上 下
49 / 55
第3章 周辺国との協力と発展

第49話 王は目で見て、絶望をする

しおりを挟む
「さあて、アルトゥロ=パチェコ男爵は、王国貴族としてその責を負わず、あまつさへ調査に向かった軍を壊滅させた。その行動、メリディオナル王国への謀反とする。それによる討伐を実行する。進軍」
「「「「「うおおおぉ。―― ぎゃあぁぁーー」」」」」

 進軍を告げた瞬間、パンパンパアンと乾いた音が一斉に鳴り響く。

 先頭で、矢を警戒して持った盾。

 それは、分厚く大きな物だったが木製である。

 矢は止まったが、大きな音で撃ち込まれた何かは、止まらなかった。

 一撃で、盾は倒れていく。
 開いた隙間へは、矢が飛んで来る。

 前面で構える弓は見た感じ、王国で使われる普通のもの。

 そう、敵が多いので、近距離用の偽装。
 前で構えた弓隊。
 その後ろから、本物は飛んで来る。

「ええい。ボロいが飛距離があるぞ。盾を構えろ。上だ」

 命令を下す隊長級は、馬の上にいて少し高い。つまり目立つという事。
「ばかじゃな」
 そんな言葉と共に、射貫かれ、撃たれる。

 櫓の効果は絶大で、上から大将級の位置が克明に知らされる。
 そう隊は無事でも、指揮官がドンドン消えていく。
 それがすべて一瞬のこと。

 総大将が気がついたときには、自身も撃たれて落馬をする。
 そして敵軍は、命令が止まり矢の脅威に負けて、引き始める。
 その時間、わずか三〇分程度のことだった。

 後ろで見ていた者達には、理解できない。
 この平原、多少の起伏しかなく平らだ。
「しまった。我らも櫓を組むべきだったか、戦況がつかめん」

 はじまってから気がついたが、すでに、前軍は敗走に入っていた。

「なんじゃ。何が起こった」
 後ろで騒ぐが、すでに怪我人多数。
 死者も半数以上。

 盾隊と弓隊は、全滅。長槍隊は半数が何とか敗走。
 騎兵達は生き残っているが、派手な目印を付けた隊長はすぐに死んだ。
 兜の上に、鶏冠トサカのような、赤く染めた羽を付けていた。

「もう、負けたのか?」

 軍自体の編制が違う。
 王国軍は、専任が多く、全員が弓兵に近いパチェコ男爵軍とは、相対的な人数が違う。
 それに、人数が多くても、王国が使う弓では飛距離が短くて、後方からは矢が放てない。

 それに比べて、パチェコ男爵軍は立体的に兵を配置。
 全員が射ちまくりである。
 矢さえ尽きなければ、問題ない。

 だが、準備期間は十分あり、それも問題ない。
 元々産業がなかったため、農民達は仕事の合間に内職として励んだ。

 状態は分かっている。
 苦しかった生活が、急に上を向いて楽になった。
 王国はそれが気に入らず、男爵を誅しようとしている。

 細かい理屈は良い。
 女神のような奥方が来た後、劇的に良くなった暮らし、それを手放すのは嫌だ。
 領内は、女神様のために。暮らしのために、それを合い言葉に一丸となった。

 
「ええい。何をしておる。すぐに再編成をしろ。隊長のエフェリーネ=レンセンブリンク伯爵はどうした?」
「伯爵は、討ち死にされました」
 兵が報告をする。

「他にも、レーダ=ヴァレンティーノ男爵、アレクサンドラ=マロヴァ男爵、エスター=ワイマン男爵、その他書く騎士爵の方々が。敵は、集中的に大将首を狙ってきています」
 その報告に、驚いたのは各貴族達。

 今までは、後ろで構えて、命令をすれば良かった。
 失敗しても農民どもが死ぬだけ、今回は子飼いの兵だが、志願を募ればどこからでも湧いてくる。

 だが、兵ではなく、指揮官が優先的に狙われる?
 それは、戦略としては正しい。
 それを考慮して、距離は取っていたはずだ。

「何故か、向こうの矢は強力で、各大将が装備をしている鎧を、突き通しております」

「そうか、ありがとう」
 王が礼を言い、場全体にどよめきが起こる。

 あらかじめ聞いていた。
 射程の長い弓。それを実際現場で受けるのは、こんなにも恐ろしいことだったのか。

 此方からの矢は届かず、一方的に射たれるのみ。
 それも命令系統を狙われれば、軍としての運用も止まってしまう。

「戦う前から、負けておったな」
 そう言って王は、そびえ立つ櫓を眺める。

「あれは簡易だが立派な城壁。自軍の武器を有効に使うためのしくみ。ふっ
愚かな王は、死を持って償うか……」
 周りにいる貴族も、愚かな王を誑かした責を負って貰おう。

 貴族達も、急に画期的な案が浮かぶわけもなく、一般の者達に紛れるくらいしかできなかった。
 そうなると、場全体が見渡せず指揮が不足をする。

 そしてその動きは、上からは丸見えだ。

「隠れているが、あそこから伝令が走っている。あいつだな」
 王の考えた第2陣は、物量。
 残りの全軍を持って、敵の陣へと切り込む。

 命令はただ一つ、一団となって敵を倒せ。
 これならば、細かな運用は必要ない。

 敵の攻撃が苛烈であれば、届かず。
 此方の勢いが強ければ、また向こうの矢が尽きれば、此方の勝ちである。

 これは、戦法と呼べるものではない。
 言わば、特攻。
 命を捨て、勝利を取る。

 奇しくも、それが王の決意となった。

 だが、強力な攻撃は第一陣と違い、その凶暴な牙を隠さず、撃ち込んできた。
 空から、命を奪う雨が降り注ぎ、正面では怪我した者達が行く手を塞ぐ。
 自軍の矢が届かない場所で、ひたすら攻撃を受ける。

「これほど…… なのか?」
 王は、死の間際。自身の感じていた恐怖を身をもって経験した。
 すでに、両翼も囲まれ逃げ場などない。

「おろかだった。すまない」
 その言葉は、誰に対する物かは分からない。
 ただそれが、末期の言葉となった。
 すでに、その言葉を、伝える者は誰もいなかったが。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ボクは55歳の転生皇子さま!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:120pt お気に入り:2,528

【スキル箱庭】無限な時間で、極めろ魔法 ~成り上がり~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:5

転生したら男性が希少な世界だった:オタク文化で並行世界に彩りを

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:8,556pt お気に入り:271

【R-18】自称極悪非道な魔王様による冒険物語 ~俺様は好きにヤるだけだ~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:633pt お気に入り:287

R18 エロい異世界転移in異世界

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:53

異世界召喚された俺は余分な子でした

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:262pt お気に入り:1,752

祖国奪還

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:16

処理中です...