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第3章 周辺国との協力と発展

第48話 王の決意と死への道

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 これにより、王国内で弱小領との内戦が勃発。

 周りは、王へ反抗する者へ、圧倒的武力を持って収めるための、他貴族への見せしめだろうと考えた。
 二万にも及ぶ正規兵。
 今回は徴用をせず、手を上げた貴族達の抱える兵と王国軍。
 王だけは、これでも勝てるかどうか分からなかった。

 そして、ロドリグ=ドコー侯爵軍が全滅し、数人の腹心と陣とも呼べない所にひっそりと居るデニス=ヘルストレーム伯爵を発見する。

「どうした? こんな所で」
 王や主立った貴族が近寄ってくるが、デニス=ヘルストレーム伯爵は迎えもせず。放心状態。ちらっと見て、王の姿を見るとやっと這いつくばる。

 そう、彼は戦闘に参加をした。

 侯爵は向こうを、押さえ込むように、横長に展開。
 厚みは薄くなるが、相手も数は少ない。
 そう思っていた。

 だが攻撃が始まった瞬間に、矢が本陣まで一気に襲ってきた。
 ロドリグ=ドコー侯爵は、とっさに部下がかばったが、そんなモノ。焼け石に水。

 敵の矢は、騎兵の鎧すら突き通る。

 自軍の兵は、積み木を倒すように、前から順に居なくなってくる。
 そう、バタバタと倒れていく。
 先頭では、大楯を持っていたはずだが、轟音が響き。一発で倒れ伏してしまった。

 騎兵があわてて、前に出ようとするが、すでに遅く、馬が倒れ放り出される。

 本当に、わずかな時間。
 この世界にある常識とは全く違う。

 そんな中、肉壁がある間に、デニス=ヘルストレーム伯爵は這いつくばって、なんとか戦場を離脱した。

 自身が思っていた考え。
 戦闘に参加をして、強力な武器が有るなら、それを鹵獲ろかく、自身の野望へ利用しよう。そんなことを考えていた。
 だが、実際はそれ何処ではない、次元がちがう。

 武器だけが、時代を何百年もすっ飛ばした感じだ。
 音もなく、長距離を飛来する敵の矢。
 圧倒的に、此方よりも長射程。

 そして、あの音に関しては意味が分からない。
 轟音と煙、独特の匂い。
 そして、太鼓や笛が鳴ると、陣形を変更して、あっという間に包囲され、最後の一兵まで、逃げることさえ出来なかった。

 向こうの騎兵が、ちらっと此方を見たが、見逃された。


 その情報を、何とか王達へ伝えたが、理解してはもらえなかっただろう。
 大部分は、逃げてください。奴らと、戦ってはいけません。
 それだけしか、言えなかった。

 相手の攻撃射程は長い。
 つまり此方からは、攻撃が出来ない。
 それを、理解してもらえない。

「そんな妄言を。矢の飛距離には決まりがある。強力なものは弦が引けず、役にはたたない。卿は恐怖のあまり、見間違えたのであろう。どこかに、伏兵でも使ってきたのであろうが、接近を気がつかなかったのが、ロドリグ=ドコー侯爵の敗因でしょうか?」
 訳知り顔の軍務関係者が、空想の妄言を進言して、現実の情報を潰す。

 ただ、王だけが、肩に手を添え。言葉をくれた。
「デニス=ヘルストレーム伯爵、情報をありがとう。ゆっくり休め」
 そう言って。

 王は、確信をしていた。
 ヘルストレーム伯爵が言った、長距離の弓、それが伝えられた新技術だろう。
 パリブス王国との戦いで、パチェコ男爵が報告をしてきた矢の話。

 あの時も、周りはそんなわけ無い。
 どうやって飛ばすのだと、報告を握りつぶした。

 まあいい。
 幾ら強力と言っても、相手は一男爵の地方勢力。
 数千しかいない。

 ここから見える、櫓が気になるが、ひ弱な木造のものなど、気にすることはあるまい。

 散らばっていた、ロドリグ=ドコー侯爵軍の遺体をかたづけて終わった頃には、造りかけていた櫓は完成したようだ。
 ただ、城壁の代わりにはならんし、この街道。左右に小高い山はあるが、そこまでのカバーは全然出来ていない。

 木材の表面に、金属の板が張られて、火矢対策はしているが、盾代わりの板は所々にしか張られていない。

「王様お気を付けください。あの高さから打てば、矢の飛距離が伸びます」
 ディルク=エルンスト=ベークマン伯爵は、手広く商売を行っている。
 数字に強く、目端の利く貴族。

「どのくらい変わる?」
「はっ。一概には言えませぬが、高さ分だけは伸びると、考えた方が良いと考えます」
 それを聞いて攻城戦を思い出す。
 城郭の上からの矢。確かに下から射つよりも有効だ。

「そうだな、決まり事のようなものだ。諸侯も理解はしていよう」
 目視では、三メートルの高さ事に、床が張られているようで、最上階は九メートル足らず。

 たいした事は、無いだろう。
 警戒をしているはずの、王でさえそう思っていた。

 諸侯は当然、もっと油断がひどい。
「あんな櫓を建て、武器の非力さをカバーする気か」
「どうせ田舎者が作った弓など、非力でしょう。王国の工房で金貨を積んだ、この名品とは比べものにはなりますまい」
 そう言う男爵だが、名品を全員が持っているわけではない。他の者は安物だ。

 数万の兵だが、一度に出るわけではない。

 長年の様式美。

 幾人か手を上げた貴族諸侯。
 それでも、敵の三倍以上。

 弓の飛距離から逆算し、そこに布陣をする。
 そう今までなら安全だった。
 そこから距離を取り、第二陣が陣を取る。
 
 ひょっとして、先陣が危機におち、手がいればすぐに救援に行ける。
 だがそこすらも、射程距離の中。
 無知であることは、最大の悲劇。
 そのため近代では、電子戦とか情報戦という言葉がある。

 戦前に、敵の情報をほとんど知らず、有用な情報を笑い飛ばし、破滅への戦いが今始まっていく。
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