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第二章 王国兵士時代
第35話 再戦と帝国軍の最後
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「これは近づけない」
多少下った平原から、未だに熱風が吹き上がってくる。
草や木がまるごと燃え尽き、まだ土は赤くなり熱を発している。
「全滅ですな」
「ああ。こりゃ。俺達は後ろに回っていて幸運だな」
俺達を含めて、集まってきた兵達も呆然としていた。
反対側。谷の方で人がちょろちょろしているのは、魔法の結果を見に来た敵の斥候だろう。
「奴らはきっとまた来る。準備をする。周囲の森で隠れて大弓をを作り、破裂弾頭を矢の先に付けろ。偽装のために櫓もな。それと、谷へ回り込み。退路にも破裂装置を仕掛けろ。敵が引き出したら落石を起こす」
「珍しくエグいことを。魔石の件は使っても大丈夫ですか? 侯爵が領内での秘匿をと仰っていたものでは?」
ミヒャルはそう言うが、この二ヶ月で仲良くなった輸送部隊の連中も犠牲になってしまった。それに。
「権利者は俺だ。今回ちょっと間違えれば、俺達も死んでいた。俺は…… 殺されるのは嫌いなんだ」
「そうですな」
「ああ。そうだ、王都へ、本隊全滅の報を入れろ。援軍求むの連絡もな」
「御意」
連絡兵達が走って行く。
平原は、その日一日。熱を発していた。
「仕方が無い。やるか」
敵が寛いでいる間に、知力を絞り罠を仕掛ける。
どうせ、まともにやっては勝てない。
向こうの数は多く、精鋭が残っている。
休憩を挟めば、魔法師団も復活をするだろう。
「正々堂々と、戦う気はありませんか?」
副将であり、軍師でもあるミヒャルは嘲るように聞いてくる。
「あるわけないだろう。情報が正しければ、敵は倍以上だ」
わざとらしく、首を振り手を広げながら答える。
「あなたらしい」
谷に沿って続く街道では、その日から数日、崖の上で夜の闇に紛れてレオン達の部下が仕掛けを施していく。
それは、一万五千ともいわれる、帝国の大部隊が途切れる所までずっと。
魔石の粉を、袋に詰めそれを土に埋める。
その周辺に、特殊な矢か魔法を撃ち込めば、連鎖的に魔力が解放されて、大爆発をする。
その矢は、対象にぶつかったときに、魔石の粉が破裂するように作られた特殊な矢。重くなるため、距離は飛ばせないが谷の両岸なら届く。
他にも、ゼンマイという仕組みを考案して、時間で破裂する物もある。
それは、薄い金属を力を掛けて巻き込み、手を離せば元に戻ろうという力を利用したもの。
そんな準備をしつつ、三日後。
「どうなさいますか?」
ミヒャル=コンフューシャスは、わざとらしくレオンに聞く。
「作戦通り、森の中に隠した大弓を斉射。敵が引き始めれば、後背のがけを崩せ」
レオンは、ミヒャルを一瞥すると、呆れたように伝える。これはむろん言わなくても知っているだろうという意思表示。
すると彼は、にへらと笑い、ふざけたことを聞いてくる。
「宣誓はよろしいので?」
眼下で蠢く、敵の流れを確認をしながら、わざわざ聞いてくる。
此処は平原側ではなく、すでに山側の中腹。
今から敵の前に出ていく気は、毛頭無いことは彼も知っている話だ。
「全滅をさせれば、形式など、あったかどうかは伝わらん」
俺がそう言うと、ミヒャルは、にやっと笑う。
「聞いたか。准将は敵の全滅をご所望だ。中将様達の弔いだ。一気にいけ」
周囲にいる兵に向かい、茶化すように、命令が宣言される。
それを聞き、伝令となる兵が、攻撃の開始を伝える為に走って行く。
それは音もなく始まった。
見たことがある、櫓。
人数はいたが、あれが本隊ではないことを、帝国のジャンマルコ=ヤクウィン伯爵は理解をしていた。
「あの時は、なすすべなくやられたが、今度は、魔法師団を作った。むざむざとはやられんぞ」
本来の目的は、勝手に宿敵と考えている辺境伯軍とハンター達。
せっかくの殲滅魔法を、ただ人数が多いだけの雑魚相手に使ったのは痛いが、仕方が無い。
兵を休ませながら、平原の様子をうかがっていると、あっという間に櫓が組まれたようだ。
木を切っているのだろう。森の中からも音がすると兵から連絡が来た。
「時間をおくとまずそうだ、早々に出るぞ」
平原に出ると、相手の将は顔も出さず。いきなり矢が飛んでくる。
「ええい卑怯な。魔法師団、あの櫓を燃やせ」
「伯爵様。もう少し距離が近くないと無理でございます」
「いつもいつも。――全軍前進」
「はっ」
いつも奴らは、こちらが届かない距離から攻撃をしてくる。
投石装置を加工し、飛距離を伸ばす物を作ったが、組み立てる暇が無かった。
それは、敵ががっちりと森を抑えたからだ。
その防御は堅く、入り込めなかったと報告を受けている。
曰く、『小隊が一瞬でやられました』そんな報告を、両側の森へ行った兵からそれぞれ受けている。
「どれだけ精鋭なんだ。あのだらだらした軍は一体何だったんだ?」
二ヶ月間も古くさい手で、人数を頼りに一進一退をやっていた軍。
「いや、我が帝国でも。駄目な奴らは居るか……」
そんな事を、ふと思っていると、森の中から大弓の矢が飛んできた。
それは音もなく、死を運ぶもの。
生き残った兵は、後にそう語る。
大きな矢が飛来し、数人の兵を巻き添えにしながら、地面へと突き刺さる。
その瞬間。それは破裂をした。
多少下った平原から、未だに熱風が吹き上がってくる。
草や木がまるごと燃え尽き、まだ土は赤くなり熱を発している。
「全滅ですな」
「ああ。こりゃ。俺達は後ろに回っていて幸運だな」
俺達を含めて、集まってきた兵達も呆然としていた。
反対側。谷の方で人がちょろちょろしているのは、魔法の結果を見に来た敵の斥候だろう。
「奴らはきっとまた来る。準備をする。周囲の森で隠れて大弓をを作り、破裂弾頭を矢の先に付けろ。偽装のために櫓もな。それと、谷へ回り込み。退路にも破裂装置を仕掛けろ。敵が引き出したら落石を起こす」
「珍しくエグいことを。魔石の件は使っても大丈夫ですか? 侯爵が領内での秘匿をと仰っていたものでは?」
ミヒャルはそう言うが、この二ヶ月で仲良くなった輸送部隊の連中も犠牲になってしまった。それに。
「権利者は俺だ。今回ちょっと間違えれば、俺達も死んでいた。俺は…… 殺されるのは嫌いなんだ」
「そうですな」
「ああ。そうだ、王都へ、本隊全滅の報を入れろ。援軍求むの連絡もな」
「御意」
連絡兵達が走って行く。
平原は、その日一日。熱を発していた。
「仕方が無い。やるか」
敵が寛いでいる間に、知力を絞り罠を仕掛ける。
どうせ、まともにやっては勝てない。
向こうの数は多く、精鋭が残っている。
休憩を挟めば、魔法師団も復活をするだろう。
「正々堂々と、戦う気はありませんか?」
副将であり、軍師でもあるミヒャルは嘲るように聞いてくる。
「あるわけないだろう。情報が正しければ、敵は倍以上だ」
わざとらしく、首を振り手を広げながら答える。
「あなたらしい」
谷に沿って続く街道では、その日から数日、崖の上で夜の闇に紛れてレオン達の部下が仕掛けを施していく。
それは、一万五千ともいわれる、帝国の大部隊が途切れる所までずっと。
魔石の粉を、袋に詰めそれを土に埋める。
その周辺に、特殊な矢か魔法を撃ち込めば、連鎖的に魔力が解放されて、大爆発をする。
その矢は、対象にぶつかったときに、魔石の粉が破裂するように作られた特殊な矢。重くなるため、距離は飛ばせないが谷の両岸なら届く。
他にも、ゼンマイという仕組みを考案して、時間で破裂する物もある。
それは、薄い金属を力を掛けて巻き込み、手を離せば元に戻ろうという力を利用したもの。
そんな準備をしつつ、三日後。
「どうなさいますか?」
ミヒャル=コンフューシャスは、わざとらしくレオンに聞く。
「作戦通り、森の中に隠した大弓を斉射。敵が引き始めれば、後背のがけを崩せ」
レオンは、ミヒャルを一瞥すると、呆れたように伝える。これはむろん言わなくても知っているだろうという意思表示。
すると彼は、にへらと笑い、ふざけたことを聞いてくる。
「宣誓はよろしいので?」
眼下で蠢く、敵の流れを確認をしながら、わざわざ聞いてくる。
此処は平原側ではなく、すでに山側の中腹。
今から敵の前に出ていく気は、毛頭無いことは彼も知っている話だ。
「全滅をさせれば、形式など、あったかどうかは伝わらん」
俺がそう言うと、ミヒャルは、にやっと笑う。
「聞いたか。准将は敵の全滅をご所望だ。中将様達の弔いだ。一気にいけ」
周囲にいる兵に向かい、茶化すように、命令が宣言される。
それを聞き、伝令となる兵が、攻撃の開始を伝える為に走って行く。
それは音もなく始まった。
見たことがある、櫓。
人数はいたが、あれが本隊ではないことを、帝国のジャンマルコ=ヤクウィン伯爵は理解をしていた。
「あの時は、なすすべなくやられたが、今度は、魔法師団を作った。むざむざとはやられんぞ」
本来の目的は、勝手に宿敵と考えている辺境伯軍とハンター達。
せっかくの殲滅魔法を、ただ人数が多いだけの雑魚相手に使ったのは痛いが、仕方が無い。
兵を休ませながら、平原の様子をうかがっていると、あっという間に櫓が組まれたようだ。
木を切っているのだろう。森の中からも音がすると兵から連絡が来た。
「時間をおくとまずそうだ、早々に出るぞ」
平原に出ると、相手の将は顔も出さず。いきなり矢が飛んでくる。
「ええい卑怯な。魔法師団、あの櫓を燃やせ」
「伯爵様。もう少し距離が近くないと無理でございます」
「いつもいつも。――全軍前進」
「はっ」
いつも奴らは、こちらが届かない距離から攻撃をしてくる。
投石装置を加工し、飛距離を伸ばす物を作ったが、組み立てる暇が無かった。
それは、敵ががっちりと森を抑えたからだ。
その防御は堅く、入り込めなかったと報告を受けている。
曰く、『小隊が一瞬でやられました』そんな報告を、両側の森へ行った兵からそれぞれ受けている。
「どれだけ精鋭なんだ。あのだらだらした軍は一体何だったんだ?」
二ヶ月間も古くさい手で、人数を頼りに一進一退をやっていた軍。
「いや、我が帝国でも。駄目な奴らは居るか……」
そんな事を、ふと思っていると、森の中から大弓の矢が飛んできた。
それは音もなく、死を運ぶもの。
生き残った兵は、後にそう語る。
大きな矢が飛来し、数人の兵を巻き添えにしながら、地面へと突き刺さる。
その瞬間。それは破裂をした。
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