神の使徒は闇を走り、道化師は戯れる。ー 異世界、世直し道中記 ー

久遠 れんり

文字の大きさ
65 / 117
漁師。ダナ

第64話 彼等は静に

しおりを挟む
「えっ、男爵さまが」
「ああそうだ。貴様らもあれに目を付けたようだが、横から手を出されると我らも面倒なのだよ」
 
 網元であるマルティヌスは、威張っていても田舎の小悪党。
 貴族になどに逆らえる訳もない。

「しかし、たかが瓶詰めの食品など」
「分かってはおらんようだな、あそこで売っている食品の価値を」
 そう言って、サンピン=チミヤレ騎士爵は、上から目線のいやらしい笑みを見せる。

「味の基本となっているあの乾物。あれに使われている調味料。あれが画期的なのだよ」
「調味料ですか?」
「そうだ」
 それを聞いて、マルティヌスは首をひねる。
 多分使われていても塩だと思う。
 彼はそう考える。

 どうやら、さすが網元。
 魚介類の味は知っているようだ。
 そう乾物特有のうま味。それを貴族であるサンピン達は勘違いをした。

 よく使われているグルタミン酸を、カグラはまだ作っていない。
 すぐに作るとは思うが、この時にはまだ出来ていない。
 醤油を造り、ラーメンを作ったときに、アレッと思い開発をすることになる。

 昔の屋台風ラーメンには、あれのうま味は必須だ。
 そう、あの動画サイトで酔っ払いながら叫ぶ料理研究家や、むかし、関西の歌手が料理を作るとき、収録時にものがないと大騒ぎをして事件になったあれだ。
 今は、サトウキビを発酵をして酒と同じ様な製法で造っている。


 でだ、貴族達は勘違いをしたまま、その旨さに驚き、手に入れたくなったようだ。

「はあ、そうでございますか」
「そこでだ、あそこの店主をさら…… いや招いてダナ、おど…… 話し合いをして…… すべて譲渡して貰う。権利ごとな」
 にやりとそう言ったのだが、それを聞いて少し困る。
 乾物は、この地域全体で作っている。それが作れないとなるとダメージの方が大きい。

 腐っても網元。この村を潰すようなことはできない。
 何より、自分の利益を奪われる話だ。

「御恐れながら、あのうま味は、魚介類を干したうま味です。あれは昔からこの地で作られていたもの。それを持って行かれると、漁民の生活ができなくなります。そうなれば漁に出る人間もいなくなります」
「どういう事だ?」
 それから数時間理解ができない騎士爵のために、捌いたばかりの魚、干して行くにつれて味が濃くなる様子を味見させながら教えていく。

「なんと言うことだ、これは物によって違うのか?」
「はい。あやつらは小魚を使っていると思います」
 実際は、昆布も使っているのだが、自分たちは使わないので、理解できなかったようだ。無論某漫画で書かれた引き出し昆布みたいな物では無く、きちんと出汁を取ったもの。

 水出し昆布は簡単だが、一晩冷蔵庫に入れるため、家族に間違って飲まれる危険がある。
 そう、そうめんつゆと、水出しの昆布は危険だよね。
 まあ今は、ある程度の量を作るために三十分ほど水の状態でつけておき、ゆっくりと加熱、沸騰寸前に取り出す方法を使っている。昆布は重量で一パーセントくらい。
 産地などによって量は調整すること。シェーンバリ産の昆布は肉厚で味が濃いので少なめでいい。



「ねえこのお店の店長って誰?」
 売り上げを持って来たマリーナがデルデンに聞く。

「うん? 一応オレだよ。商品はカグラさん任せだけれど」
「えっ、デルデンなんだ。そう」
 多少痩せて、りりしくなったデルデン、マリーナの目が少し怪しい。
 彼女も、幼馴染みと適当に一緒になった口。
 旦那は当然の様に漁業関係者で貧乏。
 子どもの頃からこの村のことは知っていたけれど、カグラが来てから、一部だけが変わってきた。

 マリーナは、このダナの家と、デルデンの家が綺麗になり、お風呂やトイレ、そして綺麗なベッドがあることなどを知っている。
 当然隙間風も入ってこないし、雨漏りもしない。

 カグラは、二人後ろで睨んでいるから怖いし、彼は独り占めできるような人間ではないと勘が働いている。

 旦那のことが好きかどうかと言えば、慣れている。
 そう…… 昔から知っているから、好き嫌いではなく、兄妹という感じだ。
 仕方が無いから、今は夫婦として暮らしている。
 環境が変わり、多少ムクムクとよからぬ考えも浮かんでくる。
 人とは、業の深いもの。贅沢を知るともっとと望んでしまう。

「ねえ、デルデン」
 少しうるっとした瞳で、マリーナは彼を見つめる。
「うん、どうした?」
 彼は鍋で何かを作っている。

 彼に抱きつこうとしたとき、ドアが開く。
「いやあぁ、疲れたぁ。あんたぁ、カグラさんは?」
「お帰り、カグラさんなら、岬の工場だと思う」
「ああ、あそこね折角言っていた魚だと思うけれど、釣ってきたのに」
 すっかりワイルドになったダナの姿だった。

 危なっかしそうで見かねて、デルデンの代わりに船に乗り始めたダナだが、魚を獲るという狩人的な行動が、彼女の何かを刺激した。
 そう、体は細く、食べることもまともにできなかった、か弱そうな彼女は、すっかり漁師のオッサンへと変貌をした。

 日焼けをした彼女の顔は自信に満ちあふれて、たくましくなっていた。

 友人に幸せを見る度に、少しずつご機嫌が悪くなっていくマリーナは、今晩も旦那と喧嘩をする。

 そして、彼女達の幼馴染みであるドメニカの家も少し荒れてきていた。
 元々、だんなのヘルハルトは、好きだったダナに告白しようとして、ファンに先を越された。それを見て落ち込んでいた彼を慰めて一緒になった経緯がある。

 周囲の幼馴染み達が、ざわざわと行動を起こし始める。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

令和日本では五十代、異世界では十代、この二つの人生を生きていきます。

越路遼介
ファンタジー
篠永俊樹、五十四歳は三十年以上務めた消防士を早期退職し、日本一周の旅に出た。失敗の人生を振り返っていた彼は東尋坊で不思議な老爺と出会い、歳の離れた友人となる。老爺はその後に他界するも、俊樹に手紙を残してあった。老爺は言った。『儂はセイラシアという世界で魔王で、勇者に討たれたあと魔王の記憶を持ったまま日本に転生した』と。信じがたい思いを秘めつつ俊樹は手紙にあった通り、老爺の自宅物置の扉に合言葉と同時に開けると、そこには見たこともない大草原が広がっていた。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

処理中です...