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第五章 ホミネス=ビーバレで再編は進む

第77話 駄目な物は捨てられる

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「今度こそ。目にものを見せてやる」
 メリディアム国の兵団。先頭の馬車で、アーラン=ヤッチマッタナー侯爵は微笑む。
 人数が増えても、有効な攻撃手段はないというのに。

 そして、隊列の後部。

「うん? おい、一般の徴兵達がいない」
「あん? 遅れているだけだろ。奴ら訓練もしていないし、ランヴァルド領へきたときにはバテバテだったじゃないか。その内追いつくさ」

 戦時脱走は懲罰対象。その責任は村へも及ぶ。一気に逃げたなど考えもしなかった。
 だが実際。貴族軍の兵達、その後ろには誰も居なかった。

 そして、そんな異変はメリディアム国王都。メドカプティスでも発生をしていた。

「なあ、人が減ったと思わないか?」
 町を警備する衛兵達が、周りを見回しながらつぶやく。

「出兵のせいだろう」
 もう一人の兵は、しらっとそう答える。

「それにしても。店はほとんど閉まっているし、ガキどもの声も聞こえねえ」
「平和で良いじゃ無いか」
 適当な答えを返す。

「そりゃ、そうだけどな」

 兵の一人は、その理由を知っている。
 もう一人の相方は、小さな権力を行使する小悪党で、計画からはそもそも除外され、誰からも声をかけられなかったようだ。

「後二日もすれば、避難は終わる」
「うん? 何だ」
「何でも無い。平和がいい」
 しみじみと、そうつぶやく。

 ランヴァルド領は、あの招待後。あっという間に変わった。
 店の品揃えは、コーガネーと遜色が無い。
 むろん、エルヴィーラ婦人はにっこにこ。
 領主の館も、ボロかったものが一夜のうちに建て替えられ、壁を擁した立派な要塞となり、隙間風もなくなった。
 当然風呂も完備。

「ねえ。あなた。実際にこの目で見ると精霊様の力。恐ろしいですわね」
「ああ。そうだな」
 侯爵は思い出す。


「これが、領主の館?」
「意外と、質素というか、ボロくない?」
 好実と美葉が、素直な感想を口にする。

「建て直すか?」
「ついでですから、よろしいですよ」
 伽羅から許可も出たので、こんな感じでと地面に図面を書き、侯爵に確認をしてもらう。

「一時的な、住まいの建築が必要だな」
 侯爵の頭の中で、予定が構築される。
 だが、ここに居るのは、非常識な連中。

 侯爵の考える、数年に及ぶ建築計画は、正式に動き出す前に不要となる。

 風の精霊である彩が手を振ると、視界の脇に使用人まで含めて小山ができあがる。
 そう。館の中身が、一瞬ですべて積み上がった。

 理由の分からない使用人達は、呆然とするしかない。

「いきますよ」
 そして、伽羅が声をかけ、次の瞬間には更地が出来る。
「なっ。屋敷が消えた」
 そうして、脇にかなり深そうな井戸が出現をして、その上部に魔道具が生える。

 下水用だろう。地面から土管が生えてくる。
 それに合わせて、壁が生える。
 建築という感じではない。
 地面から、建物や周囲を守る壁が、3Dプリンターで印刷を行う様に、積み上がっていく。

 当然、それを見守る侯爵や、家族。
 使用人達。
 全員口が閉まることが無い。
 ただ呆然と見つめるだけ。

 そうしていると、伽羅が突然聞いてくる。
「望。温泉があります。引きますか?」
「ああ。そうだな。成分が変化をしないように密閉状態で引き上げ、パイプには、湯ノ花が沈着をしないように、超振動の防汚処理をしておいてくれ」
「はい」

 そうして、町にも温泉は引かれて、掛け流しとなった。
 後にこれのおかげで、ランヴァルド領。いや、新王都ランヴァルドは温泉の町として有名になる。

 そう、メリディアム国は遷都をした。
「住人達もほとんどいるし、良いじゃん」
 そう言って、あっさりと決まった。

 そして旧王都では、「おかしい。住民どころか、兵士達まで居なくなった」そんな声が上がり始める。
 
「おい。一体どうなっておる?」
「不明です」

 残っているのは、リストに残る駄目な人たち。

 優秀な人たちはリストアップをして、順にご招待を行った。
 そこで、面会をしてさらに厳選。
 昼行灯だと思ったランヴァルド辺境伯だが、意外と人気は悪くなく。話はまとまるようだ。貴族の腹積もりでは、ぼんくらだから御しやすいとでも思っているのかもしれないが、その対応は、後々行おう。

 そして、久しぶりにメリディアム国の王城へと、足を踏み入れる。
「正面から来れば、こんな作りだったんだ」
「そうね。部屋と食堂。水浴び場と教会? 後恐怖のトイレ」
「結局一日も居なかったから、仕方が無いよ」
 そう言って、なんとなく見覚えのある中庭を横切る。

「少し離れただけだけど、こんなにボロかったっけ?」
 今回一緒に来た勇者くん。

「さあ。どうだろう?」
「言われてみれば、急激に寂れた感じがしますね」
 そして、クリスティーヌとマリー=アンジュもついてきた。
 むろん、クリスティーヌの装備は、我が国の最新式。
 魔法も剣も通さないが、見栄えにこだわったせいで、革製のロングコートに見える。
 
 コンピューターに支配された人々が、エネルギー源として仮想空間で生かされている映画の、レジスタンスのような出で立ち。

「ここまで来て、何ですが。大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だろう。わたしらも居るし。精霊様達もご一緒だし。そして、フレイヤ様までいらっしゃることだし」
 最後の詰めになって、機嫌の良くなったウーベル=ナーレ。

 元々この国のせいで、おとしめられ。危うく罰せられそうになった。
 ようやく大本が居なくなる。
 そして、初フレイヤ。
 暇だったようで、「行く」とその一言でついてきた。

 途中幾人か兵に会ったが、ランヴァルド辺境伯の顔は知っているらしく、どんどん進める。
 元々今残っている兵達は、仕事に熱心な者達は残っていない。

「さて、謁見の間。来るのは初めてだな。さてと、たのもー」
 そう言って中へ入ると、何故か中では、斬り合いが行われていた。

「あー面接で、落とした奴らか」
 行われた貴族面接。
 幾人かは駄目で、事が済むまで軟禁をしていたはずだが、抜け出したのか?
 それにしては、早いな。

「ふふっ。やっていますね」
 犯人はこいつのようだ。笑顔のフレイヤ。この世界の神。
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