泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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葵と蒼 ばっど

第4話 契約

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 お風呂から出て、体を拭き。髪を乾かして貰っている間に、ふと見ると、脱いだ服が畳まれていた。
 何者こいつ。

 まあ無論。今は着ることもなく。
 彼に運ばれる。
 風呂上がりのチューハイがうまい。
 いつもより、しみる。

 すっかり倦怠感が体を包む。
 マッサージか、エッチの効果か?

「体は、大丈夫?」
「あーうん」
 そう答えると、彼からの答えは、予想外。

「首から肩。ガシガシだったよ。あれなら、頭痛とかもあったんじゃない?」
 そう言われて、この、一月。
 あいつのせいで、背中が曲がっているだ、歩き方がどうだとか、色々いわれて。
 自由な気分になったのは、今日が初めてじゃ無いかしら。
 でも、そう言われると、今は凄く首が軽い。

「もう少し、マッサージしようか。ゆっくりね。あんまりすると、揉み返しでしんどくなったり、熱が出たりするから」
「あーうん。でも良いの? 私ばっかり」
「大丈夫。マッサージしがてら続けるから」
 そう言って、ニコニコ笑うこいつが、なんとなく悪魔に見えた。

 ベッドに寝転がり、バスタオルを掛けた状態で、首から肩。腕と揉まれていく。
 少しこそばいが、脇や、肩甲骨。その辺りを念入りだけど軽く。

 首や肩が、暖かくなり、こわばりがなくなったのが分かる。

 ころりんと、仰向けにされ、首から鎖骨。
 鎖骨の下、胸の上をおさえ逆側に顔を背中側にそらしたときは、首の横が痛かった。だが、これが、首のこりに影響を与える胸鎖乳突筋という筋肉らしく、痛いといっても許してくれなかった。
 
 そして、そこからは、マッサージなんだか、エッチなんだかよく分からない。
 分かったのは、各関節の可動域が広がったのは間違いない。
 そして、微妙な痛みとエッチは癖になる。
 
 そしてお尻で、私の筋肉をこいつはコントロールしていたようだ。
 指で触ると、反射的に閉まるらしい。

 結局ゆっくりと二時間くらいマッサージ? をしてもらった。

 そして朝。お腹周りもマッサージを受けたせいか、トイレから出られなかったし、きっと全部出た。ストレスから、便秘にもなっていたのがきっと消滅した。

 彼が作った朝食を食べながら、体の軽さを実感する。

 報告すると、良かったねとニコニコ顔。
 二人とも。今はまだ、付き合うのは面倒だからと。言い方は嫌いだが、セフレで契約。
 双方共にしたいときはする。片方だけなら我慢。
 そして、お互いに束縛はしない。
 そういう契約。

 ほとんどは、私からの意見だが、彼は軽く。それでいいよと言ってくれた。
 無論どっちかに好きな相手が出来れば、契約解除。
「よし、これで良いかな」
 そうこの時に、相手が好きになったときはどうするとか、入れていなかった。
 そしてそれが、後になると、すごく言いにくいことも。知らなかった。

 言ってしまって、関係が壊れたらどうしよう。本気で、好きになればなるほど、言えなくなる。言わなければ、とりあえず体の付き合いが続く。続けることが出来る。それがどんなに辛いことか。私は、知らなかった。愛してほしい。その一言が。それがどれだけ重いのか。私はおバカだった。

 私は彼と契約をして、足取り軽く。
 一度家に帰り、着替えて大学へ向かう。

 いつものように、安田翠と北川緑沙にあう。
 昨日の顛末を語り合う。
 緑沙は、途中まで須崎君と一緒だったが、彼の軽さと、いい加減さを見ていたので、そそくさと、帰ったようだ。

 一方翠は、ひょっとしたらと考え、横波とホテルに行ったようだ。
 結果。翠からの横波の評価は、「猿ね。人間に進化してから誘ってほしいわ」と言うものだった。
「あの二人のお仲間だけど、檮原君はどうだったの? 寝たんでしょ」
「あーまあ。うん」
 翠の目が光る。

 私は語り始める。
「しいて言えば、彼は人間ね。天使と悪魔が明確に同居している。人が痛いからやめてと言っても、(足裏マッサージ)やめてくれなかったし、此処かいって聞きながら、痛いところばかり攻めるのよ」
「彼ってSなの? そうは見えなかったけれど」
「うーん。Sとかの括りよりは。快楽主義者?」
 マッサージもエッチも気持ちよかったし。

「よく分からないわね。一度試してみようかしら?」
 翠がそう言ったときに、やっと私は、私の胸に痛みと、彼を渡したくない。その気持ちがあることを理解する。どれだけ鈍感なの。
 私の心も体も、昨夜から、彼にすがりついていたじゃ無いの。

 そう、文字通り一発で、彼に落とされていた。
 その事を、友人の一言で、やっと自覚する。
 今の契約では、彼女の行動を止める。私にそんな権利はない。

「あっ」
 それに、気がついた私は、不覚にも泣いてしまう。

「そんなに、ひどかったの? DVで相談でもしにいく?」
「違うの。私が悪かったの」
「これは重傷ね。緑沙。カウンセリングルームと学生課どっちが良いと思う?」
 それを聞いて焦る。彼に迷惑が掛かる。

「やめて。彼のせいじゃなくて、悪いのは私、私が鈍感でとろくさいから」
「あんた。鞭うちでもされたの? そんなに必死になって」
 そうして私は、学生課に向かい、二人に引きずられ、連れて行かれる。

 ――蒼、ごめんなさい。私は無力だわ――
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