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第2章 周辺国との和解へ向けて

第29話 苦しみと悩み

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 ヘルメットに飾られた、愛の文字が煌めく。

 まるでどこかの戦国武将のようだが、服装はこの世界に合わない作業服。
「そこー。手を抜かない。自分たちの命を守るための物よ」
「へい。奥方すみません」

 王国からの、再三の問い合わせ。

 今、パチェコ男爵領は動乱の真っ最中。
 今までは、復権をと彼の家族が騒いでいても、言うだけで平和だった。

 だが、望まれぬ嫁が来た途端から、物事が急速に動き出し、再三ちょっかいをかけてきていた隣の三領。冷たい視線を向けるしかない家族、それを余所に、彼女は三領に対する攻撃を始めた。

 手始めに、一番鬱陶しかった領の悪事を、人を総動員して調べ上げる。
 スカルン型鉱床の錫鉱山を有しているため、その採掘量と流通する錫の差を調べ、王国への報告と、懲罰遠征を進言。

 スカルン型鉱床は、貫入火成岩と石灰岩の境界に沿って発達している。
 今は錫だが、他にもきっとあるに違いない。
 慶子はそれを目論む。

 ついでに、秘匿していくのは、国家転覆計画の可能性があり、そのために弱小である我が領に軍事行動を起こしているのではないかとも推測として追記をする。

 とうぜん、過去の経緯から、王家に睨まれにくい我が領に、兵の練兵をかねて、いたずらをしていた領主エルヴィ=ヘンリクだったが、それを慶子に付け込まれた。

 領の境に展開し、村人を追いかけ回していた兵達を一気に大人数で包囲し、数人を見逃し、後は殲滅と捕縛。

 王からの返事を待たず。怒りにまかせて攻め込んできたヘンリク軍を、攻めてきたから守ったと言い訳して、防衛戦。

 敵がまとまる前に、各個撃破。

「慶子、この手法は、あまりにひどくはないか?」
 旦那である、アルトゥロはオロオロするばかり。

 慶子はこの世界における、戦場でのしきたりなど当然知らないし、『彼らは盗賊よ』そう言って、ケラケラ笑い、見事に全軍を敗退させた。

 ボウガンと、コンパウンドボウによる包囲殲滅。
 味方には、けが人が数人。

 敵のみを滅する。裕樹達がなしたことを、一人でやってのけた。

 それを知って、王家は、怒りではなく恐れる。
 パリブス王国から、繰り返し届く問い合わせ。
『アルトゥロ=パチェコ男爵が、我が国の重要人物を攫い、連れ去った。早急に、詳細を調べ、貴国の責任において、解決を望む』

 今回の、領同士で発生した諍いの結果と、パリブス王国とオリエンテム王国との幾度かの戦い。その結果。

 パリブス王国との初戦で、パチェコ男爵に参戦させて、結果を報告させたのは、他ならぬ王であった。
 当然すべては繋がり、来たのはたった一人と言うが、その一人がすべてを引っくり返すのではないか?
 そんな疑心が、王の中に生まれる。

 だが、今回は、どう考えてもヘンリク領が悪い。
 王は頭を抱える。

 どう纏めるべきか。

 悩んだ末、ヘンリク領を王の直轄領として、代官を置いた。
 そして鉱山管理について、半分の権利をアルトゥロ=パチェコ男爵に与える事にした。

「ラッキー。あの一帯へ入れれば、こっちのモノよ」
 慶子は、怪しい雰囲気で笑う。
 それを見て、アルトゥロ=パチェコ男爵は、背筋にいやな汗が流れる。
 この娘を、妻にして良かったのだろうか?
 だが、いまさら…… 何とか出来る訳はない。

 こちらの、一般的な…… 正式な手順で放逐をしても、決して許されはしないだろう。

 笑いながら、大軍を率い。
 気がつけば、首を狩られている姿しか想像が出来ない。

 ここへ来て、びびりが入るアルトゥロ。
 だがここへ慶子が現れ、わずか一年の内に大きく変わった。

 今回、鉱山の権利まで賜った。
 そして、慶子が言うには、近辺に他の鉱物が埋蔵をされていると。
 それを発見すれば、また手柄となる。

 我が領の収入は、非常に大きなものとなる。

 日本人とは一体なんなのだ。
 あの貪欲さは。そして目標に向かうときの勤勉さは異常だ。
 屈強な兵達が倒れる中で、慶子だけが高笑いをして……

「寝る暇があれば働けだと?」
 仕事が終わればゆっくり休めると。鼓舞にしてもそれは……
 順調すぎる領の発展。その裏側でアルトゥロの胃は蝕まれていく。


 そして時は戻り、慶子が抜け出した後。
 王国の名前で書状を送り、強い文言でメリディオナル王国を牽制。

 裕樹達は、対人用の特殊弾を開発し始めた。
 敵の薄い鎧を貫通し、その後、中で広がる特殊弾頭は、強力な殺傷力とストッピングパワーを相手に与える。
 すると進軍が止まる。

 ストッピングパワーの強い弾頭を、腹に喰らうと反射的にお辞儀をする。

 それだけで、敵の足が止まり、攻撃がしやすくなる。

 後は、前回のことがあるので、胴製のメタルジャケット弾の開発。
 それの弾頭で、鎧を貫通した後、弾頭の中間部分が潰れて広がるタイプが対人用。特殊なホローポイント弾だ。

「完全な人殺し用の弾だな」
 雄一が、弾を見てぼやく。

「弓も一緒だよ。使い方次第で、小麦粉だって危険な爆発物だ」
「ああ、粉塵か」
「そうだ」
 そう言って、今更ながら落ち込む感じを見せるが、雄一にしたって、すでに何十人も殺している。砦の隊長に任命されていたからな。

「あの時は、必死だったんだ」
 そう言って、言い訳をしても、悪夢を見ている事が良くあるらしい。
 むろん本人が見せた弱みではなく、隣で寝ていた鈴木めぐみからの密告だ。

「彼は苦しんでいるの。こんなことを言ったら卑怯だけど。誰かに代わってもらえないの?」
「うーん。雄一が言ってきたら考えよう」
「そんな。雄ちゃんが言うわけ無いじゃない……」
「どうして?」
 俺が聞くと、めぐみは悲しそうな顔で答える。

「――どうして、ですって? それは、すぐ横で、あなたが悲しそうな、死にそうな顔をして、作業をしているからよ」
 彼女は、呆れたようにそう言った。

 作業というのは、人殺しだ。
「そうか……」
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