泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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巧巳と華久帆(かくほ)

第1話 子どもの頃

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 幼馴染みが、知り合いになった夜 短編集の『青い鳥はやっぱり(巧巳と 幸笑 ) 』搦手先輩目線版です。
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搦手 華久帆(からめて かくほ)は比較的早熟で、幼く変身ごっこに興じる幼馴染み。裕太を冷たいまなざしで眺める。

 彼は、幼馴染みで家は少し遠いが、小さな頃から一緒に遊んでいた。
 今日も約束はある。

 グランドで、走り回る男子をちらっと見て、すぐに視線を本に落とす。

 本の中には、自分の経験していない世界が広がり、その中にいる自分を想像する。

 そんな彼女だが、中学生が目前となってきた頃、自分の心の中にあるモヤモヤに気がつく。少し粗暴で落ち着きの無い裕太を少し馬鹿にしていた彼女。
 口汚いことも言うし、スカートを捲られたことも幾度もある。

 だが、他の女の子と楽しそうにしている姿を見た時、胸が痛む。
 そして彼女は、裕太に対し行動する。

 宿題の途中、気持ちよさそうに寝ている裕太。
 そっと手を伸ばし、頬をさする。
 ピクッと反応するが、起きる気配はない。

 本の中に描かれたキス。
 色々描写されるが、予想が付かない。でも、胸のドキドキは理解した。
 そっと、唇が触れるだけのキス。
 本の通り、目を閉じそっとキスをして目を開く。
 バッチリと、目が合う二人。
「何をすんだおまえ。バッチイじゃないか」
「してみたかったから、キスしただけじゃない。お母さんとかとしないの?」
「そっ、そんなこと、するもんか」

 そして、翌日から裕太は逃げ回るようになり、必然的に疎遠になる。
 後悔し苦しんだ。何故自分の欲求を優先したのだろうと。

 そして中学は同じだが、クラスも違い疎遠は続く。

 だがその頃、裕太は、思春期に突入。

 あの時は、ただ恥ずかしかった。
 丁度、五年生頃といえば、今まで差の無かった男女に、女子のほうが先に体も大きくなり、華久帆のほうが背が高く、わずかに大人になってきた体に対しても、初心な裕太はどうしていいものか、自身の消化できない気持ちを持て余していた。
 そう、女の子に興味が出て訳の分からない感情が出てくる頃。
 女の子を馬鹿にしたり、好きな子を虐めてみたり。
 
 そんな時に、先制パンチを貰い、裕太はどうしていいか分からず、ただ逃げた。

 中学校に入り、なんとなく感情も落ち着いてきた頃には、疎遠になり切っ掛けもないまま二人の人生は、何のいたずらか交わる事は無かった。

 華久帆は好きな本を読むことから、書く方に興味を示し、文章と絵を本格的に始める。
 その頃から、妄想の表現が広がり、人に見せる表と、見せられない妄想。
 それを書き綴り、一人喜ぶ毎日。
 そう、容姿は良いのに、とても不健康で不毛な方へと足を踏み入れる。

 いくつかのコンテストで賞を取り、先制にも褒められる優等生。
 でも実際は、妄想は十分変態と呼ばれるレベルに、どっぷりと浸かる。

 そんな生活を続けて、高校へ入学。
 裕太は中途半端に、スポーツに入れ込み、高校が別になった。
 まあ、本来苦手な勉強が、華久帆に叱責されることがなくなり、本来の成績になっただけだが。

 そして、華久帆は高校へ進んでも、妄想を爆発させる生活。
 むろん表の顔は崩さず、お小遣い稼ぎにちょろっと妄想を切り売りし始めたくらい。読者がこの文章を読んで、どんな反応をするだろうという妄想が追加されたくらい。
 
 そして、三年生になった時、運命的な出会いがあった。
 新入生の、幾多 巧巳(いくた たくみ)絵も文章も華久帆を釘付けにする。
 俄然彼に興味を抱き、彼を知りたくなる。
 その興味が、恋心に変換されるのに時間は掛からなかった。

「ねえ、巧巳くん。その女の人。ウエスト周りが中学生かおばさんになってる」
「えっそうですか? ポーズ集は持っていて、参考にはしているのですが」
「もう少しすれば、水泳部も活動を始めるけれど、そうね。参考資料見せてあげる。とっておきだから気を付けて」
 そう言って、華久帆はネットを徘徊し、アングラなところで入手した動画ファイルを詰め合わせにする。
 男と女、男と男、女と女、むろん複数のものも。
 すべて無粋なフィルターなし。

 彼女の趣味だから、ボディラインは厳選している。
 これを見た時、彼はどういう反応をするだろうか? 初心だから見ることができないかしら? それとも、興味芯々で食い入るように見るのかしら。

 その妄想だけで、ご飯三杯はいけた。
 その時の顔を、少し見た彼女のお母さんは引きつることになる。
「華久帆。あんた、好きな男の子でもできたの? わたしまだ、おばあちゃんなんていやだから気を付けてよ」
「へっ? あーうん分かっている。でもどうして?」
「さっき自分が、どんな顔をしていたのか。そうね、また見たら写真撮ってあげる」
「何それ?」
「口開けて、よだれでも垂らしそうな顔で、鼻の下伸ばして、鼻の穴も全開だったわよ。男の子なら、絶対引くわ」

 それを聞いて、思わず顔を隠すと、あわてて部屋へ戻る。

 やばい。親の前で素が出るなんて。
 でも、これはそのぐらい想像が広がる。
「ふふっ。どんな反応かな? 楽しみ。あっ一緒に見ようかな。そしたら、釣られて先輩我慢できません。駄目よ巧巳くんなんて。うふっ。さすがにそれは、でもいいかも」

 感覚の麻痺している華久帆は、最も確率の多い、引かれるという選択肢を失念していた。
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