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第2章 周辺国との和解へ向けて

第37話 話し合い

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「ええい。何だあれは」
 軍務卿は、門前の兵に適宜判断。それだけを伝え、城へと走って行く。

 城へたどり着くと、王を探し、すぐに逃げることを進言する。
 目の前で見た、今までの常識が通じない相手。

 武勇に優れた、目に掛けていた者達が、数秒で肉塊へと代わってしまった。
 圧倒的に離れた所から、味方だけが死んでいく。
 こんなもの、戦闘ではない。
 一方的な虐殺だ。

 鎧も盾も、全く役に立たない。
 やっと気がついたようだ。
 自分たちが、弱者だと。

 それは現場にいた兵達も同じで、あがく気力も失った。
 ただ、自分たちを、上の者が見捨てたことは理解できた。

 誰かが、叫んでいた。
「奴らは、武器を向けなければ攻撃をしない。素直に降伏をしろ。強奪も強姦もしないという事だ、反抗するな。絶対にかなわない」
 複数人が、そう叫びながら走って行く。
 これは、怪我は無いのに放心状態の兵を見つけて、説明して喧伝をするようにお願いをした。

「強奪も強姦もしないだと? なんなんだよ。そんな敵。いるわけがない」
 だが、王都に入ってからも、彼らは隊列を崩さず歩いて行く。
 鎧すら装備をしていない。
 真っ白なマスクをかぶり、規律正しく歩く様は、この世の者ではないのでは、などとも思えてくる。

 そして、それにまざる巨人たち。
 奇妙な音を立てながら歩き、携えた巨大な武器が、その存在を恐怖へと変える。

 声を掛け、息のある者は治療をする。

 彼らが求めるのは、ただ王のみ。
 欲しいものは、正式に、パリブス王国へ手を出さないという約定。
 それだけなのだ。

 それが、王都の民に広がっていく。むろん本当かどうかは分からない。
 だが、王都に入ってからの行動は見事で、約束を守っている。
 逆に逃げ回った王が、被害を拡大させている。

 そして、言葉を信じず。近くから矢を射かけた兵は、乾いた音と共に頭がなくなった。
 矢は確かに当たった。だが、刺さる事なく。服の表面からポトリと落ちる。

 根本的に違う。

 パリブス王国など、未開でひ弱な蛮族。そう思っていた。国もそう説明をしていた。
 だがどうだ? 皆がそろった制服と武器を装備。
 徴兵された農民はいないのか?
 そんなはずは無い。
 専任の軍属を、雇うなど、とんでもない話。
 
 よほど国が裕福でも、必要な経費は膨大となる。
 むろん、軍人として雇い入れ、普段は近隣で農民をさせると言う話は聞いたことがある。

 週に一度、訓練をする。
 出来ないことはないが、何千もは無理だろう。

 遠くからなら、移動だけで数日掛かる。
 訓練をして、住んでいるところまで移動すれば、畑の世話をすることなく、また移動をしなければいけなくなる。

 だが、そうとしか思えない、統一された動き。

 王都の住人が不思議がる行動。これは、裕樹達の指導による。
 戦時のどさくさで、強奪などをした者は、規律を守れない浅はかな者。
 残していても自軍に対して害悪になる。つまり生かしておいても仕方が無い。
 銃の的にして良い。
 そう規定されている。

 これは、銃を供与するときに、決めたこと。

 特別な訓練をしていなくても、強くなれる武器。
 人間力を得ると、調子に乗りやすい。個人主義で他人を敬い、軍人なら個を捨てろと教え込んだ。
 自分だけがと勝手をして、そのために他の者を巻き添いにして、武器の鹵獲など最も恐れる事である。

 つまり、規律を守れず、個人の欲を満たすために周りの警戒もせず、物を盗む。
 無警戒な状況で襲われれば、その個人だけではなく、盗まれた銃で他の者達が危険だと。
 それを、缶詰状態で、半ば洗脳のレベルで繰り返し教え込んだ。

 銃の威力を見た物は、それが理解できた。
 引き金さえ引ければ、子供でも数十人の大人を殲滅できる。
 無警戒に、女相手に腰を振るなど、もってのほかだ。

 絶対手から放すな。
 それを徹底した。

 実際に、剣など振ったことが無い、農民の老人。
 相対したのは、専任の武人。

 目標に対して引き金を引く。
「どうだ、差はあるか?」
 目の前には、丸太にかぶせた、パリブス王国で標準の鎧。
 すでに穴だらけだ。

「ありません」
 武人も、涙目だ。
 子供の頃からの、訓練が水の泡となった瞬間だ。

 それも、剣など届かない遠方からの攻撃。

 そんな教育を、しつこいくらいに繰り返した。
 そしてとどめは、拳銃の登場。

 パリブス王国では、完全に武人の価値が落ちた。

 国が安定をしてから、体術と、射線の読み方により、多少はフォローをしたが、それはもっと後の話。今は落ち込ませていた方が、コントロールしやすい。

 素直に、王達の居場所を聞き。
 約定を結ぶ前に、間違って殺してしまった。

 いま、目の前では、後任人事を決める会議が開かれている。

 近くの貴族を頼る気だったのか、貴族の娘であるお妃と、跡継ぎの子供達を連れていたようだ。
 メリディオナル王国から、政治的に嫁いできた側室は、子供もろとも、王城に残されていた。
 
 第二王子である、オリヴェルと第三王女フェリシア。
 母親は、セシーリア=クルームと言って、メリディオナル王国の王様ベッティル=ハルト=メリディオナルの遠縁だという事だ。

 今の問題は、王子が継ぐか、公爵家が復権するかという事だそうだ。
「こっちには、どうでもいい話だ。どう決めて貰っても良いが、パリブス王国へ手を出さないという約束さえ出来ればな」
 つい、話が決まらない会議に、じれてそう言うと、横に居たトルスティ=クレーモラ伯爵が焦る。
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