75 / 118
第五章 ホミネス=ビーバレで再編は進む
第75話 初手
しおりを挟む
「それで、具体的にはどういたしましょう?」
「うん?」
昼間に婦人の買い物に付き合わされ、多少ぐったりした顔で、辺境伯が尋ねてくる。昨夜は昨夜で、お楽しみだったようだ。
二日目の晩餐会。
「まあ色々と手はあるけれど、戦争はしたくないよね」
「それは、そうでございます。これからの…… その、統治において、政変時に苛烈なことをすると、怨嗟を産みます」
「そうだね。特に、一つ始めちゃうと、延々対処なんていう事になる。すると時間も手間も掛かるから。今回の遠征。むろんそちらの軍だけど、まだ来るよね」
「あっはい。アーラン=ヤッチマッタナー侯爵は、今王都へ増援を求めに行っているようでございます」
「待機をしている兵達は、すでにいなくなっちゃたけどね」
辺境伯は、来るときの街道の様子を見た。
そう言えば、誰もいなかった。
「そうでした。一体どうやって?」
「うん? 疲れていそうだったから、招いて持てなしただけ。家族がいるなら連れておいでと、期限付きのチケットも配った」
それを聞いて、辺境伯は思い至る。
この人、すでに侵攻を開始している?
私は本当に必要なのか?
「それは国民すべてを、ミッドグランド王国の普通になれさせて、メリディアム国がいかに駄目かを、体験させる。そんな考えで、よろしいでしょうか?」
「まあね。人間、一度贅沢をすると、それ以下の生活には戻りたくなくなる様でね。俺達もこっちへ来たときは大変だった」
好実も昨日に続き、カニを咥えながら頷く。
此方側の、本日のメニューは、さっぱりカニしゃぶ。
対する辺境伯側は、欲張りプレート。
サラダとパン。スープ付き。
皿状の鉄板に乗せられ、まだジュウジュウと音を立てているのは、鶏のもも肉のステーキと、ソーセージにハンバーグ。
付け合わせに、ポテトフライや、にんじんグラッセ。
お子様達にも大人気。
いや、美味いしカニしゃぶを食べるかと、ものを見せながら聞いたら、家族全員が一気に二メートルほど下がった。見せるために覆いを取ったテーブルには、ズワイやタラバガニ? 見たいなカニが居ただけなのに、どうも見慣れないようで怖かったようだ。
辺境伯達は、何だあのモンスター。あんなものを食べるのか? 恐ろしい人たちだ。そんな感じで、食わず嫌いを発動をしていた。
ディッシュについている、サラダに入った赤いものは、カニの身なのだが。
「まあ順に考えてみて」
質問をされた辺境伯は、答えながら考えていく。
王都から増援。
兵を集める。どこから?
当然、貴族の私兵と、周囲の農民達。
食べる物資。つまり兵糧はどこから?
王都の商人と、周囲の農民。
そして貴族の備蓄。
武具の修繕や、装備の修繕のために、職人達も徴兵をされる。
「考えると、戦闘が始まらなくても大変だよね。王は直接出てこないから、分からないだろうけれど、関わる民達。その家族」
「はあ。それはもう。それが戦争でございますから」
その時、辺境伯は驚く。ソーセージの味に感動をしたようだ。
「今回の戦争。アーラン=ヤッチマッタナー侯爵の功名心だけだよね。そもそも、ミッドグランド王国へ使節団として先に来た、アスビョルン=オッデレータ侯爵の態度を見ると、此方側を属国だと考えている感じだったし、すべては其方が悪い。そこから始まった諍いだ。今戦争をして其方が勝てる見込みはどのくらいだと思う?」
そう聞くと、辺境伯は黙る。
すると奥さんは、よく分かっていないのか答えさせようと、辺境伯を突っつく。
「あーそうですな。どうひいき目に見ても。無理でございましょう」
すると奥さんが驚く。
「あなた…… それは」
幾ら何でもそれは、弱腰過ぎるのではと考えたようだが。
「あの壁を見たか?」
「ええ。はい」
傷のない、綺麗な壁。
「あれは、見た目の物理的なものだけではなく、魔法が掛かっておるとのことだ」
「魔法が?」
「そうだ。そして、ミッドグランド王国の、武器に耐えられるように造ってあるそうだ」
「はぁ」
婦人はそう答えながら、強調された言葉。ミッドグランド王国の武器という意味をくみ取れなかったようだ。
「つまり我が国の武器では、壁に触れることも出来ない」
「えっ。それはどういう?」
婦人は困惑をする。
「奥さん。この国と、そちらの国では、技術的な格差。つまり武器の強さが数百年くらい離れた感じで、こちらを一〇〇とすれば、そちらの王国は一〇くらいでしょうか?」
「はあ……」
「その強さでは、あの壁を覆っている、魔法のシールドを壊せない。むろん攻撃をされれば、こちらもやり返す。むろん放っておいてもいいが、商人達が困るしね」
そう言ってニコッと微笑む。
つまり、ミッドグランド王国としては、ひ弱な国など放っておいてもいいが、手を出してくるから、相手をする。
「こちらの攻撃力は一〇〇だとすれば、向こうはそれを防げない」
そこまで説明をすると、辺境伯が続ける。
「するとだ、一方的に攻撃を受け続ける状態。それは戦争ではなく殲滅だな」
そう言うと、婦人も理解できたようだ。
「安全なところからの、一方的な攻撃。我が国の兵は、単なる的でしょうか?」
「そうだね。それにそちらの盾は同等の武器に対するもので、こちらの攻撃の前には何の意味もない」
すると、婦人はガーンという感じで、面白い表情になった。
「どうして…… そんな国に対して、戦争を始めたのです?」
「王達が、愚かだからだよ」
辺境伯が、諦めたように言葉を吐く。
台詞を取られた望は、少しむっとしながら、言葉を続ける。
「うん?」
昼間に婦人の買い物に付き合わされ、多少ぐったりした顔で、辺境伯が尋ねてくる。昨夜は昨夜で、お楽しみだったようだ。
二日目の晩餐会。
「まあ色々と手はあるけれど、戦争はしたくないよね」
「それは、そうでございます。これからの…… その、統治において、政変時に苛烈なことをすると、怨嗟を産みます」
「そうだね。特に、一つ始めちゃうと、延々対処なんていう事になる。すると時間も手間も掛かるから。今回の遠征。むろんそちらの軍だけど、まだ来るよね」
「あっはい。アーラン=ヤッチマッタナー侯爵は、今王都へ増援を求めに行っているようでございます」
「待機をしている兵達は、すでにいなくなっちゃたけどね」
辺境伯は、来るときの街道の様子を見た。
そう言えば、誰もいなかった。
「そうでした。一体どうやって?」
「うん? 疲れていそうだったから、招いて持てなしただけ。家族がいるなら連れておいでと、期限付きのチケットも配った」
それを聞いて、辺境伯は思い至る。
この人、すでに侵攻を開始している?
私は本当に必要なのか?
「それは国民すべてを、ミッドグランド王国の普通になれさせて、メリディアム国がいかに駄目かを、体験させる。そんな考えで、よろしいでしょうか?」
「まあね。人間、一度贅沢をすると、それ以下の生活には戻りたくなくなる様でね。俺達もこっちへ来たときは大変だった」
好実も昨日に続き、カニを咥えながら頷く。
此方側の、本日のメニューは、さっぱりカニしゃぶ。
対する辺境伯側は、欲張りプレート。
サラダとパン。スープ付き。
皿状の鉄板に乗せられ、まだジュウジュウと音を立てているのは、鶏のもも肉のステーキと、ソーセージにハンバーグ。
付け合わせに、ポテトフライや、にんじんグラッセ。
お子様達にも大人気。
いや、美味いしカニしゃぶを食べるかと、ものを見せながら聞いたら、家族全員が一気に二メートルほど下がった。見せるために覆いを取ったテーブルには、ズワイやタラバガニ? 見たいなカニが居ただけなのに、どうも見慣れないようで怖かったようだ。
辺境伯達は、何だあのモンスター。あんなものを食べるのか? 恐ろしい人たちだ。そんな感じで、食わず嫌いを発動をしていた。
ディッシュについている、サラダに入った赤いものは、カニの身なのだが。
「まあ順に考えてみて」
質問をされた辺境伯は、答えながら考えていく。
王都から増援。
兵を集める。どこから?
当然、貴族の私兵と、周囲の農民達。
食べる物資。つまり兵糧はどこから?
王都の商人と、周囲の農民。
そして貴族の備蓄。
武具の修繕や、装備の修繕のために、職人達も徴兵をされる。
「考えると、戦闘が始まらなくても大変だよね。王は直接出てこないから、分からないだろうけれど、関わる民達。その家族」
「はあ。それはもう。それが戦争でございますから」
その時、辺境伯は驚く。ソーセージの味に感動をしたようだ。
「今回の戦争。アーラン=ヤッチマッタナー侯爵の功名心だけだよね。そもそも、ミッドグランド王国へ使節団として先に来た、アスビョルン=オッデレータ侯爵の態度を見ると、此方側を属国だと考えている感じだったし、すべては其方が悪い。そこから始まった諍いだ。今戦争をして其方が勝てる見込みはどのくらいだと思う?」
そう聞くと、辺境伯は黙る。
すると奥さんは、よく分かっていないのか答えさせようと、辺境伯を突っつく。
「あーそうですな。どうひいき目に見ても。無理でございましょう」
すると奥さんが驚く。
「あなた…… それは」
幾ら何でもそれは、弱腰過ぎるのではと考えたようだが。
「あの壁を見たか?」
「ええ。はい」
傷のない、綺麗な壁。
「あれは、見た目の物理的なものだけではなく、魔法が掛かっておるとのことだ」
「魔法が?」
「そうだ。そして、ミッドグランド王国の、武器に耐えられるように造ってあるそうだ」
「はぁ」
婦人はそう答えながら、強調された言葉。ミッドグランド王国の武器という意味をくみ取れなかったようだ。
「つまり我が国の武器では、壁に触れることも出来ない」
「えっ。それはどういう?」
婦人は困惑をする。
「奥さん。この国と、そちらの国では、技術的な格差。つまり武器の強さが数百年くらい離れた感じで、こちらを一〇〇とすれば、そちらの王国は一〇くらいでしょうか?」
「はあ……」
「その強さでは、あの壁を覆っている、魔法のシールドを壊せない。むろん攻撃をされれば、こちらもやり返す。むろん放っておいてもいいが、商人達が困るしね」
そう言ってニコッと微笑む。
つまり、ミッドグランド王国としては、ひ弱な国など放っておいてもいいが、手を出してくるから、相手をする。
「こちらの攻撃力は一〇〇だとすれば、向こうはそれを防げない」
そこまで説明をすると、辺境伯が続ける。
「するとだ、一方的に攻撃を受け続ける状態。それは戦争ではなく殲滅だな」
そう言うと、婦人も理解できたようだ。
「安全なところからの、一方的な攻撃。我が国の兵は、単なる的でしょうか?」
「そうだね。それにそちらの盾は同等の武器に対するもので、こちらの攻撃の前には何の意味もない」
すると、婦人はガーンという感じで、面白い表情になった。
「どうして…… そんな国に対して、戦争を始めたのです?」
「王達が、愚かだからだよ」
辺境伯が、諦めたように言葉を吐く。
台詞を取られた望は、少しむっとしながら、言葉を続ける。
0
お気に入りに追加
106
あなたにおすすめの小説
不遇幼女とハートフルなもふもふスローライフを目指します! ~転生前の【努力値】で異世界無双~
epina
ファンタジー
彼方高志(カナタ タカシ)は異世界に転生した直後に女の子の悲鳴を聞く。
助け出した幼女から事情を聴くと、家族に奴隷として売られてしまって、帰る場所がないという。
タカシは転生して得た力で、幼女の保護者になると決意する。
おいしいものをいっしょに食べたり、きれいな服を買ってあげたり。
やがてふたりはいろんな試練を乗り越えて、さまざまなもふもふたちに囲まれながら、のんびり旅をするようになる。
これはAIサポートによって異世界転生した男が、世界で一番不幸な幼女を、世界で一番幸せにするまでの物語。
伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です
カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」
数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。
ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。
「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」
「あ、そういうのいいんで」
「えっ!?」
異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ――
――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。
家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~
厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない!
☆第4回次世代ファンタジーカップ
142位でした。ありがとう御座いました。
★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。
どうやら異世界ではないらしいが、魔法やレベルがある世界になったようだ
ボケ猫
ファンタジー
日々、異世界などの妄想をする、アラフォーのテツ。
ある日突然、この世界のシステムが、魔法やレベルのある世界へと変化。
夢にまで見たシステムに大喜びのテツ。
そんな中、アラフォーのおっさんがレベルを上げながら家族とともに新しい世界を生きていく。
そして、世界変化の一因であろう異世界人の転移者との出会い。
新しい世界で、新たな出会い、関係を構築していこうとする物語・・・のはず・・。
転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~
ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。
異世界転生しちゃいました。
そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど
チート無いみたいだけど?
おばあちゃんよく分かんないわぁ。
頭は老人 体は子供
乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。
当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。
家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる