泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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穂とめぐみと和音 はっぴいと?

第4話 和音と喫茶店

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「あれが歌えるなら、凄い」
「凄いけれど、完全に目を付けられちゃった」
 そう言って、ため息を付く彼女。

「許可は取らないの?」
「手数料が掛かるし、何より歩道が狭いから、人が集まるとじゃまだとか言って、降りないのよ。そんなに人が集まるなら、箱を借りるわよ」
 そう言って、口を尖らせる。

「もう大丈夫かな? はい大事なもの」
「あっサンキュー。投げ銭もありがとね。深瀬くん」
「んっ。なんで名前?」
「えっ。そりゃ大学の同級生だし。よく目が合うし。気になるじゃない。んで、連れに、あれだあれって聞いて。迷惑?」
「いや。かまわない。こっちも気になっていたし」
「それってどういう。えっと、方向としては? 」
 そう聞かれて、言葉につまる。
「内緒だ」

 昨日まで、いや今朝までなら、君に興味があるとか言えたが、今日のめぐみちゃんとの事。キスしたし。挨拶だけとは思いたくない。

「まあ良いわ。今日はやめ。ご飯食べた?」
「いや。晩飯はまだ」
「じゃあ行こう。せっかくの運命的出会いだし」
 そう言って、手を繋ぎ、走り出す。
 ええそう。躊躇無く走るが速い。

 ちょっとしたマラソンを終えて、たどり着いたのは、昼前に入った喫茶店。
「あら?」
 俺の顔に、気がついたのか彼女が聞いてくる。
「家の店。知っていたの?」
「知らなかったけど、今朝来た」
「へーなんか、凄い偶然」
 また手を引かれながら、中へ入る。

「ただいま」
 そう言って。
「あらお帰り。早かったのね」
 出るときに、よろしくと言っていた人。お母さんかな?
「もうだめ。すっかり目の敵。出るとすぐ、追いかけられる」
「そうなの」
 そう答えながら、お母さんは俺を見ている。

「今朝ぶりです」
「あっ。やっぱり。でもあれね。娘の彼としては、感心しないわね」
 そう言って腕組みをして、こっちを睨む。

「えっいや、すいません。でも、辻田さんとは付き合っているとかじゃなくて」
「和音。違うの?」
「えーまだ全然。でも今日助けて貰ったし、連れてきたの。まだだって言うから、ご飯でも食べようって」
「そうなの。でも駄目よ、彼女が居るのにふらふらしちゃあ。確かに和音はかわいいけどさあ。別れた旦那を思い出すわ」
 そこまで言って、真面目な顔になる。お母さん。


「んー。ねえ。君」
「深瀬くん」
 奥から、和音の合いの手が入る。
「深瀬くん。今朝連れていた子、名前を聞いてもいい?」
「あー。はい。岸田めぐみちゃんです。と言っても、今朝会ったばかりですけれど」
 そう聞いて、お母さんの顔がやっぱりという顔になる。

「今朝見たとき。そうだと思ったのよね。しかしなんとまあ。運命というか巡り合わせというか」
 そう言って、ため息を付く。

「まあ座りな。ナポリタンならおごってあげる。娘達がお世話になったお礼だよ」
 よく分からないが、席に座る。

「よっ。さっぱりした」
 彼女は、走って汗をかいたせいか、化粧を落とし、すっぴん?になっていた。
 眉を整えているせいか、眉が薄いが、よく見ると、本当に顔が似ている。
「うん? どうしたの。ああごめん化粧落としたから、顔が分からなかった?」
 おどけて、そう言って笑う。

「ああ。いや違う。今朝知り合った子と、顔が似てるなと思って」
「今朝知り合った?」
 お母さんがやってくる。

「ほい。ブレンド。あの子はめぐみ。お姉ちゃんだよ」
 コーヒーのお礼に頭を下げて。言われた言葉に驚き声が出る。
「「えっ」」
 彼女と声が、そろってしまった。

 俺と彼女が、同時に驚く。
「知り合いなの?」
 彼女が聞いてくる。

「あーまあ。今朝、知り合った」
「けさあっ」
「あーうん。それでまあ、話をするのに、この店に入って」
「何その、偶然。いやご都合な展開。それで、どんな感じなの?」
 そう言って、ずいっと寄ってくる。

「えっ?」
「お姉ちゃん」
「ああ。かわいいよ。ちょっと、変わっているけど」
「変わっている?」
 いきなり、彼女の顔が怪訝そうな顔になる。
 そういえば写真と、シールがある。

 そう思って、写真を見せる。
 背景は、この店の背もたれだから、今とほとんど変わらない。
 彼女に見せる。

「ほら。今朝撮った写真」
「なんで、右と左?」
「どっちの顔が、好みかって」
 ふーん。
 すると、いきなり写真を撮り始める。
 やることが似てるな。

「うーん。自分で見ても、似ているか」
 どうやら、鏡代わりに使ったようだ。

「お姉ちゃんの、写真頂戴」
「じゃあ、登録をしようか?」
「おっ。家族以外。初めての登録者。」
「そうなの? 和音。あっいや。つじ」
「和音で良いよ。此処、辻田ばかりだし」
「ああ。そりゃそうだ。じゃあ。しかし意外だな。和音ってモテそうなのに」
 そう言うと、嫌そうな顔になる。

「いやあ。小学校、中学校。高校とまともな友達居なくて。母子家庭っていじめられるのよ。さすがに、大学じゃ表立って言う奴はいないけど」
 そう聞いて、一瞬固まってしまった。

 そりゃそうだ、向こうが父子家庭なら、こっちは母子家庭だ。
「まあ、それはそれは、和音の初めてか。いいなあ」
 そう言うと、ぼっと赤くなる。
「なんか言い方。まあ良いけどさ」
 そうして、連絡先を交換する。
 当然のように、写真を撮られる。

「離れて暮らしても、やることが一緒だな」
 つい言ってしまう。
「そうなの? 一卵性だから、基本おんなじ人間だし、そうかもね」
 そう言って、彼女は嬉しそうに笑う。
 思わず。俺も、和音に向けシャッターを押した。
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