泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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斗弥(とうや)と美琴(みこと) 勘違いで、出会い。 はっぴぃ

第1話 出会いと、フラグ。

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 水野 斗弥(みずの とうや)は、営業先の担当者と落ち合う為に、某公的施設の四階、貸し会議室前で待機していた。

 坂埜 美琴(さかの みこと)は、二十六歳を越え、少し親がやかましくなってきた。事あるごとに出てくる嫌みにうんざりし、それを躱す意味でお見合いパーティーに参加する。三階の大広間で催されている、立食懇談エリアと、四階小会議室。個別面談エリアをうろうろしていた。


「なんだか、人が多いな」
 ぼやきながら、斗弥はスケジュールチェックと、相手が三十分程度なら面会可能と言う事なので、エレベータ脇にあった椅子に座り込み、プレゼン内容の精査。今回用の情報を取捨選択をしていた。

「結構、こういうのも盛況なんですね」
 美琴は年の近そうな、斗弥を見かけて声をかける。

 始めて参加してみたが、会場内は三十代から四十代が多くて、気合いの入った格好の美琴は、ちょっと浮いていた。

 声をかけられた斗弥は、盛況の意味を貸し会議室の利用状況だと、勝手に推測をして返答をする。
「そうですね。今日は人が多いですね」
「そうなんですか。私、此処にくるのが、初めてだったので」
 当然、こちらはお見合いパーティーに、参加が始めてと言う意味である。

 その時、目の前の会議室が開き、ザワザワと二十人ほどの人が出てくる。
「ちょっと失礼」
 そう言って、斗弥は立ち上がる。

 当然、お目当ての課長を見つけたからだ。

「斉木課長、お疲れ様です」
 そう言って、声をかける。

 声をかけられた斉木は、忘れていたという感じで答える。
「ごめんなさい。ちょっと押しているから。十五分。いえ何とか二十分なら」
 一応、そう言ってもらえて、安心する斗弥。

 近くの椅子に腰を下ろし、早速、資料を渡しながら、軽量化して重点を絞ったプレゼンを開始する。
 そして、十五分で用件を伝えた。
「ありがとう。検討するわ。確約では無いけどね。良い物という事は分かったわ」
 検討か。その回答で少し気持ちが沈む。この課長、ノリノリの時には、『これ良いわね』が先に来る。
「よろしく、お願いいたします」
 頭を下げて、笑顔で見送る。

「ひどいじゃ無い」
 入れ替わりにやって来た美琴が、斗弥を睨む。

「何の事について、でしょうか?」
 斗弥には、当然そんな事を言われる、覚えも無い。

 さっき、少し話をしただけの相手。じっと見るが、面識もないはず。

「私とは時間を取らず、あんな年上の人と十五分も」
 計っていたのか? 随分暇だな。

「彼女に会うのが、今日の目的だったんだ。失礼だが、あなたとは何の面識も無いし、そんなに不機嫌な様子で、声をかけられる覚えも無いのだが」

「きちんと名札も掛けているし、あなたなんか プロフィールカードも見せてくれないじゃない」
「プロフィールカード?」
「さっきの人には、嬉しそうに見せていたじゃ無い」
「あれは、我が社の新製品。パンフレットだ。見せていたのは営業先の課長。何もおかしくは無いだろう?」

 そう説明して、パンフレットを見せる。それを見た瞬間。ピシッと彼女の動きが変わる。
「えーと。玉の輿ブライダルのパーティー関係者じゃ無いの?」
「なんだそれ? 婚活パティーか何か?」

 その質問には何も答えず。バッと頭を下げ、彼女は姿を消してしまう。

 やばいやばいやばい。あの名前覚えがある。
 美琴は、非常に恥ずかしかった。人生の中で、きっと一、二を争う。
 そう小学校一年生の時。我慢が出来ず漏らしたおしっこ。それと同様の恥ずかしさ。

 初めての参加でテンパっていたのもあるが、全然関係ない人に理不尽な苦情。
 そして、パンフレットに書かれていた、製品名と会社名。

「うちの会社。たしか取引先にあの名前が。営業さんだから来ないでしょうけれど。まいったわ」
 彼女の会社は、斗弥の会社に部品を納品している。
 そして、その言葉は、巷ではフラグという。

 誰かを導くキューピットが、ささやかないたずらをしたようだ。
「これが、プロフィールカードか。重連勤精密機器。職業欄に会社名を書くのか? ほう。星座が乙女座。ギリギリ二十六歳か。誕生日は何時かな?」

 斗弥はプロフィールカードを読みながら、笑顔を浮かべる。

 後日、斗弥は重連勤精密機器の前にいた。

「すみません。ブラック計測機器の水野と申します」
 社名を言うと、知っていたようで、受付のお姉さんは何故か焦り始める。
「いっいつもお世話になっています。御社への納品は、何とか期日までには仕上がる予定となっています。今社員を、フル稼働させておりますので」
 予定表なのか、ファイルをペラペラと捲りながら確認をしている。

「社員をフル稼働? 機械ではなく?」
「ええ。ご存じの通り精密仕上げで、そこは機械では出せない精度なので」
 そう言って、泣きそうな顔になっている。

「今回は、納品の件ではなく、此処に坂埜、美琴さんという方がいらっしゃると思いますが?」
「かっ、彼女が何か?」
 凄い焦り方。何か前科があるのか?

「いえ。最近彼女と、知りあう機会がありまして」
 そう言うと、ピタッと動きが止まる。
 そしてニヤけ始める。

「と言うと、お見合いパーティーとか?」
 揉み手をしながら聞いてくる。
「ええ。まあ」
 どこかの三下のように、薄ら笑いを浮かべながら、個人情報が暴露される。

「へっへっへ。旦那。彼女はまだ二六歳ですが、来月の五日には二十七歳。普段こんな工場で製品管理なんてしているおかげで、出会いもなくこき使われている身。大層親御さんが心配なさっているとか」
「へーそりゃ。大変だ。彼女帰りは何時頃になるの?」
 そう聞くと、怪訝そうな顔になる。
 そっと千円札を、渡す。

「今日も暑いから、冷たいのものでも飲んでください」
「あらぁ。ありがとうございます。彼女彼女。えーとこの数日。二一時とか、二十二時。あら意外と早いわね。入退室だけ通したのかしら?」
 PCのモニターを眺めて、さも独り言のように教えてくれる。
「ありがとう」
 そう言って、受付から離れる。
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