泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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共用社会

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「わっ、さむーい」

 そう言いながら、やってきたカリーニは、出会うなり人のコートの前をはだけ、中へと潜り込む。
 大きめのデスベアの革をなめしたロングコート。
 彼女くらいなら、一緒にくるまることはできる。

「せっかくの、暖かい空気が抜ける」
 目の前にある、彼女の後頭部へ、話しかける。

「良いじゃない。あっこら。正気? ここ広場。こらっ」
 そう、コートの中へ潜り込んで来たなら、こっちのモノ。
 外から見えないのを良いことに、胸と股間へ手を伸ばす。

「暖まるだろ」
「もう。ばかっ」


 少子化が叫ばれる中で、人々の考え方が大きく変わった。
 個人が個人を専有するのが間違い。
 そんな事をするから、いい男がいなくて、あぶれた女の子が独身になるのよ。

 結婚制度は残っていたが、人も限られた資源だから、シェアしよう。

 そんな考えが、この王国で一般的になった頃。

 幾人かが集まり、暮らす。
 全員が負担し合い子育て。
 意外と、うまくいった。
 そんな社会。

 誰かが言った、古の社会だと。

「今日は、デートの当番だから、独り占めできる」
 うちは平日、日直がある。

 家は俺が一人男で、後は四人が女の子。

 平日、予約制でデート。
 一日は俺の自由時間。
 土日は、必ず家でまったりする。

 いわゆるハーレム状態。

 当然逆もあるが、身近では知らない。
 男女混合だと、相手が決まり、ごくたまに入れ替わるパターンになるが、嫉妬からの事件になったりするようだ。

 
「最近は、デートの報告会をしていないのか?」
「うん、最初だけだったなぁ」
「そうなんだ」
 そう言いながら、オリーブが刺さった、串を振る。

 そう言えば、カリーニはいつも、マティーニだな。
 豆知識だが、ドライマティーニには、オリーブが入らない。

「そう。以外と聞いちゃうと、やっぱり嫉妬するし」
 そう言いながら、ぱっくりとオリーブを咥える。
 妙に色っぽい。

「そうなの? 意外とみんなクールじゃないか」
「そりゃ、嫌われたりしたらいやだし、猫もかぶるじゃない。誰か一人を選ばれちゃったら自分のせいでしょ」
「ふーん」
 そう言いながら、俺はみんなのことを、きちんと見ていないことに気がついた。

 区別してはいけない。
 バランス良く、なんて言いながら、それを言い訳にして。

 縁があり、俺の周りに集まってきた娘達。
 身の回りのことをしてくれるから、一緒に暮らしている?

「俺の何処が良いの?」
 そう聞くとちょっと驚き、ちょっと嫌そうな顔になる。

「そうね、一番大きいのは、束縛しないところかな?」
「そうかあぁ?」
 そう言うと、顔が少し緩む。

「捨てられる…… わけじゃないのね」
「うん? 何で…… ああっ、ごめんな、変な質問をして」
「ううん。良いのよ。ただみんな色々あって、あなたの所へ来た。最初にも言ったけれど、深くは聞かないでくれると嬉しいな」
「分かった」

 カリーニの背中には、刀で切られたような大きな傷がある。

 宿屋で、深く愛し合った後、共同で買った家へと帰る。


 だが、その時には目を付けられていたようだ。

「居やがった。おいみんなを連れてこい」
 こいつらは、この町で裏稼業をしている連中。

 どうやら、俺の顔は意外と売れていなかったようだ。

 いきなり辺鄙な島へ呼び出され、何とか港に有った船で、人の居るところへ渡ってきた。この世界、魔法が使えず苦労をする。
 体内で錬る魔力だけでは、たかが知れている。
 必然的に、剣技だけで頑張る事になった。

 セプテントリオ王国という国だが、港町があり、食品加工とか、発酵食品?
 その他缶詰とやら、なんか知らないが、俺がいた世界より発展をしている。

 
 もっと南へ上がると、パリブス国という国が、もっと発展しているようだ。
 列車とやらで行くとすぐらしいが、あそこの軍は鬼が居るそうだ。
 音がするから、すぐ分かるらしいが、よくわからん。

 噂だと俺と同じく、召喚された連中らしい。


 さて、そんなことを言っている間に、俺の頭の中に情報が集まる。
 魔力を薄く広く広げると物と人、その他生き物では、反射が違う。
 それにより、変な行動をする奴らが集まってきたのが、理解できる。

「おい、みんな。上へ上がっとけ」
「なに?」
 みんなが集まってきて、不安そうな顔になる。
「良いから上に行け、外に面する窓や壁からは離れていろ」
「わかった」
 サマンタが理解をしてくれたようだ。
 有りがたい。

 ところが、その馬鹿達は、声を張り上げてきた。

「おらあっ、ここに居るのは判っているんだ。出てこいや」
「そうだぜ、マルシア、モランテ、カリーニ、サマンタおらぁ。ぶっ壊すぞぉ」
「やかましい。人の家に何をするって?」
 俺は剣を鞘にいてたまま肩に担ぐと、表に出ていった。

「やかましい、こっちには証文もある」
 そう言った瞬間に、脚に魔力を込め一気に距離を詰める。

 証文とやらを奪う。

 四人の証文は、金貨一枚やら、下手すら銀貨だ。
「ほらよ」
 書いてある、金額を投げる。

「馬鹿野郎。利息って言うもんがあるんでぇ」
「幾らだ?」
「金貨、そうだな、一人百枚で良いぞ」
「何年で? みんな若いぞ」
「やかましい、何年でも良いだろうが」
 うらあという感じで殴りかかってきた。

 人もいるし、素直に殴られる。

 このコートは、向こうに居たモンスターの革だから、矢も刺さらないが、ここは生身で殴られて吹っ飛ぶ振りをする。
 力を入れすぎて、五メートルほど飛んでしまった。

「いてえ、怪我をしちまった。慰謝料が必要だな。それに金利は、すべての国の共通規則で年一割りだと決まったはずだ。遡って請求をできるから、てめえらの方が返さなきゃいかんよな。逃げると気導鉄騎兵団とかが来るんだろ」
 そう説明をすると、聞いたことがあったのか、逃げようとする奴ら。

 偉そうな奴と、脇にいた二人を殴って気絶させる。

 役人に証文を持っていき、強制執行とやらを頼む。

 マルシア達が捕まっていたのは三年らしく、体が使えるようになって一年客を取らされていたそうだ。
 まあそんな証言から、色々と悪事が出て大捕物となる。

 ギルドからの依頼も出て、俺も参加をする。

 中に隠し扉か? 通路があり、隣へと人が動いている。
 当然役人に教える。
 詳しくは言えないが、俺の能力だと。

 そして踏み込み、一網打尽とする。

 すると計算後、働いている女の子達、借金などすでにチャラになっていた。
 ただし病気の娘とかも居て、貰った金を使い、結局パリブスの首都カミーノとか言うところへ行くことになった。

 この一件からあと、一緒に住む女の子が増えて? 違う。
 子種が欲しいと、やって来る奴らがいて困ることになった。
「あれは、好きだからじゃないね」
「そうだね、ディオンが持っている、力が目当てだろ」
「さっさと、パリブスへ行こう」
「でもさ、この子達も病気が治ったら……」
「確実に襲われるね」
 四人が顔を見合わせる。

「そうだ、ずっとしてれば誰も入れない」
 四人は、ものすごく良いことを考えた様に言っているが。

「俺が死ぬだろう」
 どうやら異世界に来て、俺は女難の相を拾ったようだ。

 未だに、何故俺は、この世界に召喚をされたのか判らない。
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