42 / 67
第三章 王国貴族時代
第42話 凶悪な者達
しおりを挟む
「バレないかな?」
「何がでしょうか?」
分かっているくせに、ミヒャルがとぼける。
「遠征だよ」
「ああ。いま王都までの間で、内戦をやっていますので、大敗しない限りは大丈夫です。伝令要員はおいておきますし」
思わず呆然とする。
ミヒャルが後出しで、重要な情報を…… このやろう。
リアナロヴィーノさん達は、再び馬車。
伝言は送り出し、すぐに出立を始める。
道案内を頼むといいながら、途中でそれを変更。完全に無視することに決める。
いったん、帝国内部側へ回り込み、攻めている隊の後背を突く。
「一兵たりとも逃がすなよ」
帝国と小国家軍の間にも険しい山があり、軍が通られる道は限られている。
敵は旗を掲げているので判りやすい。
我々は、身分がバレそうなものは外している。それでも、安全のためには目撃者はいない方が良い。殲滅だ。
「追いついた。敵だやれ」
小国家群の隊と、睨み合っている後背を突く。
無音で、攻撃距離へ近付き一斉射。
うちの隊は違うが、大体において、偉い奴が後方にいて指揮をしている。そこを重点的に狙う。
そして背後から奇襲を喰らうと、あわてて隊列が乱れるし、本陣がやられては命令も来ない。
あとは、そんなに時間も掛からず。全滅あるのみ。
全滅をさせたら、前方で小国家の軍が呆然としている間に移動を開始する。
「各個で隊を分けて、いくつかの国を同時に攻撃をしているようだな」
「御意。敵国同士、連携を取らせない計画なのでしょう」
そう言いながら、俺もミヒャルもニヤニヤが止まらない。
「ありがたい事だ。一個一個潰せ。移動中、兵糧の運搬隊が居たら奪え」
「ひどいですね。まるで盗賊か野盗のような」
「ほっとけ」
そうして、移動した跡を見つけては、追いかけて殲滅をする。
むろん、こちらの被害はない。
あったのは、途中の町や村で行われた狼藉の痕をみて、皆が怒り狂ったくらいだろうか。
「あの、聞いてよろしいでしょうか? 」
並んで馬に乗っているラドミール君。
「何でしょう?」
「王国軍の弓って……」
「他言無用です」
「飛距離が……」
「他言無用です」
「あの筒も……」
「他言無用です」
師団長ラドミール=パラッシュ君に、圧を掛けて黙らせる。
馬が少し暴れたが、仕方が無い。
そして気が付けば、国境の森。
死にそうな顔をして、隊列を組んでいる兵団に出くわす。
「おおい待て。騎士団スミレ組の師団長。ラドミール=パラッシュだ」
彼は、王国の旗? 布を振りながら走っていく。
「スミレ組?」
「ええ。王妃様のご趣味で。他にもバラという男性だけの隊とか、百合という女性だけの隊があります」
「へー。そうなんですか」
なぜだろう。ミヒャルと二人。思わず真顔になってしまう。
無事合流をしたようなので、俺達は帰ることにする。
「それじゃあね」
踵を返す俺達に、周りの兵も一気に従う。
「ああ。ちょっと待ってください。せめて王にぃ…… お会い……」
そう言われても、答えは一つ。
「他言無用だぁ」
「ああっー」
あっという間に遠ざかる俺達に、手を伸ばして、ラドミール君は泣いていたとか。
そうして俺達は、表向きには謎の武力集団として報告をされた。
当然、帝国が放っていた小国家群に紛れ込んだ間者達も、それ以上がつかめなかったようだ。
そしてそれは、そのまま本国へと伝わる。
「謎の武装集団? 一万近くの兵があっという間に殺された?」
「はい。その様です」
「小国家の虫けらどもめ。一体なにと契約を行った? 古の死霊軍団でも出たのか?」
女帝テレーズバイルは、手近に居た側近達に当たり散らす。
ヴァルデマル王国。
王であるマルティン=ドミンケスは考えていた。
宰相に軍務卿。
部下達を集めて、地図とにらめっこをしていた。
「帝国は、三方に分かれて攻めてきている。すでにヴレットブラード王国やヴェナンツィオ公国が敗れてしまった。今ディベネデット王国とルーペルト公国が戦闘中となっております」
報告を受け、地図をなぞる王。
「ううむ。ディベネデット王国が抜かれれば、敵はもう目と鼻の先」
「しかも敵は、村や町を蹂躙し、万全な様子で手が付けられません」
報告の最中だが、逃がした妻子が気になる。
フォーゲル王国へ逃げた、王妃マリテレーズは残念ながら問題は無いだろう。だが、ラバジェンス連邦へと向かうには、帝国に攻められているディベネデット王国を抜けなければならない。
「ラバジェンス連邦へと向かった、リアナロヴィーノは無事だろうか?」
「街道筋には帝国がいます。ですが、護衛に付いた騎士団はスミレ組の師団長。ラドミール=パラッシュでございます。彼ならば、きっと何とかするでしょう」
「そうか。託すしか出来ないのが歯がゆい。無事で居ろよ」
思わず天を仰ぐ。
いまは、そんな事を言っていても、どうしようもない。
王は、ディベネデット王国へ兵を派遣するために連絡をとり、派兵の準備を進めていく。
一方、王が心配をしていない王妃、フォーゲル王国へと逃げたマリテレーズ。
王の命令に従い、王子を残したその心痛は、いかなるものか。
「あの、腐れ王め。何が責務じゃ。死ぬならば一人で逝けば良いものを。王子まで巻き添えにして」
「おかあさま、お顔に皺が入ります。お怒りはその辺りでお収めください。お兄様なら、むざむざやられることもなく。きっと無事に…… いの一番に、お逃げになられます」
王女レーナプレチュは、悲しみにくれ。
王への罵詈雑言をまき散らす母親を、鬱陶しいため何とか慰める。
ええ、あの根性無しですもの。敵の姿が見えただけで速攻逃げるでしょう。
それよりも、かわいいエールリヒは無事かしら。腹違いで結婚が出来ないのが悔しいわ。はっ、子どもさえ作らなければ良いのでは? 確か侍女達が安全な日があるとか申していたわね。戻ったら聞き出しましょう。
そんな事を思っていると、馬車が急に止まってしまう。
間髪を入れずに護衛の百合組。師団長ジョゼフィーヌ=サラの声が、周囲に響く。
「下がれ。下賎な者達め。さがらぬと切るぞ」
外では、街道に丸太が転がり、盗賊達が馬車を囲んでいた。
「何がでしょうか?」
分かっているくせに、ミヒャルがとぼける。
「遠征だよ」
「ああ。いま王都までの間で、内戦をやっていますので、大敗しない限りは大丈夫です。伝令要員はおいておきますし」
思わず呆然とする。
ミヒャルが後出しで、重要な情報を…… このやろう。
リアナロヴィーノさん達は、再び馬車。
伝言は送り出し、すぐに出立を始める。
道案内を頼むといいながら、途中でそれを変更。完全に無視することに決める。
いったん、帝国内部側へ回り込み、攻めている隊の後背を突く。
「一兵たりとも逃がすなよ」
帝国と小国家軍の間にも険しい山があり、軍が通られる道は限られている。
敵は旗を掲げているので判りやすい。
我々は、身分がバレそうなものは外している。それでも、安全のためには目撃者はいない方が良い。殲滅だ。
「追いついた。敵だやれ」
小国家群の隊と、睨み合っている後背を突く。
無音で、攻撃距離へ近付き一斉射。
うちの隊は違うが、大体において、偉い奴が後方にいて指揮をしている。そこを重点的に狙う。
そして背後から奇襲を喰らうと、あわてて隊列が乱れるし、本陣がやられては命令も来ない。
あとは、そんなに時間も掛からず。全滅あるのみ。
全滅をさせたら、前方で小国家の軍が呆然としている間に移動を開始する。
「各個で隊を分けて、いくつかの国を同時に攻撃をしているようだな」
「御意。敵国同士、連携を取らせない計画なのでしょう」
そう言いながら、俺もミヒャルもニヤニヤが止まらない。
「ありがたい事だ。一個一個潰せ。移動中、兵糧の運搬隊が居たら奪え」
「ひどいですね。まるで盗賊か野盗のような」
「ほっとけ」
そうして、移動した跡を見つけては、追いかけて殲滅をする。
むろん、こちらの被害はない。
あったのは、途中の町や村で行われた狼藉の痕をみて、皆が怒り狂ったくらいだろうか。
「あの、聞いてよろしいでしょうか? 」
並んで馬に乗っているラドミール君。
「何でしょう?」
「王国軍の弓って……」
「他言無用です」
「飛距離が……」
「他言無用です」
「あの筒も……」
「他言無用です」
師団長ラドミール=パラッシュ君に、圧を掛けて黙らせる。
馬が少し暴れたが、仕方が無い。
そして気が付けば、国境の森。
死にそうな顔をして、隊列を組んでいる兵団に出くわす。
「おおい待て。騎士団スミレ組の師団長。ラドミール=パラッシュだ」
彼は、王国の旗? 布を振りながら走っていく。
「スミレ組?」
「ええ。王妃様のご趣味で。他にもバラという男性だけの隊とか、百合という女性だけの隊があります」
「へー。そうなんですか」
なぜだろう。ミヒャルと二人。思わず真顔になってしまう。
無事合流をしたようなので、俺達は帰ることにする。
「それじゃあね」
踵を返す俺達に、周りの兵も一気に従う。
「ああ。ちょっと待ってください。せめて王にぃ…… お会い……」
そう言われても、答えは一つ。
「他言無用だぁ」
「ああっー」
あっという間に遠ざかる俺達に、手を伸ばして、ラドミール君は泣いていたとか。
そうして俺達は、表向きには謎の武力集団として報告をされた。
当然、帝国が放っていた小国家群に紛れ込んだ間者達も、それ以上がつかめなかったようだ。
そしてそれは、そのまま本国へと伝わる。
「謎の武装集団? 一万近くの兵があっという間に殺された?」
「はい。その様です」
「小国家の虫けらどもめ。一体なにと契約を行った? 古の死霊軍団でも出たのか?」
女帝テレーズバイルは、手近に居た側近達に当たり散らす。
ヴァルデマル王国。
王であるマルティン=ドミンケスは考えていた。
宰相に軍務卿。
部下達を集めて、地図とにらめっこをしていた。
「帝国は、三方に分かれて攻めてきている。すでにヴレットブラード王国やヴェナンツィオ公国が敗れてしまった。今ディベネデット王国とルーペルト公国が戦闘中となっております」
報告を受け、地図をなぞる王。
「ううむ。ディベネデット王国が抜かれれば、敵はもう目と鼻の先」
「しかも敵は、村や町を蹂躙し、万全な様子で手が付けられません」
報告の最中だが、逃がした妻子が気になる。
フォーゲル王国へ逃げた、王妃マリテレーズは残念ながら問題は無いだろう。だが、ラバジェンス連邦へと向かうには、帝国に攻められているディベネデット王国を抜けなければならない。
「ラバジェンス連邦へと向かった、リアナロヴィーノは無事だろうか?」
「街道筋には帝国がいます。ですが、護衛に付いた騎士団はスミレ組の師団長。ラドミール=パラッシュでございます。彼ならば、きっと何とかするでしょう」
「そうか。託すしか出来ないのが歯がゆい。無事で居ろよ」
思わず天を仰ぐ。
いまは、そんな事を言っていても、どうしようもない。
王は、ディベネデット王国へ兵を派遣するために連絡をとり、派兵の準備を進めていく。
一方、王が心配をしていない王妃、フォーゲル王国へと逃げたマリテレーズ。
王の命令に従い、王子を残したその心痛は、いかなるものか。
「あの、腐れ王め。何が責務じゃ。死ぬならば一人で逝けば良いものを。王子まで巻き添えにして」
「おかあさま、お顔に皺が入ります。お怒りはその辺りでお収めください。お兄様なら、むざむざやられることもなく。きっと無事に…… いの一番に、お逃げになられます」
王女レーナプレチュは、悲しみにくれ。
王への罵詈雑言をまき散らす母親を、鬱陶しいため何とか慰める。
ええ、あの根性無しですもの。敵の姿が見えただけで速攻逃げるでしょう。
それよりも、かわいいエールリヒは無事かしら。腹違いで結婚が出来ないのが悔しいわ。はっ、子どもさえ作らなければ良いのでは? 確か侍女達が安全な日があるとか申していたわね。戻ったら聞き出しましょう。
そんな事を思っていると、馬車が急に止まってしまう。
間髪を入れずに護衛の百合組。師団長ジョゼフィーヌ=サラの声が、周囲に響く。
「下がれ。下賎な者達め。さがらぬと切るぞ」
外では、街道に丸太が転がり、盗賊達が馬車を囲んでいた。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。
飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。
隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。
だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。
そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる