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第二章 王国兵士時代

第30話 友の裏切りと最後

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 ダレルは、断れるわけもなく。優秀で近しい兵に状況を説明をする。

「それは、真でしょうか?」
「事実かどうかは不明だが、教会経由でこの話が来ている。それに理由も理解ができしな」
「それはそうですが、王への反意と見られます」
「そうだ。俺達の正体は、何があっても知られてはならない。全員身分がわかるものは持っていくな」
「はっ」

 計画は入念に立てる。
 ホワイト伯爵の令嬢を拉致して、貴族街奥の専用門。その近くにいる者達に受け渡す。
 そして俺達は、すぐ近くのアジトで兵装に着替えて、警備に紛れ姿を消す。
「以上だ。重要なのはスピードと追っ手の対処。引き渡しとアジトへ入るところだけは見られてはならない」
「「「はっ」」」

 覆面を付け、怪しい者達。
 おおよそ三〇名が走る。

 町の中央にある通りを、一台の馬車が、通常では考えられない速度で異動をしていく。騎士達は、馬に乗り。護衛をするからこそできる芸当。

 そこに幾つもの魔法。
 火球が撃ち込まれる。
 馬たちは驚き、足を止めてしまう。

 そこへやって来た、怪しい連中。
 周りにいた民を突き飛ばし、馬車へと群がる。
 中に居た、護衛は一瞬で無力化される。
 
 殺されてはいないが、雷だろうか? 令嬢ごと気を失う。

「運び出せ」
 ここまでは良い。
 ダレルは周囲に、雷を振りまく。

「ぐっ。魔道士め卑怯な」
 消えゆく意識の中で、騎士達はそれだけのみ情報を得た。

 そう、ここまではダレルの考え通り。
 剣ではなく、魔法優先。

 目先を、魔道士へと向けさせる。
 アジトへ向け、走り始める。
 その時、幾つかの笛が聞こえた。

 周囲を警戒しながら全員無事に、待ち合わせ場所へとやって来る。
「おお。これはこれは。見事なお手並み」
 どこかの貴族が有する馬車だろうが、家紋は隠され見えない。

 速やかに、受け渡しアジトへ。そう思ったら、背後ではなく、周囲から兵が現れる。
 そして、その兵がしている腕章。
 白地に赤と青の線。それは、レオンの隊。

「ちっ」
 魔法を放ち、逃げに掛かる。

 だが、追っ手の兵も追いついてきた。
「仕方が無い。やれ」
 兵同士殺し合いはしたくなかったが、レオンの隊も魔法は鍛えられている。
 雷魔法を放っても、シールドを張られ、効き目がない。

 逆に、火球が飛び、それに隠され、氷のニードルが飛んでくる。
「卑怯な」
 あれは遺跡で見つけたと、嬉しそうに語っていたもの。
 もう武器として、配備をしていたのか。

 レオン配下の兵は、捕らえることを優先。
 足に怪我を負わすだけでいい。
 むろんそれは、ダレルも同じだが、実力が同じ程度の兵が倍以上いる。
 戦略的にも負けている。

「くそう。大技を使う。皆逃げろ」
 炎と刃を持つ風。
 それを、四方に向けて放つ。

 魔力的には、限界。

 だが、そんな大技が、中和される。
 風に対し、逆向きに風を当てる。

 そう。レオンがやって来た。
 絶対バレるわけにはいかない。
 仲間達を再度周りに集め、逆方向になるが、魔法を集中させる。

 当然背中側の注意はそれ、そんなスキを許すレオンでは無い。
 彼らの体が一瞬光る。
 随分使った、雷魔法が逆に彼らを襲った。

「しまった」
 そこで意識を失い倒れる。

 レオン達は、すぐに逃げようとしていた、馬車に対して攻撃を開始する。
 手練れがいて、卑怯にもその場で令嬢を手にかけようとした奴も、雷を受け剣を振り上げたまま、倒れていく。

 その時間。わずか十五分程度。

 討伐が終わり、周囲の索敵と、騎士団に対して捕縛を依頼する。
 あくまで今回の主警備は彼らだ。

 そして、後日詳細な情報が出た。

 事件その物は、思っていたとおりだから、それで良い。
 だが実行犯がダレル達であり、それを捕らえたのが俺だということ。
 その衝撃は、レオンにも大きかったが、シグナの集い。
 残されたメンバーにも大きく影を落とす。

 さらに、これが切っ掛けで、レオンは、少佐へと昇格をした。
 それは仲間の目には、理不尽な思いとして映る。

「戦闘中に気が付かなかったのか?」
「ダレルの兵。逸れも手練れを集めた三〇人何だ。そんな暇はなかったし、お嬢さんを乗せた馬車が逃げようとしていた。無理だ」
「そんな」
 特に仲が良かったヴェリにとっては、辛いらしく。
 理屈ではわかっていても、納得は出来ない様だ。

 それを聞いていた、ミヒャルが口を開く。
「誰か、相談を受けましたか? 今回の事で」
 みんなが、顔を見合わすが誰も受けていないようだ。

「ではそう言うことです。誰が悪いという事は無い。しいて言えば、ダレルが悪い。いつもの様に皆に相談をすれば良かった。それだけです」
「それはそうだが……」
 フフタラが不満そうな顔をしてぼやき始める。

「俺達は、村にいたときからのダチなんだ。そう簡単に割り切れないし、納得も出来ない」
 そんな事を言うのは、謀反により刑の内容は当然知っているから、そして面会なども出来ない。
 さらに俺達には、近々グレタ=トーンデモ侯爵の討伐に参加する。
 王への反逆。
 今回の件、そう判断をされた様だ。

「そんな仲なのに、相談され無かったんですね。フフタラさんとダレルにどうも思いに対して差があったのでは?」
「それは違う…… 違うと思う。友達なんだ」
 そう言って、フフタラは黙ってしまう。
 うつむき、涙をこぼす。

 その涙は、何に対してのものなのか。
「そうですか」
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