神の都合と俺の都合

久遠 れんり

文字の大きさ
上 下
37 / 55
第二章 異世界暮らし

第37話 なにか

しおりを挟む
「ぬっ、ご神木がザワついている」
 昼になって、急にご神木に変化が起こる。

 だがそれがどんな意味を持つのか、私には分からなかった。
 まだ、巫女となり二百年、まだまだ未熟。精進をせねば……


 そうそれは、俺達が精霊国に入った頃。
 俺は、途中で空気感が変わったのを感じていた。
「この国自体が、聖域になっているな」
「ええ、空気感が気持ちいいわ」
 八重と二人、そんなのんきなことを言っていた。

 だがその時、ご神木。
 つまり世界樹は焦っていた。

 何かが来た。
 神気を纏い、光を放つ。
 ご挨拶に向かうべきだろうか……
 周囲では、ドリアード達が命令を待っている。

 その頃、この世界の天上界では、じじいもどきが焦っていた。
 あの男、今なら分かる。
 思っていたより、ずっと高位の存在じゃった。
 そして、傍らの娘…… なんであんな存在が。
 ひょっとして、わし、罰せられるのではないか?
 そんな事を考え、ストレスで、寿命が数京年縮むじじいだった。


「何処まで行っても森だな」
「ああ、つまらん」
 竜司達はぼやいていたが、普段ここには霧が立ちこめた結界内。
 周りの景色に変化はなく、本来招かれない者達が迷う森を普通に歩いて行く。

 本当なら立ち塞がる木々が、俺たちの前で、森が勝手に開き導かれていく。

 多分その光景を見れば、精霊族、森の民は驚いただろうが、まだもめていた。

 
 その辺りから、魔人国にある神木も妙な挙動を始める。
 今は、陰と陽という感じで一対の神木。
 本来は、両方とも聖なる樹であった。
 それがいつの頃からか、よどみ。良くないものを吐き出す樹となった。

 その影響を受けて、森の民が魔人族へと変化をした。

 そうすべては、じじいの所為。

 時空をゆがめ、魂を盗み世界を渡らせる、その所為で歪みよどんだしわ寄せ。
 禁忌は、意味があって禁忌と呼ばれる。

 精霊国の白き民と、魔人国の黒き民。
 その歴史は、かなり長くなったいた。

 獣人から素直さが消えるくらい。


 途中、精霊国には村もなく、ひたすら持って来た食料を食い潰す。

 誰かが言った。
「全くこの森、果物すらねえな」
 その瞬間、なぜか木が生え、実が成る。
 そんな早送りのような非常識を皆が見つめる。

「これってリンゴかな」
 見た感じ、シナノゴールドのような黄色いリンゴ。
 ナシとは肌の具合が違う。
 種類的には同じバラ科だが、ナシは呼吸のための穴が潰され斑点模様ができる。
 リンゴは、ワックス成分があるため磨けばテカテカになる。

 沙織は、しっかりしているようでおまぬけ。
 いきなりちぎると、磨いて食べ始める。

「委員長…… あー大丈夫そうか?」
「あーうん。りんごだよ。甘くて美味しい」
 皆ドン引きである。

 どう見たって、怪しい光景。
 それをものともせず、手を伸ばし囓る。

 きっと食の歴史は、彼女のような人間が作ってきたのだろう。

 食べ始めるのを見て、周囲でまた木々が生え始める。

 ただまあ、何でもありで、広葉樹ぽい樹に葡萄はなるし、イチゴのようなものまで。

 ただ、安全なのは分かったので、皆大はしゃぎとなる。

 その様子を見て安堵するご神木の精霊。

 うむうむと頷く。

 そんな事は知らない森の民達。
 ご神木がザワついているのを、ただ不安に思っていた。

「長老、これは一体?」
「さあな、千年近く生きておるが、こんな事は初めてじゃ。おおお、森が騒いでおる、何か恐ろしいことでも起こる前触れかぁ」
 そんな事を言ってしまった。

 当然、村人達はそれに備えることになる。
 神木の思いと真逆。

 そんな所に近付く皆。

 そして、出会ってしまう。

「貴様ら何者だ、どうやってここへ来た」
 一斉に、周りを囲まれて弓を向けられる。

「単なる旅行者だ、敵意はない」
 両手を挙げながら、武神が宣言をする。

 だが周囲のザワザワ、神木の喜びが民を不安にさせる。

「あっ」
 誰かが、引き絞っていた矢を放ってしまう。

 その瞬間、精霊が姿を現すが、実体がないため矢は突き抜ける。

「だあ、あぶねえ」
 悠人は、スパッと掴み損ねる。
「あれ?」

 胸に突き刺さった矢。

 その瞬間、場に緊張が広がる。

 空気は、粘りを持ち重くなる。
 質量が変化したようにずっしりと。

 常春のような気温感で、喜びを表していた周囲から、温度が抜けるように気温が下がる。

 木々のざわめき、その種類が変わった。
「悠人」
「悠人くん」

 やばっという感じで精霊がちかよってくるが、八重の怒りに触れはじけ飛んでしまう。

 周囲にはドリアード達が現れ、民に向かって手を広げる。
 そう、悠人達を守るように。

 そして、巫女であるバルブロ=イサベレ=アマンダ=アルヴィドソンに神木からの悲しみが流れ込んでくる。
「これは、一体何をしたの?」
 あわてて走り出す。

 村人達は困惑をしていた。
 彼らを守るドリアード達。
 めったに姿を見せないが、ご神木の使いということは知っている。

 皆が長老を見る。
 重い空気、矢が刺さり普通に立っている男。
 守るドリアード達。
 散っていたが、再び現れた精霊。

 走ってきた巫女。
「その人達を攻撃してはだめ」
 そう叫んで、矢の刺さった男を見ると、呆然とする。

 武神達は、巫女の格好を見て言い始める。
「痴女だ……」
 彼女は、樹と繋がるために、なるべく薄着。
 見せたいわけではないが、臼衣の巫女装束で透けて見える。

 「痴女じゃない……」
 彼女は、赤くなって叫ぶ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界の剣聖女子

みくもっち
ファンタジー
 (時代劇マニアということを除き)ごく普通の女子高生、羽鳴由佳は登校中、異世界に飛ばされる。  その世界に飛ばされた人間【願望者】は、現実世界での願望どうりの姿や能力を発揮させることができた。  ただし万能というわけではない。 心の奥で『こんなことあるわけない』という想いの力も同時に働くために、無限や無敵、不死身といったスキルは発動できない。  また、力を使いこなすにはその世界の住人に広く【認識】される必要がある。  異世界で他の【願望者】や魔物との戦いに巻き込まれながら由佳は剣をふるう。  時代劇の見よう見まね技と認識の力を駆使して。  バトル多め。ギャグあり、シリアスあり、パロディーもりだくさん。  テンポの早い、非テンプレ異世界ファンタジー! *素敵な表紙イラストは、朱シオさんからです。@akasiosio

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ

トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!? 自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。 果たして雅は独りで生きていけるのか!? 実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

処理中です...