泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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ある恋愛の話

第1話 出会い

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 土砂降りの雨の中、ベンチに座っている女の人が一人。

 時間はもう、深夜二時を回ったところ。

 都会なら、この時間でも交通機関があるのだろうが、ここは、地方の一都市。
 この時間、運が良ければタクシーでも通るかもしれないが、ずぶ濡れの彼女? いや女の人。

 うちは、近くだが……。

「あの。大丈夫ですか?」
 長い間濡れていたのか、振り返った彼女の顔は唇は真紫。

「あの……」
 もう一度声をかける。だが、彼女の返答は。

「いやああああぁ。あなた誰? お金持っていませんからぁ」
 絶叫から始まる。

 まあ、分からないでもないのだが。この時間にそれはやめてほしい。雨が降っていなければ、通報されただろう。

 そう。出会いは絶叫から始まった。

 幸い、今は雨の深夜。人が集まってくるでもなく、問題にはならなかったが、普通なら十分事案だ。

「いや。雨に濡れて、この時間。バスはもう来ないし、タクシーならもっとアーケードの方へ行った方が良いと思いますけど」
 すると彼女は、自分の状態が今更分かったようで、震え始める。

「えっ。雨。いつから?」
 話を聞くと、もう少し都会の方へ就職し、数年ぶりに帰ってきた。

 そう言っていたが、実際はもっと他の理由もありそう。それだけで、降ってくる雨に濡れ。それに気がつかないほどの焦燥。おかしいだろう。

「それだけずぶ濡れだと、タクシーが来ても乗せてもらえませんよ」
 そう言うと、震えながら何か考えている。

「うち近くなので来ますか? これ社員証と免許証」
 見も知らずの人間に身分を明かすのは恐怖だが、自身の正義感と…… 男だからね。彼女の顔と体型に惹かれた。

 無御論そんな事は、おくびにも出さずに言葉を続ける。
「バスタオルと、あったかいお茶くらいなら出せますよ」
 まあ。そんなことを言っても見知らぬ男。むろん。かの女は悩む。
 だが、身分証明が効いたのか、彼女は口を開く。

「信用します。でも、申し訳ありませんが、見も知らずの方ですので…… 何かあれば警察に連絡させていただきます」
 随分とまあ。良いけどね。

「まあ。何でも良いけれど、風邪引きます。来るなら早めに」
「はい。お世話になります」
 と、言うことで、肌寒い時期の夜中。それも冷たい雨の晩。俺は女の人を拾った。

「まあ。どうぞ」
 すでに、彼女の震えは絶好調。
 カチカチと、歯までなっている。
 歯の根が合わないと言われる症状。

「そのままでは、絶対風邪引きか、下手すりゃ肺炎ですね。お風呂溜めますから入ります?」
「うっ。あっ。おでがいじまず」
 両方の鼻から、鼻水を垂らし、紫のくちびるの彼女。
 はじめって会って、我が人生。これほど、色気のない出会いは初めてだ。

 バスタオルをそっと彼女の肩に掛ける。
 だが、かなりの雫が、床へ垂れる。

 床にも、バスタオルを二枚ほど敷き、彼女を座らせる。
 まずは、湯を沸かし、お茶。
 いや、コーンスープとかの方が良いか?
 いや、何か着替えが先?
 こちらまで、思考がぐるぐるで、まとまらない。

 考えた結果。
「お湯をためながら、あったかいシャワーを浴びてください。その間に何か温かいものを用意します」
 そう言って、彼女を風呂場の方へ押していく。
 廊下は多少濡れたが、仕方が無い。

 俺ので悪いが、スエットを用意する。
 あーさすがに下着はない。
 そう言えば、最近下着もコンビニで売っているはず。お泊まりセットとともに買ってこよう。

 ついでに、簡単につまめるものや、うどんなども買ってくる。
 下着の近くに専用洗剤などもあったので、ついでに買う。

 シフトの兄ちゃんが、ニヤニヤと、こっちを見て笑う。
「珍しい物を買っていますね」
 近所でしょっちゅう寄る常連だから、少しくらいは会話する仲だ。

「あーまあ。ちょっとあってね」
「避妊具はあちらですよ」
 そう言って、指をさす。

「やっ。そういうんじゃ無いからぁあっ…… あー。おすすめは?」
「聞かないでくださいよ。試して教えてください」
 大学生だろう彼は、頬をかきながら照れたように答える。

「使えねえなあ」
 そう言いながら、取りに行く。

 袋を二つ買って中身を分ける。
 当然、彼女の方に、避妊具を入れ間違えるようなへまはしない。

 あわてて帰り、彼女がまだ風呂から出てきていないことを確認する。
 下着や、お泊まりセットが入っている袋を、スエットの上にのせる。
 これで分かるだろう。

 さて、リビングへ戻ってきて、はたと止まる。
「こんなものは、ベッドルームだ」
 キャラメル包装をはがして、使いかけのような感じで、中身の小箱だけヘッドボードの引き出しへ放り込む。
 思い立って、個別にバラしておく。

「まあ良いか」

 バタバタしたが、結局スープを作る準備だけはして、ポットで湯を沸かしておく。
 やがて彼女が、シャワールームから出た音がする。
 中で気を失った彼女を、引きずり出すイベントはないようだ。
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