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第五章 ホミネス=ビーバレで再編は進む

第75話 初手

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「それで、具体的にはどういたしましょう?」
「うん?」
 昼間に婦人の買い物に付き合わされ、多少ぐったりした顔で、辺境伯が尋ねてくる。昨夜は昨夜で、お楽しみだったようだ。

 二日目の晩餐会。
「まあ色々と手はあるけれど、戦争はしたくないよね」
「それは、そうでございます。これからの…… その、統治において、政変時に苛烈なことをすると、怨嗟を産みます」

「そうだね。特に、一つ始めちゃうと、延々対処なんていう事になる。すると時間も手間も掛かるから。今回の遠征。むろんそちらの軍だけど、まだ来るよね」
「あっはい。アーラン=ヤッチマッタナー侯爵は、今王都へ増援を求めに行っているようでございます」
「待機をしている兵達は、すでにいなくなっちゃたけどね」

 辺境伯は、来るときの街道の様子を見た。
 そう言えば、誰もいなかった。

「そうでした。一体どうやって?」
「うん? 疲れていそうだったから、招いて持てなしただけ。家族がいるなら連れておいでと、期限付きのチケットも配った」
 それを聞いて、辺境伯は思い至る。

 この人、すでに侵攻を開始している?

 私は本当に必要なのか?

「それは国民すべてを、ミッドグランド王国の普通になれさせて、メリディアム国がいかに駄目かを、体験させる。そんな考えで、よろしいでしょうか?」
「まあね。人間、一度贅沢をすると、それ以下の生活には戻りたくなくなる様でね。俺達もこっちへ来たときは大変だった」
 好実も昨日に続き、カニを咥えながら頷く。

 此方側の、本日のメニューは、さっぱりカニしゃぶ。

 対する辺境伯側は、欲張りプレート。
 サラダとパン。スープ付き。
 皿状の鉄板に乗せられ、まだジュウジュウと音を立てているのは、鶏のもも肉のステーキと、ソーセージにハンバーグ。
 付け合わせに、ポテトフライや、にんじんグラッセ。
 お子様達にも大人気。

 いや、美味いしカニしゃぶを食べるかと、ものを見せながら聞いたら、家族全員が一気に二メートルほど下がった。見せるために覆いを取ったテーブルには、ズワイやタラバガニ? 見たいなカニが居ただけなのに、どうも見慣れないようで怖かったようだ。

 辺境伯達は、何だあのモンスター。あんなものを食べるのか? 恐ろしい人たちだ。そんな感じで、食わず嫌いを発動をしていた。
 ディッシュについている、サラダに入った赤いものは、カニの身なのだが。

「まあ順に考えてみて」
 質問をされた辺境伯は、答えながら考えていく。
 王都から増援。
 兵を集める。どこから?
 当然、貴族の私兵と、周囲の農民達。

 食べる物資。つまり兵糧はどこから?
 王都の商人と、周囲の農民。
 そして貴族の備蓄。

 武具の修繕や、装備の修繕のために、職人達も徴兵をされる。

「考えると、戦闘が始まらなくても大変だよね。王は直接出てこないから、分からないだろうけれど、関わる民達。その家族」
「はあ。それはもう。それが戦争でございますから」
 その時、辺境伯は驚く。ソーセージの味に感動をしたようだ。


「今回の戦争。アーラン=ヤッチマッタナー侯爵の功名心だけだよね。そもそも、ミッドグランド王国へ使節団として先に来た、アスビョルン=オッデレータ侯爵の態度を見ると、此方側を属国だと考えている感じだったし、すべては其方が悪い。そこから始まった諍いだ。今戦争をして其方が勝てる見込みはどのくらいだと思う?」
 そう聞くと、辺境伯は黙る。

 すると奥さんは、よく分かっていないのか答えさせようと、辺境伯を突っつく。
「あーそうですな。どうひいき目に見ても。無理でございましょう」
 すると奥さんが驚く。

「あなた…… それは」
 幾ら何でもそれは、弱腰過ぎるのではと考えたようだが。

「あの壁を見たか?」
「ええ。はい」
 傷のない、綺麗な壁。

「あれは、見た目の物理的なものだけではなく、魔法が掛かっておるとのことだ」
「魔法が?」
「そうだ。そして、ミッドグランド王国の、武器に耐えられるように造ってあるそうだ」
「はぁ」
 婦人はそう答えながら、強調された言葉。ミッドグランド王国の武器という意味をくみ取れなかったようだ。

「つまり我が国の武器では、壁に触れることも出来ない」
「えっ。それはどういう?」
 婦人は困惑をする。

「奥さん。この国と、そちらの国では、技術的な格差。つまり武器の強さが数百年くらい離れた感じで、こちらを一〇〇とすれば、そちらの王国は一〇くらいでしょうか?」
「はあ……」
「その強さでは、あの壁を覆っている、魔法のシールドを壊せない。むろん攻撃をされれば、こちらもやり返す。むろん放っておいてもいいが、商人達が困るしね」
 そう言ってニコッと微笑む。

 つまり、ミッドグランド王国としては、ひ弱な国など放っておいてもいいが、手を出してくるから、相手をする。

「こちらの攻撃力は一〇〇だとすれば、向こうはそれを防げない」
 そこまで説明をすると、辺境伯が続ける。

「するとだ、一方的に攻撃を受け続ける状態。それは戦争ではなく殲滅だな」
 そう言うと、婦人も理解できたようだ。

「安全なところからの、一方的な攻撃。我が国の兵は、単なる的でしょうか?」
「そうだね。それにそちらの盾は同等の武器に対するもので、こちらの攻撃の前には何の意味もない」

 すると、婦人はガーンという感じで、面白い表情になった。
「どうして…… そんな国に対して、戦争を始めたのです?」
「王達が、愚かだからだよ」
 辺境伯が、諦めたように言葉を吐く。

 台詞を取られた望は、少しむっとしながら、言葉を続ける。
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