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第二章 王国兵士時代

第36話 戦闘の終了と動乱の始まり

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「なんだこれは」
 自軍の中で声が上がる。

 下手に大軍をそろえ、攻撃の準備を整えた所だったのが災いをする。
 逃げ惑うが、人が多く。身動きができない。
 見上げれば、音もなく飛んでくる大弓の矢。

 それは、刺されば破裂をする。
 それも、数十人が吹っ飛ぶ威力をもつ。


 一方、櫓では。
「おお、始まったな。こっちへ逃げてくれば射かけろ。おおい、下の兵。前へ出るなぁ」
「あの炸裂する矢は、何です?」
「錬金術師のラヴォアジェ様と、レオンが開発した魔石だ。辺境伯様が秘匿をしているものだ」
 魔法師団の隊長。ビクトリノ=エンシーナは部下に聞かれ説明をする。

「レオンだろうが、容赦ないな」
 すでに隊列は崩れ、逃げ惑う敵兵。
「大魔法は見事だったが、その後。逃げなかったのが敗因だな」

 ビクトリノはそう言うが、そもそもの目的は戦いではなく強奪。
 今回、辺境伯領を帝国として、切り取るためにやって来ている。
 帝国のジャンマルコ=ヤクウィン伯爵としても、前回の負けで皇帝に嫌みを言われている。簡単には引けない。
 だが、現在。隊の内部は、混乱の魔法でもかけられた様な状態が続く。


「ええい。空を確認。あの矢は受け止められん。逃げろ。全体、谷側へ引け」
 そう命令を出すが、自分なら谷側でも伏兵を置き攻撃をする。
 そんな事は判っているが、ここに居れば、良い的でしかないことは判っている。

「自ら死地に飛び込む愚かな行為だが、手が思いつかない。魔法師団シールドを張って魔力を無駄使いするな。今は引け」

 
 谷の方では、流れがいきなり変わり、各所で「さがれ、撤退だ」そんな声が聞こえる。
 だが、狭い谷の道に居るには人数が多く、見張っていた王国兵から見ても、兵の重さで、いつ崖崩れても可笑しくない状況。

「こっち側で良かったぜ」
「そうだな。うちらの隊長もエグいことを考える」
 すでに作戦は通達されている。
 向の崖に記された目印へ、特殊な矢を射かけ、崖を崩す。

 合図を待つ兵は、対岸で潜み。爆発が起き始めれば、次々に射かけろと命令をされている。命令は単純に、だが判りやすくしなければいけない。
 レオン達は経験的に判っているため、そういう指示を出す。

 複雑な命令は、伝令途中で勝手に変わることがある。

 
 戦場では、敵兵が何とか谷側へ引くまで続けられ、殿が谷まで引いた。
 そこまでで、三時間以上。
「頃合いだな」
 レオンが手を上げ、赤い布が振られる。

「合図だ。放て」
 炸裂弾頭付きの矢が放たれる。

 対岸の目印に向かって飛んだ矢は、目印を射貫くと小爆発を起こす。
 それが、切っ掛けになり、埋め込まれた魔石が本格的に爆発をする。

 それは、壁を破壊して、崩落が始まる。

 落石が敵兵を襲う。

 そこは、谷と山に挟まれた狭隘きょうあいな道。
 逃げ場所などはない。

 帝国兵は、なすすべなく崩落に飲まれていく。

「やばい。やばいぞ。誘い込まれた」
 帝国のジャンマルコ=ヤクウィン伯爵は、ある程度のことは理解し、予想していた。
 だが、一瞬でこの規模の崩落が襲ってくるなど、思いもよらないこと。
 道の壁側へ、張り付くように逃げる。

 その目の前で、兵達が落石に襲われ、谷の方へと押し出されていく。
 ただそれを、見つめるだけ。
 大きめの石は、人を一瞬で破壊してしまう。

 そんな地獄の様な光景が、すぐ目の前で起こる。
「容赦ないな。敵の将は」
 魔法を使い、数千もの人間を燃やし尽くしたが、それ以上の人間が。今この瞬間に死んでいく。

「戦いは、むなしいな」
 そんな事をつぶやきながら、ヤクウィン伯爵も土に埋められていく。


 逃げられたのは、奇跡だった。
 その兵は輸送部隊として荷を運んでいたが、向こうから轟音と共に道と兵が消えていった。
 部隊長が優秀で、すぐに命令が来る。
「荷などかまわない。放り出して逃げろ」
 その命令を聞いて、動けた人間は助かった。

 理解できなかった奴らは、付いてこなかった。
 きっと埋まったのだろう。

 その日。
 今回遠征に参加した帝国兵は、全滅。
 輸送に携わった大隊に、生き残りが出たが、それだけだ。

 その報は、帝国を震撼させた。


「ジャンマルコ=ヤクウィン伯爵を含め全滅? 奴が集めた魔法師は?」
「おそらく全滅でございます」
 女帝テレーズバイルは、宰相ヴィム=デーネンからの報告を聞いたとき、目眩がした。
 前回失敗をしたと言っても、ヤクウィン伯爵の実績は大きい。
 困難な戦場でも、ひょうひょうとした態度で、勝利の報を運んできていた。
 それが、一万五千もの大部隊が全滅。

「一体、アウルテリウム王国で何が起こっている?」
「調査をいたします」
「そうしてくれ」

 その調査により、女帝テレーズバイルは王国への正攻法を諦め、謀略による弱体化を計画をする。

 考えれば判ることでも、浅はかな権力者が王国には多い。

 その者達は、帝国の掌で踊らされ、時間を置かず。それは内乱へと拡大してしまう。

 その渦中で、レオン達は、その存在を増すことになる。
 そして、その事が後に、王国にとっての脅威となっていく。

 神は、何を求めるのか。
 動乱は、時間をおかずに、繰り返される事になる。
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