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第四章 世界との関わり

第35話 クリスティーヌと日常

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「でっ、では。いざ」
 クリスティーヌは体を鼓舞し、何とか動かそうとする。

 だがイメージ的には、目の前に存在するのは、魔力と威圧の壁。
 無意識に、剣を寝かせて剣先を相手に向ける。
 小さな子どもの、あっち行け状態。

 左足がリードとして前に出ている。この状態からでは、突くか右手側に剣先を回転させて、右足を踏み込みながらの横薙ぎ。だが現在、左足が前なので、向こうからすると、自分の左側半分から攻撃が来ると読める。

 望は、さてどう来るんだろうと、相手の攻撃予測を脳内でシミュレーションを行う。魔力を錬り、身体強化を行う。

 だが、一向に来ない。
 力を抜き、動きが取れない方向。クリスティーヌが左前の半身に構えた状態なので、自分から見て左から右へ、相手の剣を払う。
 それだけで、クリスティーヌは剣を飛ばされ尻餅をつく。
 とっさに、剣先を向けると、完全に何が起こったのか分かっていない様子。

 何というか、俗に言う。くっころ状態。

「どうしたんだ? もう始まっているよ」
 そう言って、手を差し伸べるが、いやいやをして、手につかまろうとしない。

 仕方が無いので、剣を拾いに行く。
 さすが、伽羅が創った剣。刃こぼれもない。

 そんなのんきな事を、望が考えている頃。
 クリスティーヌは、自分がいま、魔王城へでも一人で切り込んで来ているのでは無いかと錯覚をする。
 そう。望が、魔王のように思えてならない。

 本物の魔王は、好実と一緒に見学をしているが、そんな事には気がついていない。
 ちなみに魔王は、先ほどの手合わせ。見ていてもよく分かっていなかった。
 相手の構えに対して、動きの取れない方へ剣を払ったのは分かった。

 脱力した普通の、何気ない動きの中で、流水が低きに流れるような自然な動き。
 常時あふれ出ている殺気は除き、本当に、自然に動き剣を払った。

 その動きに目を奪われ、気がつけば剣は払われ、クリスティーヌはその勢いで、尻餅をついていた。

 何だ。あの王の動き、緩やかで自然。
 目が引きつけられ、今回は剣が払われたが、いざとなれば払われるのは首だろう。
 王と対峙すると、気がつけば死んでいる。そんな、姿しか思い浮かばない。
 剣を扱うのは、初めてだと言っていたのに、あれは何だ? 何かの奥義か?
 そんな苦悶を魔王がしているとき、横では、好実の目がハートになっていた。

 あれって勝ったの? きっと勝ったのよね。状態。ミーハーな、にわか。
 
 その後、金属の剣は危ないし、身体強化もなしでやろうとなり、型から順に習う事に決めた。対峙すると、どうししてもクリスティーヌがくっころをするためだ。

 その剣技の中で、望はクリスティーヌの使う、王国の剣技を変化させる。力任せで直線の動きではなく円の動きへと形を変え。連続の流れの中で、切るときのみ力を加えるものへと変化させていく。その発想の元は、どこかで聞きかじった武道は円の動きが基本という言葉。元々は、動画配信で見た合気道だったが、その事は忘れていた。

 そして、扱うのに軽い、細身の剣へとリギュウムディでは、剣の形が変化する。
 ただ、その剣の制作者は、伽羅。当然普通ではない。

 王国のフルアーマーなど豆腐のように切れる。
 鞘まで切ってしまうので、握って魔力を通しているときのみ、力を発動するようにと注文を付けたが、相手は伽羅。

 切れない鞘を開発する。
 何でも切る剣と、その剣をもってしても切れない鞘。

 その鞘の材質は、分子構造が規則性を持っているから切れるのだと言って、ヘルスパイダーの糸をアモルファス化して、生地として編み込み。接合に殺人の木と呼ばれる最悪のトレント種。インスタモルテムと言う木の、レシナセと言う樹液を用いて固めたようだ。通常では近くに居るだけで即死する毒性を持つ。
 その樹液は、獲物に張り付くと取れない特性があり、すぐに硬化をする。

 鋼鉄の約五倍と呼ばれるカーボンケブラー、その数百倍程度。強度を持ったようだ。

「この星でも最強です」
 そう言って、伽羅は胸を張る。
 彼女が、無限の命題に挑まない事を祈ろう。
 盾矛問題は不毛だからな。

 かくして、リギュウムディは、最強の剣と、最強のプロテクターを手に入れた。
 プロテクターは、非常に軽量で、魔法にも無敵だった。
 着た感じがどうしても、金属錬成兄弟の弟ぽいから、いまデザインを考えている。
 だが、今度は、宇宙で戦闘する大きなマシンのようになる。
 隊長機は角を付けて赤くするものと、好実が謎の知識を披露して俺は驚く。
 いまの流行は、体が赤く光るんだよとうそぶく。
 だが、それを言った事を、後日、後悔する事になる。

 王専用プロテクター。
 旗印となるべく、魔力を吸収し、その身は赤く輝く。

 当然強力な、プロテクターは魔力によるシールドも標準装備。だが、その赤い光は、まるで灯台のように、天を貫き。どこからでも俺の位置が分かる。

 そして剣もさ、魔道具なんだよ。
 伽羅のこだわりが詰め込まれてさ、一薙 ( ひとなぎ)で山が切れるのさ。

「王の魔力は馬鹿ですから、普通の人間では、そんな事にはなりません」
 褒められたのか、けなされたのか分からないが、そういう事らしい。
 魔王が興味を持ったのか、見たがったので、手渡す。
 受け取った瞬間、白目になり。ぱったりと倒れる。魔力枯渇で死にそうになった。
 根こそぎ魔力を、吸われたそうだ。

「これから、この剣は魔王殺しと呼ぶ」
 ふざけてそう言ったら、「王以外、皆死にます。皆殺しにすれば良いのに」とかぶちぶち言ったので、『魔王殺し』は、正式な銘となった。

 
 そんな中、美葉が帰還。
 とりあえず派遣先が決まらないので、クリスティーヌ達とともに行動して貰う事と、料理当番に決めた。
 料理当番と言った瞬間に、好実は嫌そうな顔を一瞬したが、自身ができない事と、忙しいと理由を付け。納得をしたようだ。

 あっそうそう、クリスティーヌはついに気がついた。
 すぐそばに、目的であった魔王がいる事を知り、絶望をしていた。

 ただ、それが少し変で、「こんな奴のために大騒ぎして、異世界から勇者まで召喚をしたのか」そう言って落ち込んでいた。
 いや、落ち込むのはこっちだよ。
 この星のために、元の世界から居なくなったものとされたのだから。

 でも、謝って欲しいとは思わないが、俺が近付くと、後ずさるのはやめてほしい。
 俺が何かをしたみたいだし。
 何とかしてほしいと思っていたら、クリスティーヌはその態度が、王に対して不敬だと責められるようになる。

 本人は、「だって怖いんですもの」と言う事だが、一般の民は、差があるため俺の力を測れない。
 そのため、俺の評価は温厚な王様。
 たまに背筋がゾクッとするのは、恋? とか思うようだ。
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