泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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良くある男と女

第2話 波瀾万丈?

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 結局、引っ越しをする。

 彼がどうこうではなく、動画サイトにアップしていた歌ってみた動画がバズった。
 一緒にカラオケに行っていた友人が撮影。
「アップしましょうよ。百点動画」
 見せて貰うと、幾つも同じような動画があった。
「これって、お小遣い稼ぎになるわよ」
 その一言で、お面をかぶり、撮影をし直してアップしたもの。

 否定的なコメントもあるが、書かれているように素人だし、落ち込んでいる私の心に、頑張れという応援コメントが刺さった。

 見ず知らずの人が、応援をしてくれる。
 それだけで単純な私は、一歩を踏み出せた。

 それが切っ掛けで、ボーナスと貯金を原資に、もう少しセキュリティの高いマンションへ引っ越しをした。

 一年ぶりに、WEB投稿サイトで彼の近況報告を見た。
 発売した本は売れず、次回作頑張りますというコメント。
 だけど新作は、受けていないようだ。

 もう少し検索すると、数冊出しても生活の辛いラノベ作家という見出しがヒットする。
「大変なのね」
 ヒットして、コミカライズから、アニメ化。王道だけれどそこへの道は険しいようだ。かなり、努力と才能が無いと歩めない茨の道。

 彼なら、普通にサラリーマンするのが正解だったような気がする。
 文章が上手ければ、報告書とかプレゼンで有効に使えそうだし。
 まあ、いいや。

 私は日課になったコメントに、返事を書き始める。

 すると鳴るのよ、インターフォンが。
 モニターを見ると彼の姿。
 このマンション。住人が許可をしないと、入り口のロビーから進めない。
 当然拒否。

 管理人さんに、変な男がうろついていると連絡を入れる。

 そんな日々を暮らすと、変なオファーが来た。
『カラオケで、百点を出してください』
 アドレスを調べると、ドメインはテレビ局のよう。
 やり取りをして、会社にも許可取り。

 番組内で、商品名を連呼しろ。
 そんな事を命令される。
 たか○んさんの味○素事件じゃ在るまいし。

「私、顔出しNGなので、身バレをされたくないのですが」
 すると上司。
「へっ。歌手になるんじゃないの?」
 その言葉に、衝撃を受ける。
「そっそんなに簡単なものじゃないでしょう。私、本格的なボイトレとかもしていませんし」
「そうなんだ。まあ、それでも、好きな商品とかこれですと連呼して」
 一発で出禁か、カットよね。そうは思ったが、返答はする。
「頑張ってみます」

 おかげで、本番の時も商品名の連呼ばかりが頭にあって、緊張しなかった。おかげか百点を取れた。
 見事に、コメントの商品名は、カットされていたわよ。

 でも、転機が訪れる。
「ボイトレをして、本格的に活動をしませんか?」
 そんなことを言ってくれる人がいた。

 上司からは、一言も商品の紹介がなかったと叱られ、何度も言ったがカットされたことを説明をする。
「民放だから、スポンサー以外の商品名は流してくれないんですよ」
「ぬう。けちだな」
 そう言いながら納得してくれたようだ。

 習い始めたボイトレの帰り、再び彼の姿。

 しつこいので、ファミレスへと入る。

 そこからはまあ、予想の範囲。
 出版からデビュー。
 販売振るわず、出版社も予想が外れ、じゃ先生、またWEBで頑張って一位が取れたら検討しましょう。
 それっきりだそうだ。

 当然派遣をこなしながら、日々投稿をしているようだが、前回のものも何が受けたのかよく分からない。
 コメントを元に、推敲するとPVが落ちたとまあ愚痴大会。

「書きたいものを書いて、読者の何かに響けばまた受けるんじゃない?」
 冷たい様だがそれしか、彼にいう言葉はない。

 そして別れ際、彼は聞いてくる。
「なあ、俺達やり直せないか?」
「はっ? どうしてそうなるの?」
 すると彼は、ためらいもなくこんなことを言う。

「他の女とは合わない」
「はっ? なにそれ。別れてすぐに他の女と付き合って、振られたからってまた私? バカじゃない。それじゃ」
 そう言って立ち尽くす彼を、置き去りにして家へと帰る。

 そんな出来事から数週間。
「井内さん。マスクを取って歌いません?」
「何ですかそれ?」
「動画配信で、マスクをしている人たちを集めてガチバトル。負ければ脱ぐ。どう、受けそうでしょ。負けなければ脱がなくていいし」
 そう、テレビの企画もの。

「歌って負ければ、私脱ぎます。どう?」
 もろに色物。そのタイトルBPO的にどうなの?
 その反応が顔に出たのか、たたみかけてくる。

 私の攻略法、知れ渡っているのかしら?
「ギャラというか、出演料出します」
「うー。おいくら?」
「こんだけ」
 うっ。ボーナスより多い。

「出ます」
 これで私は、雑所得と確定申告の面倒さを知った。

「百万円以下は一〇・二一%ね。経理にも連絡をしてね。有名人の井内さん」
 そう私は、決勝で負けた。
 マスクを脱いだ相手は、プロだった。
 ずるい。

 だけどその後、再生数は一気に伸びて、盾が贈られてきた。
 開き直った私は、半分歌手としての道を始めた。
 あの後、彼は姿を見せないが、共通の友人から彼が反省をしていると言っていた。
 無能な自分を支えさせるために、玲の才能を潰すところだったと。

 そう、テレビを見たらしい。
 顔出しをして、呆然として映った私。
 そのおかげで、彼は犠牲にしていたことに思い至ったらしい。
 ひょっとして、昔から歌手を目指していたのに、私がそれを諦め。彼を支えていたと。
 勘違いだけれど、そう思ってくれたなら、その方が都合が良い。

 彼は、それを題材に恋愛ものを書いていたけれど、また思い込み満載だったので途中から読んでいない。

 そう、彼との生活。最初の数年は別として、途中からは単なる惰性だったの。
 別れるのも、面倒。

 そうね。私たち、似たもの同士だったのかもしれない。
 彼が売れたら、将来生活が楽勝ね。そんなことを考えて。

「玲さん出番です」
「はい」
 怠惰な私。何かがくるって、私は光の当たる世界へ来てしまった。

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 少し落ち込んでいるし、年末なので妄想一発。
 宝くじでも買おう。
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