泡沫の夢物語。-男と女の物語。短編集-

久遠 れんり

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穂とめぐみと和音 はっぴいと?

第2話 他愛ない話

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「子供の頃に、好きだったんですよ。お店に行くと必ず頼んで、アイスを妹と奪い合いして」
 そう言って微笑む。
 かわいい。

「妹さんがいるんだ」
「ええ。正確には、母が連れて行ったので。居た、ですけれど」
「あーごめん」
「いえ。実は私、双子で。妹は、かずちゃんていうの。あっ、です」
「そうなんだ」
 うーん? かず? あの子は和音(かずね)だった気が。
 顔が似てて、名前まで。いやまさか。

「ブレンドと、クリソ。お待たせ」
 テーブルの上に、並べ。
「ごゆっくり~」
 そう言って店員さんが帰っていくが、なぜか、彼女の顔をガン見していった。
 店員さんと言っても、小学校高学年か中学生っぽい。
 家族経営で、お手伝いか。

 彼女は、すでにクリームソーダに目が釘付けで、気がついていない。

「おいしい?」
 思わず聞いてみる。
 彼女は話をせず、すでに夢中になって、アイスを突っついている。
「あっ、一口食べます?」
 にこやかに、スプーンを突き出してくる。

 思わず、口を開ける。
 うん。冷たくて甘い。

 うん。疑問に思ったんだよ。
 躊躇無く、俺の口に放り込んだ後。彼女ははっとした顔でスプーンを眺めている。
 少し悩んだ後、何故かスプーンを咥える。
 見なかったふりをして、話を振ってみる。

「お父さんてさ、お酒を飲む人?」
 ニコニコしている彼女が、声をかけられて我に返る。
「えっはい。飲みます」
「それなら、ビール用のジョッキとかタンブラーはどう?」
 彼女は、何の話という感じだが、思い出したようだ。

「あっ。そう。そうですね。そういうものなら、使ってくれるし、じゃまにもならないかな? 穂さん。あっ深瀬さんはお酒飲むんですか?」
「穂で良いけど、俺まだ18歳だから。老けて見えるのかな」
 そう言ってすねてみせる。
「あっいえ。そういえば、同級生だって言っていましたよね。落ち着いた感じなのでつい」

「だから、まあ飲めないけど、食事くらいならいつでも誘って」
 そう言うと、笑顔になり、スマホが出てくる。
「お父さん以外の、初男性登録です。あ、写真撮って良いですか」
「えっ」
 その時にはもう撮影の、音が聞こえる。
「今度は、ちょっとあっちを見てください」
 さっきは、右側だったので、今度は左側が撮られる。

「やっぱり、左の方がやさしい」
「そういえば、顔って右左で違うんだったっけ」
「そうです、習慣で変わるらしいですね。脳の影響とも言いますけれど。ですので、嘘をつくと、左の顔に出るんですよ」
 そう言って、じっと見られると照れる。

「そうだ、じゃあ僕も撮らせてもらおう」
「えっ。こんな格好だし、恥ずかしいです」
「いや、撮っておかないと、また誰かと、間違えちゃいけないから」
 彼女の左の顔を撮り、確認する。

「どっちを見ても、優しそうだけどね」
「それが、半分で割って同じ顔を付けると、顔が変わるんですよ」
 そう言って、WEBページを見せてくれる。

 そこには、正中線で顔の画像を割り、反対側に反転した写真をくっ付けて顔にしたものがあった。
「大分違うけれど、うーん。これは好みかな」
「私はどうですか?」
「右の方が優しいとかって、いう風に書いてあるけれど、どちらもかわいい。うん、どっちも好きだね」
 そう言うと、また、てれっとなるが、ふと何か気がついたのか聞いてくる。
「その、えっと穂さんて、妹さんかお姉さんがいらっしゃるとか?」
「いないよ。どうして?」
 すると、うつむいて少し悩む彼女。

「あのー。怒らないでくださいね。なんだか、女の子の扱いに慣れているというか、記憶の中で、中学生の時までしかないんですけど、男の子ってかわいいとか、そう言う言葉言わない記憶があって」
「まあ。そうなのかな。家は素直に言わないと怒られたから、母さんが面倒で。おっと」
 つい口を押さえる。

「それと、高校生1年までくらいは、照れて素直に言えなかったな」
 ちょっと、自分の過去を思い出す。

 過去形で、言ったのに気がついたのだろう。
「言えなかったということは、それで失敗をしたという事ですね」
 彼女はかけていない、めがねの蔓を押し上げるような仕草をする。
 しかも前のめりで。

「お姉さんに、言ってみなさい」
「いや、歳同じだし、聞いてもつまらない話だよ」
「つまるかつまらないかは、私が決めます」
 おお。地が出てきたのか、結構ぐいぐいくるな。

 そうして、中学校の時に、付き合い始め。高校で別れた彼女のことをばらした。

「やっぱり。慣れていると思ったら、経験者でしたか」
「なんだか、ごめん」
「いえ、良いです。これからの初めてを、積み上げていきましょう」
 そう言って、彼女が、伝票を持って立ち上がろうとする。
「あっ。だめだよ」
 すっと掴みに行って、彼女の手を掴んでしまう。

「あっ」
「ひゃう」
「ひゃう?」
「あっいえ。でっでも誘って、お願いしたのは私ですので、ここはお任せくだされ」
「お任せくだされ?」
「いや、大奥が」
「大奥?」
 口を押さえて、彼女は赤くなり。いやいやをする。
 いや伝票を取って、払ったけど。
 もう完全に、耳まで真っ赤。

 喫茶店の店長さんかな、家の母さんくらい。凄くにこやかに見送ってくれた。
「よろしくね~」
 そう言って、頭で下げてきた。
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