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第2章 周辺国との和解へ向けて

第32話 外も中も

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「何故、追いかけさせた」
 文句を言うのは、当然ながら裕樹だ。

 目の前には、インフィルマ=パリブス王と宰相マルムベルム=アスセナが、青い顔で小さくなっている。

「いや、そうは言ってもだな。すでに、佐々木殿がメリディオナル王国へ渡っておるだろうし、もしかすると、オリエンテム王国に拿捕されとるかも知れんのだ。その場合、武器の技術が渡ったかもしれん」
 裕樹は、頭を振る。

「もし渡っても、再現をするには素材の問題もある。簡単には複製はできない。たとえ鉄だとしても、混ぜる物や純度、その後の火入れや焼き鈍しという作業で、全く違った物になる」
「それはそうかもしれんが。わしはどうしても怖かったのじゃよ」
 王と宰相は疲れたように、共に頭を下げる。

 思わず、裕樹は天を仰ぐ。
「もう、行ったものは仕方が無い。被害を出さない事と、武器が敵側へ渡ることが無いように伝令を出せ。俺も出る」

 そう言って、謁見の間を退室する裕樹。

 当然、謁見中の貴族達が、その場には居る。
「いやいや、失礼な奴ですな」
「馬鹿者。彼らがいなければ、この国はとうに滅んでおったわ」
「そんなことは…… 金は問題ですが、民の千や二千出したって問題はないでしょう」
「――それは、今回適当に向こうが言ったこと。はなから我が国を…… 我が国を滅ぼすつもりだったのじゃ。奴ら、特にオリエンテム王国は、完全にそのつもりだった」
 そう言っても、まだその貴族は、理解ができないようだ。

 王は、頭を抱える。
 条件による想像が、全く出来ていない。
 ここでもまた、基礎教育の重要性を痛感する。

 ただ、幾人かの貴族は、未来が見えていないわけではなく、自分たちの都合が絡んでいた。

 そう。オリエンテム王国が、パリブス王国を取った後、統治をする貴族が必要。
 それを、任せるという約束を受けていた。当然、本当かどうかの保証はない話だが。

 どこにでも、腐った者達がいるという事だ。
 その者達にしてみれば、裕樹達は非常にジャマな存在。
 オリエンテム王国の間者を手引き、そして、拠点を用意して色々と便宜を図った。
 だが、大した結果は残せていない。

 そして、主要部隊が動いたこの機会に、彼らの思っている知識だけの弱者達を攫う予定を立てた。

 そう、馬鹿なことに彼ら貴族は、オリエンテム王国が撤退したことしか聞いていなかった。

 丁度、裕樹が王都を出発をしたとき、貴族連中の攻撃が始まった。
 暗闇に紛れ、数百名ほどのフルプレートを着込んだ兵達。

 遠方からでも、ガシャガシャと音がする。
「何か聞いていたか?」
「いや、聞いていないぞ」
 のんきなことを言っていた雄一達だが、兵の下品な言葉が耳に入る。

「幾人かで良い。女は好きにしろ」
 そう。とっても物騒な言葉。

「おい、慎也。みんなに言ってこい。敵襲だ」
 ライトのスイッチを入れる。
 封入してある不活性ガスは窒素。
 酸素が欲しかったみんなは、アンモニアによる冷却ユニットを作成。
 それを使い、空気中の水分を除去し、それを圧縮。
 液化してそれを冷媒として、酸素と窒素を分離した。
 空気が溜まったタンク内を冷却すると、液化温度の違いで酸素が先に液化をする。そして、副産物として窒素を手に入れた。

 もったいないので、電球の不活性ガスとして封入した。

 突然、昼間のような明るさになる中州の研究所。
 初めてのことに、驚く兵達。

 妙な棒きれを持った雄一が、姿を表し兵に問いかける。
「お前達。物騒なことを言っていたが、どこの者だ? オリエンテムにしては鎧が違うな?」

「聞いて驚け。我らは、ラーシュ=ヨーナス=ヘーグストランド公爵、マリオ=アウグスティーノ=リナルディ侯爵、バジーリオ=エドガルド=ガリエ伯爵、リオン=ユリシーズ=ウェイン伯爵。各家の精鋭だ。おとなしく投降すれば男は奴隷。女は適当に楽しんだ後、商館へ売ってやる」
 雄一はあきれ顔で、家名をすべて控えたか、秀明に聞く。
 
「秀明。四家のようだな。控えたか?」
「多分な。細かな所は違うかも」
「お前なぁ。じゃあ足を撃つよ」
 そう言うと、雄一は腰だめに発砲を開始をする。

 なるべく話を聞くために、足を狙う。

 当然相手もフル装備。クイスと呼ばれる、モモ当ては付けてある。
 だが、そんな物は全く意味がなく、撃ち抜かれていく。

 今使っている弾は、細めのフルメタルジャケット弾。
 殺傷力を落とし、貫通力を上げた物。

 あたると、痛い。
 だが、よほど当たり所が悪くないと死にはしない。

 一発で数人ぶち抜いたようで、効率が良い。
「こりゃいい、五ミリ弾で正解だな」
 連射をしても、振動が少ない。

 一人で百人。あっという間に倒してしまった。
 相手は、夜間のため弓を装備していなかったし、剣術はかなりの腕前だと本人達は思っていた。

 だが、持っていた金属を張った木の盾は、全く役に立たず。

「おおい。気を付けて縛れ。先に剣とかを遠くへ避けろ」
「「「へーい」」」

 そうして縛り始めたが、至る所で銃声とうめき声が聞こえる。

 最近は護身用にみんな銃を持っている。
 多分抵抗されて、腕でも撃ち抜いたのだろう。

 青木達三人が死んでから、みんなの意識が変わり、殺す練習をした。
 最初は魚から、鳥、猪。そして熊。場合により鹿も。

 今は女子でも、猪まではいける。
「出来なきゃ、攫われていかがわしいお店行きだからな」
 そんなこの世界の常識が背中を押す。

「おお? 何があった」
 裕樹が帰って来た。
 
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