう、拝みに行くことが目的の、初詣。
 思った通り制服。
 ああ良い。

 だが、大学へ通うための部屋への引っ越し。その時から、連絡が途切れた。

「スマホの番号を、聞いておくべきだったか?」
 ユーザーがいませんという、表示を眺める。
 
 初音がわちゃわちゃせずに、すぐにアプリを入れれば復活をしたかもしれない。
 だが、拓也はすぐに消してしまった。
 楽しかったが、過去のこと。
 過去のやりとりが、目につくことがうっとうしく思えた。


 大学でもふらふらと、はぐれ雲のように幾人かと付き合う。
 だが、前とは違い、今度はなぜか、これじゃない感が強い。

「ひょっとして俺、そんなに初音が好きだったのか?」
 初めての体験。自問自答を繰り返す。

 だが、ふらふらと相手を求める。

 やがて親父が再婚して、なぜか名前が変わった。
「彼女のところは、姉妹でな。親御さんも年だし。名前くらい別に良いだろ」
「まあ」


 そんな頃、失意の中で頑張っていると、親父さんの浮気が発覚。
「殺してやるー」と、叫び。包丁を持って追いかける母親を、間一髪押さえ込み、無事離婚。卒業までの学費は出してくれるそうだ。

「やめてよね。母親が殺人なんてなったら、大学なんて行っていられないんだから」
「うん。ごめん。お母さん、お父さんを甘やかしすぎたのかなあ?」
「さあ、相手は知らないけれど、そのうち泣きついてくるんじゃないの?」
 そんなことも起こった。

 そしてお母さんは、パートをしつつ暮らし、少し若くなった。

 そして、自分は卒業。
 大手の子会社へ潜り込んだ。
 本人も奇跡だと思っている。
 合格したとき「なんで?」と思った位だ。

 そうして二年。
 二四歳の春。
 同じ課。別の係だが、一人の天使が舞い降りた。
 妙なクールな立ち居振る舞い、あの人をさげすむ目つき。
 私知っている。『ばかだなあ、初音は』笑いながら心をえぐる。
 あっやばい。

 大学に行ってから、眠れぬ夜を一人で慰め、そのたびに思い出したあの目。
 条件反射的に体が反応する。
「もう、大人なのね」
 訳のわからないことを言いながら、トイレへ走る。
 ちなみに経験はなし。

 大学時代も、飢えた奴らに声をかけられたが、付き合うまでに、これじゃないがどうしても浮かぶ。
 ゾクゾクする目がほしい。

 そんな中の出会い。

 見かけても、声がかけられない。
 三浦? ふと名字を聞いて、彼じゃないことはわかった。
 フルネームで呼ばれれば、うん? となっただろうが、呼ぶときにあまりフルネームでは呼ばない。

 それは気にしていた、拓也も同じ。
 藪瀬? 違うのか。

 初音は、お母さんの離婚により、旧姓である藪瀬に戻っていた。

 そしてネット上で、アドバイスを同じようなタイミングですることになる。
 拓也はハンドルネームたくあん。
 初音はみく。

 それを見ている周りはモヤモヤ。

 そして、その時は来た。
 自販機が並ぶ休憩室。

 少し時間が遅く、一九時を回ったところ。
「あー参った。どう報告をしようか?」
 子会社へ出向をするのは、二種類ある。
 顔が知れた状態で来るのは、てこ入れ。
 もう一つは監査。

 当然、拓也は後者。

 いろいろが、ザルで焦っていた。
 まあいいやで、慣習的に通す事例が多く、損益は積もると結構大きい。

「まあ、無理とかを通してもらうための、付き合いもわかるが、それにしても限度が……」

 ぼーっと、自販機を眺めていると、お尻があっちへ行ったりこっちへ来たり。

 その時。拓也の頭の中で、ステージで踊る、みくという名前が何かにつながり、ヒバナが発生。
「初音」
 つい口にする。

 そうだ、みくだ
 一番最初にハンドルネームを見たときに考えること、それを、今更拓也は気がついた。
「はい、ええと。あなたは確か」
 お尻が振り返り、こちらに向いて返事をする。

「たしか、三浦さんでしたよね」
 いきなり名前を呼ばれてびっくりしたが、相手は驚きの三浦さん。
 もう、心臓が爆発しそうにドキドキである。

 拓也の方は、予想外のところで返事をされて焦る。
 ええと藪瀬さんだったよな。
「ああ、すみません。別にあなたを呼んだわけでは…… ああ゛っ?」
 つい地が出た。

「初音?」
「はい。そうです。あの、あまり名前を呼ばれると……その」
「小川」
「はい」
 答えながら、首をかしげる。
 名前が変わったのは大学生の時。大学にこんな人いたかしら? いればきっと、付き合っているはず。

「馬鹿だろ、初音」
 夢で見る彼より、数倍きつく台詞もきつかった。
 だが、足の力がカクンと抜け、へたり込む。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

処理中です...