泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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聖夜の贈り物

今年は寒かった

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「うえーい。じゃあ。二十四日の十九時だからな」
「了解。楽しみ」

 そう言って、彼女と別れる。
 電車を待っていると、一瞬だけ通知音が鳴る。
 やべ、マナー……

 画面のバナー表示に、『今からなら大丈夫。お家それともホテル?』
「はっ?」
 ベタな送信間違いからの別れか……。

「こんな事があるんだなぁ」
 彼女は、大学で選択が、かぶった様だが学部は違う。

「ごめんなさい、先週のノート取っていませんか?」
 前髪が目までかぶり、太めのメガネで完全武装。
 だが俺には分かる。

 この輪郭、髪の毛の膨らみから耳の位置。メガネから少し見える小鼻と、正中線に沿った流れで唇と形をマスクを透過してイメージする。

 趣味の写真とデッサン、そこから2次元興し。

 俺のPCには膨大な顔が保存されている。

 顔認識システムを凌駕する俺の目。
「彼女は、モロ好みのかわいい系美人。メガネとマスクで武装しても俺の目からは逃げられない。後は性格だが、あまりひどくなければ許容範囲」
 ぶつぶつ言っていると、モーゼのように力を発揮し、目の前が開けた。

「おじょ。いや。俺のよければ貸すよ」
 彼女は、じっと俺を見る。
 きっとこの瞬間。俺の人間性を計っているのだろう。
 同じ大学生と言っても、初見ではやはり恐怖はある。それに、彼女がかわいければ今までに色々あっただろう。

 かわいいとか、胸があるだけで、好奇心に晒され、意図せぬ被害を受ける事がある。

 よく、美人は得ね。とかとか言われるが、彼女達は彼女達で大変なのだ。
 望んでいない出会いが、やってくる事も多い。知らんけど。

「ありがとうございます」
 軽くマスクを下げて、ニコッとはにかむ。


 その、気遣いが効いたようだ。
「俺は、絵心隆史。二年生だ。学部は心理学」
「えっ。それでどうしてこの講義を?」
 そうこの講義は、舞台表現。

「舞台表現など、心理学のお手本みたいな物だろ」
 そう言うと、少し悩んだのか悩むのを諦め、飲み込んだのか。
 彼女は、名前とお礼を言ってきた。

「私は、表現学部の色瀬琥珀。ちょっと男っぽいけれど、気に入っている名前なの。遠慮無くお借りします。あっでも、どうやって返せば」
 俺はすっと、バーコードを見せる。

 すると彼女は理解して、スマホを取り出す。

「じゃあ、すぐに返します」
 そう言って、教室を出て行った。

 その後、返してもらう時に学食のカフェで会う事になり、話し込むと意外と話があった。

「あの。こんな事聞くとあれなんですが、絵心さんは付き合っている彼女とかいます?」
「いや今は居ないよ? どうして」
「あっいえ。知り合いが多そうなところで待ち合わせだったから、彼女さんとかが居ると悪いなって思って」
「ああ大丈夫。それを考えると、色瀬さんは大丈夫だったの?」

 そう聞くと、驚いた感じで、さらに少し落ち込みぼそぼそと返事をしてきた。

「年齢イコールで、誰とも付き合った事がなくて」
 そう言って、乾いた笑いをしてくる。

「おかしいなぁ。そんなにかわいいのに」
「かわっ。ありがとうございます」
 そう言ってうつむき、ジュースをすする彼女。
 隙間から見える顔は、真っ赤になっていた。

 あれっ、本当なのか?

 おかしいな、俺の見立てではモテそうなのだが。

 そうして、幾度か会い今回のクリスマスの約束。

 まあした瞬間に、暴露通知の誤爆。
 笑うしかない。

 今からの時間で、家かホテルかって、売りでもしてんのか?

 鬱々と悩みながらも、それを確認する勇気は無かった。

 当日、十九時の約束に何故か、十五時にベンチに座る俺。

 俺の心を表すようにどんよりとした雲。

 一時間もすると、小雨が降り。すぐに雪へと代わる。
「濡れちまったら店には入れんな。ドレスコードはない店だ、がずぶ濡れは敬遠されるだろう」
 良いさ。どうせ彼女は来ない。

 のぼせていた、俺の心を覚ますには丁度良いだろう。
 俺はその時、自分の心に酔っていた。
 どこかの主人公の様な心境。
「ふっ」
 とか言いながら、自分の行動に酔いしれる。
 俺ってかっこよくね。そんな事を思いながら。

 だが天候は復活せず、駅前のタクシー達が姿を消していく。
 記録的大雪? そんな文字が掲示板に表示される。

「はっ? 電車が止まった?」
 そんな文字が掲示板に点る。

「ははっ。初雪や兵どもが夢の跡だな。夢を見れば潰える。見なければ幸せなのかね」
 そんな馬鹿な事を言ってみる。

 思った以上に、彼女に惹かれていた様だ。

 体が重い。
 震えも来ているが、立ち上がる気が起きない。
「もうどうでも良いか」
 自分ではそんな、性格ではなかったと思っていたが、以外と重い性格だったようだ。

 警官も通り過ぎるが、何故か職質もされない。

 世界中から、見捨てられた気がする。
「ははっ。それもまた一興」
 なんて思ったら、声が聞こえる。
 ついに職質。ラーメンでもたかってやる。
 悲しい身の上を語れば、多少はそんな気にもなるだろう。
 言っていて、涙がこぼれる。

「絵心さん。隆史さん。どうしてこんな格好。一体いつから? 途中で電車が止まって遅れるからって送ったのに」
 彼女だった。すごい形相でこっちを見ている。

「あんっ。送った?」
 のろのろとスマホを出すと、来ていた。
 『雪で電車が止まって、歩きますが遅れます。先にお店に行っておいてください。』

「あっ」
「あっじゃありません。その格好でお店は無理。キャンセルを入れて、家じゃ遠いし、あっあそこ」
 ネオンを見つける。

「ほら立って。行きましょ。風邪を引きますから。ちょっとそこのコンビニで何かあったかいもの」
 普段のんびりしている彼女だが、その日の動きはかなり機敏だった。

 コンビニでカップで作るスープとかを買い込んで、煌びやかなホテルに入る。
 雪のおかげで部屋が空いていた。

「わあ。色々ある」
 彼女は少し嬉しそうにしながら、適当に部屋を選んだ、エレベーターで上がりフロアで部屋を探す。

「あっ。ここ」
 鍵を開けて中へ入り、エアコンを付け風呂場へ走る。
「うわーすごい」
 そんな声が聞こえる。

 あっそうだ、店に電話。
 電話をすると、事情は納得してくれたが、材料の事もあるので全額負担。
 ただ後日、支払いに行くと割引券をくれた。

「まだ服を着てる。脱いで。もう、うちの弟みたい」
 そう言って彼女が笑う。

 バスタオルで拭き水気を取る。
 エアコンの風が当たるところにハンガーで吊るし、一息をつくと、風呂場へ引っ張って行かれた。

「せっかくなので入りましょ。言っときますがこんな事初めてだし、誰とでもなんてことはありませんから。光栄に思ってください」
 彼女のその言葉に笑いが出る。

「光栄に思います」
「なっ。ありがとうございます」
 お互いに真っ赤になって、脱衣所に行くと少し落ち着いたのか彼女が言い始める。

「あーよく考えたら、一緒に入る事も無いですよね」
「何を言っているんだ、もしかするとヒートショックで倒れるかもしれない」
「もうそれに、気構えは出来たし入ろう。見やすいように電気も煌々と点けよう」
「なっ。もう普通は逆でしょ。恥ずかしいなら電気を消そうとか」
「そんなもったいない事。初めてなのに」
「うぅー。行きます」

 そうしてその後は、僕たちは恋人になれた。

 彼女の誤爆は、彼女が属している劇団に向けて、知り合いに脚本を頼んでいて、それが出来たという連絡があったが、俺と会う方を優先。
 その後あわてて間違えたらしい。

「疑ったんですか? ひどい」とお叱りを受けたので、もう一度ゆっくり愛し合った。

 寒かったが、怪我の功名だろうか。

 最高のクリスマスを過ごす事になった。


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 何とか書いた。
 ハッピーエンドは、難しい。 
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