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第三章 王国貴族時代

第42話 凶悪な者達

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「バレないかな?」
「何がでしょうか?」
 分かっているくせに、ミヒャルがとぼける。

「遠征だよ」
「ああ。いま王都までの間で、内戦をやっていますので、大敗しない限りは大丈夫です。伝令要員はおいておきますし」
 思わず呆然とする。
 ミヒャルが後出しで、重要な情報を…… このやろう。

 リアナロヴィーノさん達は、再び馬車。

 伝言は送り出し、すぐに出立を始める。
 道案内を頼むといいながら、途中でそれを変更。完全に無視することに決める。

 いったん、帝国内部側へ回り込み、攻めている隊の後背を突く。

「一兵たりとも逃がすなよ」
 帝国と小国家軍の間にも険しい山があり、軍が通られる道は限られている。

 敵は旗を掲げているので判りやすい。
 我々は、身分がバレそうなものは外している。それでも、安全のためには目撃者はいない方が良い。殲滅だ。

「追いついた。敵だやれ」
 小国家群の隊と、睨み合っている後背を突く。
 無音で、攻撃距離へ近付き一斉射。

 うちの隊は違うが、大体において、偉い奴が後方にいて指揮をしている。そこを重点的に狙う。
 そして背後から奇襲を喰らうと、あわてて隊列が乱れるし、本陣がやられては命令も来ない。
 あとは、そんなに時間も掛からず。全滅あるのみ。

 全滅をさせたら、前方で小国家の軍が呆然としている間に移動を開始する。
「各個で隊を分けて、いくつかの国を同時に攻撃をしているようだな」
「御意。敵国同士、連携を取らせない計画なのでしょう」
 そう言いながら、俺もミヒャルもニヤニヤが止まらない。

「ありがたい事だ。一個一個潰せ。移動中、兵糧の運搬隊が居たら奪え」
「ひどいですね。まるで盗賊か野盗のような」
「ほっとけ」
 そうして、移動した跡を見つけては、追いかけて殲滅をする。

 むろん、こちらの被害はない。

 あったのは、途中の町や村で行われた狼藉の痕をみて、皆が怒り狂ったくらいだろうか。

「あの、聞いてよろしいでしょうか? 」
 並んで馬に乗っているラドミール君。

「何でしょう?」
「王国軍の弓って……」
「他言無用です」
「飛距離が……」
「他言無用です」
「あの筒も……」
「他言無用です」
 師団長ラドミール=パラッシュ君に、圧を掛けて黙らせる。
 馬が少し暴れたが、仕方が無い。

 そして気が付けば、国境の森。
 死にそうな顔をして、隊列を組んでいる兵団に出くわす。
「おおい待て。騎士団の師団長。ラドミール=パラッシュだ」
 彼は、王国の旗? 布を振りながら走っていく。

「スミレ組?」
「ええ。王妃様のご趣味で。他にもバラという男性だけの隊とか、百合という女性だけの隊があります」
「へー。そうなんですか」
 なぜだろう。ミヒャルと二人。思わず真顔になってしまう。

 無事合流をしたようなので、俺達は帰ることにする。
「それじゃあね」
 踵を返す俺達に、周りの兵も一気に従う。

「ああ。ちょっと待ってください。せめて王にぃ…… お会い……」
 そう言われても、答えは一つ。

「他言無用だぁ」
「ああっー」
 あっという間に遠ざかる俺達に、手を伸ばして、ラドミール君は泣いていたとか。

 そうして俺達は、表向きには謎の武力集団として報告をされた。

 当然、帝国が放っていた小国家群に紛れ込んだ間者達も、それ以上がつかめなかったようだ。
 そしてそれは、そのまま本国へと伝わる。

「謎の武装集団? 一万近くの兵があっという間に殺された?」
「はい。その様です」
「小国家の虫けらどもめ。一体なにと契約を行った? 古の死霊軍団でも出たのか?」
 女帝テレーズバイルは、手近に居た側近達に当たり散らす。


 ヴァルデマル王国。
 王であるマルティン=ドミンケスは考えていた。
 宰相に軍務卿。
 部下達を集めて、地図とにらめっこをしていた。

「帝国は、三方に分かれて攻めてきている。すでにヴレットブラード王国やヴェナンツィオ公国が敗れてしまった。今ディベネデット王国とルーペルト公国が戦闘中となっております」
 報告を受け、地図をなぞる王。

「ううむ。ディベネデット王国が抜かれれば、敵はもう目と鼻の先」
「しかも敵は、村や町を蹂躙し、万全な様子で手が付けられません」
 報告の最中だが、逃がした妻子が気になる。

 フォーゲル王国へ逃げた、王妃マリテレーズは残念ながら問題は無いだろう。だが、ラバジェンス連邦へと向かうには、帝国に攻められているディベネデット王国を抜けなければならない。

「ラバジェンス連邦へと向かった、リアナロヴィーノは無事だろうか?」
「街道筋には帝国がいます。ですが、護衛に付いた騎士団はスミレ組の師団長。ラドミール=パラッシュでございます。彼ならば、きっと何とかするでしょう」
「そうか。託すしか出来ないのが歯がゆい。無事で居ろよ」
 思わず天を仰ぐ。

 いまは、そんな事を言っていても、どうしようもない。
 王は、ディベネデット王国へ兵を派遣するために連絡をとり、派兵の準備を進めていく。

 一方、王が心配をしていない王妃、フォーゲル王国へと逃げたマリテレーズ。
 王の命令に従い、王子を残したその心痛は、いかなるものか。
「あの、腐れ王め。何が責務じゃ。死ぬならば一人で逝けば良いものを。王子まで巻き添えにして」
「おかあさま、お顔に皺が入ります。お怒りはその辺りでお収めください。お兄様なら、むざむざやられることもなく。きっと無事に…… いの一番に、お逃げになられます」

 王女レーナプレチュは、悲しみにくれ。
 王への罵詈雑言をまき散らす母親を、鬱陶しいため何とか慰める。

 ええ、あの根性無しですもの。敵の姿が見えただけで速攻逃げるでしょう。
 それよりも、かわいいエールリヒは無事かしら。腹違いで結婚が出来ないのが悔しいわ。はっ、子どもさえ作らなければ良いのでは? 確か侍女達が安全な日があるとか申していたわね。戻ったら聞き出しましょう。

 そんな事を思っていると、馬車が急に止まってしまう。
 間髪を入れずに護衛の百合組。師団長ジョゼフィーヌ=サラの声が、周囲に響く。
「下がれ。下賎な者達め。さがらぬと切るぞ」
 外では、街道に丸太が転がり、盗賊達が馬車を囲んでいた。
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