泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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葵と蒼 ばっど

第5話 そして私は、言えなかった

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 学生課到着寸前で、彼女達に説明をする。
「好きで、付き合いたいけれど。今は二人共が、特定の相手と付き合いたくない状態。なので、とりあえずエッチだけの、セフレになったの」
 一気に説明をする。

 無論ここは、人通りの多い、学生課に続く道。
 周りが、ざわつき始める。

 周囲から、『エッチ』『セフレ』そんなやばいワードが広がっていく。

 あわてて、逃げ出す三人。
「あんたね。バカじゃ無い。あんなところで大声で」
 翠に怒られる。

「説明しても、二人とも、聞いてくれなかったからじゃ無い」
「いや、あんたの言った言葉。どう聞いても被害者だから。『私が悪かったの、彼は悪くない』それを聞いて、どう思うよ?」
 聞いても、よく分からない。
「私が悪いのよ? でしょ」

 それを聞いて、翠がため息を付く。
「客観的に聞けば、かばってる以外に、聞こえないわよ」
 そう言いながら、翠の興味が蒼を捕らえる。

 そう。翠は性格が悪く。
 人の物は気になり、味見をするタイプ。
 料理でもそう、一人前はいらないけれど、ちょっと味は見たい。
 それが、物によっては、大きなダメージになることを、彼女は理解できない。

 考えてみよう。イチゴショートのイチゴだけを取られる。
 その後は、三日間。葵は翠と口をきかなかった。
 サンドイッチの、付け合わせのパセリの時は、葵は文句も言わずニコニコしていた。
 だが、別の日。
 緑沙のパセリを取ったときには、危うく殴り合いになりそうになって、新たにサンドイッチを購入した。

 周りのみんなは、最初っから買えば良いのに。そう思った。

 それさておき、翠は知ってしまった。蒼が美味しいかもしれない。

 そしてその行動は早かった。
 

 一方、蒼も葵の事を思い出していた。
 くすぐったがりで、反応がかわいい。
 少し、抜けている感じや、防御力。まあ脇が甘いが、それもチャームポイントと言えばいえる。
 前の彼女は、するならさっさとしてというタイプで、まともにふれあいもなく。つまり、前戯をさせてくれず。痛いだのどうだと、触られるのが気持ちが悪いというタイプだった。
 まあそれで、マッサージとか色々覚えたが玉砕。
 その割に、私のことを好きと会うたび聞かれる。

「前は好きだったけど、もう良い」
 とうとう。言ってしまった。

 帰ってきた言葉は。
「そう。やっぱりね」
 だった。

 訳が分からなかった。
 だけど、次の日には、別の男と腕を組んであるいていたから、実質振られたのは自分なのだろう。
 蒼は思い返す。

 それと、比較してはいけないが、どこかのキャラクターのように、ふにゃふにゃになっていく葵。見ていて、触れて、楽しかった。
 契約がもどかしい。
 恋人なら、毎日でも会いに行くのに。

 そんなとき、翠に呼び出される。
「先日ぶり。元気だった?」
「ああ。そうだね。この前よりは、元気だよ」
「あらっ、それは葵のおかげかしら?」
「それもあるね」
「葵も元気そうだったわ。一時期はひどい顔をしていたし。お礼もかねて、少しお付き合いくださらない?」
 そう言いながら、そっと俺の手の上に、手を添えてくる彼女。

 彼女の友人だし、無下にも出来ない。
「良いですよ。食事に行きましょう」
 一瞬、彼女。葵に連絡と思ったが、それもおかしいかと、書きかけたメッセージを削除する。


「こんな店、来たことがないよ。高くない?」
 ちょっと良い。ホテルのレストラン。
「うちの親が、私の様子を見に来た時に使うところなので、ここなら慣れていて。私も他のイタリアンとかフレンチだと、ちょっと身構えるわ」
 そう言って、微笑む彼女。

 彼女が、トイレで席を外したときに聞くと、七千五百円することを聞いた。
 コースの値段としては不明だが。好きで食べている、近所のラーメンと半チャーハンセットが、ほぼ十日分になる。うーむ。
 この時、飲んでいたワイン代と、アルコール濃度を考えていなかった。

 そして、ちょっと酔っ払う。
 ワイン。最初が料理に合わせて赤。
 途中で、彼女が甘いのが欲しいと、白を注文。
 そして、貧乏性な俺は、両方飲み干してしまう。

 食事が終わって、エレベーターへ。
 下じゃなく、上に上がっていく。

 ドアが開き、違和感を覚える。
「あれ?」
「どうしたの? こっちよ」
 彼女がスタスタと、歩いて行く。

 当然途中で気がつく。
「あー悪いが、帰る」
「えー。もったいないじゃない。あそこのレストランを使うには、宿泊しないと駄目だったのよ。それに、宿泊代に食事代合わせると、六万円から七万円もかかっているのよ。ねっ。もったいないでしょ」
 彼女の、目線と言い回し。
 帰るなら。お金を出してねと、言わんばかり。

 今、手持ちには、一万数千円。
 六万円から七万円を払えば、今月はかなり厳しいことになってしまう。
「ねえ。何をためらっているのか、知らないけれど。葵と付き合っている訳じゃないのでしょ。じゃあ良いじゃない。お試し。ねっ。満足させてくれたら。今日の分私のおごり。どう?」


 そして俺は、誘惑? に負けた。
 だが彼女。
 慣れた風を装っていた割には、あっという間に意識を飛ばしてピクピクし始めた。

 だが、翌日。
 翠は葵に宣言する。
「彼って素敵」
 へらへらと、笑いながら彼女は言ったらしい。

「なっ、なんで」
「え~。気になったからお誘いしたの。とっても素敵だった。ずるいわ葵。あんなに素敵な人だと黙っているなんて。私告白してみるわ」
「駄目よ」
「どうして? 付き合っている訳じゃないのでしょ。あなたたちの関係も、私はやめろとは言わないわ」
 そう言って、ふふんと言う感じで笑う。

「それはそう。だけど」
 口ごもっている間に、翠はどこかに行ってしまった。
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