泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

文字の大きさ
上 下
43 / 200
絶望から始まる幸せ

第2話 そして捕獲される

しおりを挟む
 すぐに捕まるかと思ったが、なかなかうまくは行かない。
 Nシステム調べようにも、彼女が車に詳しくない。
 黒のワンボックスくらい。

 アイマスクは大手100均のもの。
 現状、これくらい。
 DNAも前科ではヒットなしだが、余罪はあった。

 幾人か、被害者がいた。

 そして、学校が始まる。
 当然情報は秘匿され、血液検査でも問題は無く安心をする。そして、彼女は学校へ通い始める。
 気がかりは、奴らが学校を知っていること。

 気を付けながら通い、今彼女はポケットに一つ、鞄に一つ、そしてスマホのアプリ。GPSを活用。
「お父さん達と話をして、データは示導さんに行く様にセットするから」
 にこやかに、彼女は言う。

 そう春休みの終わり、彼女とご両親はうちへ来た。

 お礼が遅くなってと言っていたが、両親の疲れた顔が見て取れる。
 いや最初は被害にあったせいでの、心労だと思ったんだけどね。

「伊奈穂君、今、お付き合いをしている方は?」
 から始まり、
「ご両親はどこかにお勤めかな?」
「兄妹は?」
「大学生という事だが、学部は?」
「将来どんな方面の企業へ?」
「既往症とか?」
 まで来て、切れた。

「今日はお礼だと伺ったのですが? この見合いのような質問は何でしょう?」
 そう聞くと、ご両親の顔が曇る。

「いやあの。娘もこんな不幸にあって、普通なら生きていてくれたことを素直に喜べば良いのだろうが…… どうしたってその色々不利になるし。……だが、その、幸せにはなってほしいじゃないか。そうだろう」
「そうですね。今回向こうが確実に加害者で、娘さんは被害者ですし」
 そう言うと、お父さんがうんうんと頷く。

「それでだね。娘がその、なんだ。君をひどく気に入っていてね」
「ああ。まあ、そのようですね」
 くっ。本人が希望に満ちた目で、ずっと見ているんだよ。

「親としても、だね、正式にお付き合いでも、お願いができたらと思うんだよ。あーどうかねぇ? むろん同じ系統の会社を受けるなら婿、あっいや伊奈穂君に推薦くらいは書くし。ある程度の学校での成績は頑張って貰うが」
 ハンカチで、汗をふきふきお父さんが説明する。

「いや、いきなりですね。確かに弟が居ますが、婿というのは?」
「あーうち、一人娘でね。縁が無ければ、会社の誰かを、あっいや」
 そう言って黙る。

 被害を受けて、もらい手がなければ、出世と引き換えに部下と結婚させるつもりだったのか。
 まあ会社は大きいし、今、部次長さんねえ。
 すると被害にあわなければ、彼女どうなっていたんだ? 恋愛など言語道断という所か?

「まあ娘さんにも言っていますが、お互いに若いですし、お友達からと約束をしています」
「そうだな、お互いに知らないと、これは娘の釣書(つりしょ)だ」
「それってお見合いの、履歴書みたいなものですよね。こんなものまで用意して」
「何だね。娘のどこが。あっいや」
 そう言って黙ってしまう。

 まあ親の都合は、完全に壊れた状態か。
「まあまあ、お見合いじゃなくて、恋愛良いじゃないですか。私なんかいきなりこの人と結婚しろって言われて、実際にあったのは結婚前日でしたもの」
 お母さんが、ぽろっと言う。
 ちょっと待て、昭和初期の話か?
 ひょっとして、旧家の偉いところなのか? 怖くて聞けねえ。
 それなら、親父なんかが話を聞いたら、ぽいっと俺売られそうな気がするぞ。

 そんな怪しい雲行きの中、公認の仲となった。
「娘の安全と幸せは君に託した。よろしく頼むよ」
 バンバンとおれの両肩をたたき、親父さん達は帰って行った。

「機材のセットアップと、お話もあるでしょうから。ゆっくりして。帰りは送って貰いなさい」
 何とも、思い切った提案をして帰って行ったご両親。
 ああそうか、もう処女じゃないし、既成事実でもあれば俺が逃げられないと。
 勘ぐりすぎか? まあそうだよな。

「えへっ。よろしくね。ボディガードさん」
 屈託なく彼女は笑う。そして、爆弾発言をはく。

「ピル飲んでいるから、大丈夫だけど、さすがに男の人が怖くて。ゆっくり愛してね。自分でするには大丈夫ぽいけれど」
「はっ?」
「うん? 婚約したし。お母さんがしても良いけど、学生で妊娠は駄目だからって」
「ちょっと待て、婚約はしていないよな」
 彼女は、右手の人差し指を顎に当て、小首をかしげる。

「うーん。一応まだね」
 そう言って小悪魔が明るく笑う。体験したことを考えると、早く立ち直ったのはきっと良いことだろう。死のうとまでしたんだ。
 だが何だ、妙に背筋が寒いぞ。

 そして、一件のテキストデータがやってくる。

 送り迎えように、俺が免許を持っていることを知り、中古だが車を買った。
「新車だと、登録に時間が掛かるそうでね。それと、学校の近くは道が狭い。すまないね」
 マンションの駐車場に、ぽつんと置かれた小さな車。

 いやいやいや。コンパクトの三ドアだけど、フロントにGRのエンブレムがあるし、確かにテンロクだけど、三〇〇馬力のモンスターだぞこれ。中古でも四〇〇万くらいするだろう。

「おやっさん、ぶっ壊れだろう」
「かわいい車ね」
 彼女はそう言っていた。

『奴らの車が、学校の近くに居る』
 警察に連絡しなかったのは、本物かどうか分からなかったから。
 忍びより、GPSを付ける。それが第一の目標。
 ちなみに、彼女のボディガードに徹しなさいと言われ、一〇万を手付けで貰い。バイトはやめた。

「さあ、探偵さんのまねごとだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

処理中です...