神の都合と俺の都合

久遠 れんり

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第一章 召喚

第1話 いい加減な世界と、お願い

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 異世界召喚された。
 クラス三十六人。

 俺は面倒だったので、少し離れた所に座り込み、騒ぎまくってスキルだか、能力だかを貰って嬉しそうな奴らを見送っていく。
「はーい。力を受け取った方は、こちらの魔法陣に乗ってください」
 バニーなお姉さんに案内されて、次々に奴らは消えていく。

 はっきり言って、クラスの連中とはあまり関わりたくはない。
 家は、武道場を営んでいるが、はっきり言って危ない類い。
 昔の戦国時代から続く暗殺術を、親父からたたき込まれた。

 子どもの頃はうっかりと、クラスメートにそんな事を言ってしまい。見せろ騒ぎになった。少し技をかけたら、奴の脆い関節はペキッとかいって、小学生で停学になりそうになった。まあ義務教育では停学はなく自宅謹慎らしいが、友達同士でふざけていての怪我という事で収まった。

 まあそれ以来、クラスの連中とは距離を置いている。
 高校では、ついに名前を知っている奴は一人も居なくなってしまった。
 どこかの暗殺者よろしく、孤高の存在。
 それが俺だ……
 言い訳じゃ無いぞ。本当だぞ。

 連中から視線をそらすと、何処までも続く妙にふわふわした、床。
 雲に包まれたような白い空間。

 変なじいさんと、バニーガールなお姉さん達。
 天国にしてもおかしな所。

 おれは、霧霞 悠人きりがすみ ゆうと名前は目立たぬよう、ランキングを見てつけるらしい。思いとかそんなものは無いとのことだ。
 それなら苗字を変えろよと思うのだが、色々と面倒らしい。
 ちなみに親父の名前は、その頃多かったひろしだ。

 そして、しょっちゅう救急車が出入りする危ない屋敷。
 ご近所さんでは、危ない団体と勘違いをしている方もいるようだ。
 うろついている、怪しい顔のおっさん達は警察官とか、自衛官なんだよ。
 真逆なのに……


 まあそれは良い。
 騒ぎが終わるとバニーなお姉さんや、雲のような景色が一変。
 じいさんは、いきなり若くなり、大理石のような床に立っている。
 そう、白くふわふわな世界は、暗い世界に変わった。
 何か空間にモニターを浮かべて、じっと見ているようだ。
「やれやれ。終わったな。あの約定さえなければ…… 他の世界から魂を攫ってくるのは禁忌なのだが」



 昨今、じいさん姿が一人だと、相手にしてくれず。
 脅す手間が必要だからと、お姉さんを使ったり、一手間を加えているようだ。

「えーと俺は?」
 気が付いていないようなので、俺は神様の前へ行き聞いてみる。
「うおおぁ。なんだちみは」
「脅かしてすみません。ですが、奴らと同じです」
「うん?」
 空中に本が現れ、捲られていく。
「君は? だれ?」
「霧霞 悠人ですが」
「おらんのう」
「えっ……」

 色々あって、たのまれる。
 色々というのは、このオッサン、人の頭に手を突っ込みやがった。
 ふむふむ、おおっなんと、そうかそうかとなった。
「ならばたのもう。本来は禁止されておるのじゃ。君が彼らを殺し、向こうへ帰してやってくれ」
「はっ? 殺せ? 自分でやれや、じじい」
「今は若い。じじいじゃない」
「つまらん約束をして、理を曲げやがって」
「勇者召喚を、まさか何回も言ってくるとは、思わなかったんだもーん」
「もーんじゃねえぇ」
 そうして、うやむやの状態で俺は送られた。

 この野郎、大昔にまんじゅうが食いたくて、召喚陣を描いたらしい。
「神よお力を与えください」
 地上からのそんな願いに、お供えのまんじゅうで応えやがった。

「わしが、直接手を下すわけにはいかん。そうじゃな、と考えた末、余所から魂を借りてきたんじゃ。何、死ねば元のところへ戻る。向こうでは刹那の時間じゃ。ほら、これなら心も痛くないじゃろ」
 などと言って。

 だがしかし。
 この時の俺は思い出していなかったのだが、人には複雑な関係というものがある。
 俺は一般人ではなかった、このオッサンもそれが分かったのならすぐに俺だけでも帰すべきだった。
 今更遅いが、向こう側の管理者の一人。
 彼女が気が付いた。

 パニック状態で、彼女は考える。
 あなたは今、ここにはいない、でも、あなたは私の物だった……
 誰? 彼を、私の大事な彼を…… 攫いやがったのはぁ。滅してやる……
 地上で苦労しながら暮らす悠人を、モニターしていた女神が一人。
「ふふっ、また悩んでいる。楽しそうね」
 とまあ。そして、見てしまう。
 教室の床に浮かんだ魔法陣。

 美しい顔は、怒りに燃えると鬼神となるらしい。
 彼女は、地球側で魂消失に気が付いた。
 じいさん側の世界より、地球側が高位の世界。
 じいさん危うし……


 霧霞 悠人。実は死に神。
 本人は、生まれるときに死に、そのまま死産となる予定だった。
 だが、この仕事に疑問を持っていた俺は、その子の中へと入った。
 そのため、誰かの担当が増えただろうが知ったこっちゃない。

 死に神だって、死ぬときは死ぬんだ。
 ただ、俺としても、異世界への転移は予想外だった。

 そして、俺の死に神としての記憶は、人間へ入るときに封じてあった。
 寿命が尽き、正当な手続きで職務に戻れば、解放されるように設定してあった。
 そして今回、当然正当では無い。

 だから記憶が無いまま、俺は結局死に神の仕事をすると言うことだ、生まれついた星の定めだな。当然だが……

 人を殺すための力を貰い、俺は送り込まれた。
 そう、あの時躊躇をせず、一瞬で全員を殺せば、すぐに終わる話だった。

 みんながいた空間へ、わずかに遅れて俺は到着をした。

 そうそう、この時だよ。
 この時に殺せば、探し回ったり悩んだり、後悔したり。そんな事はしなくてよかった。

 そう神だって、プロットを考えずにいられて、楽だったはず。
 だけど、この機会に乗じて飛びついて来た一人の女の子により、俺は冒険をすることになってしまった。ぐにゅ? ふにょ?の感触に負けた。
 神よお許しください……
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