神の使徒は闇を走り、道化師は戯れる。ー 異世界、世直し道中記 ー

久遠 れんり

文字の大きさ
57 / 117
漁師。ダナ

第56話 使える男デルデン

しおりを挟む
 お母さんが使えない息子だと言っていたが、デルデン君は意外に博識だし、何でも器用にこなす。

 ただ運動能力が、それと引き換えのように最悪なだけ。
「体のコントロールが下手だよな」
「えっ何が?」
 いま、四角い枠に網を張って、その上に海苔を並べている。

 海苔を少し粉砕をして、真水で洗浄。紙をすく感じで均一に乗せて、乾燥をするための作業だ。


 そうちょっとした、作業時に体が思うように動かないようだ。

「あの子は、子どもの頃から、よく転んでいたよ」
 お母さんからの情報。

 子どもの頃は、頭の比率が大きくバランスが悪い。
 育つと改善されるが、病気だという可能性もある。

 勝手にスキャンをして、確認をする。
「うん。問題なし」
 ただ、歳にしては筋力。特に下半身がひ弱だ。
 きっと人並み外れて賢いこいつは、動くと怪我をすると理解をしたために、安全を考えて、必要最小限しか動かなくなった。
 そのため、運動が駄目駄目で、骨も細めだ。

「デルデン君、きみ、筋肉が少ない。それは体に悪いからトレーニングしよう」
 突然そんなことを言い出せば、当然困惑顔。

「えー…… 子供の頃からよく転ぶんだよ」
 やはり理解をしていたのか。頭が賢いのと相関があるのか、物理的に頭でっかち。
「だからだよ。転ばない体を作ろう」

 そうコイツ、このまま腐らせるのは勿体ない。
 そうして、デルデン君のため、身体強化プログラムを俺は実行する。
 運動しすぎて、筋繊維が切れても俺なら修復ができる。
 そう、数日間で普通の人が体験できない素晴らしい超回復と運動能力の向上を目指そう。どこかの会社じゃないが、結果を約束コミットしよう。いざ目指せ人外。君が望むなら…… 望まなくとも、盗賊くらい。一ひねりできる程度まで鍛え上げよう。

 彼を見つけて、後ろから肩を抱く。
 そして見上げるのは、見覚えのない星々……
 適当に指をさす。
「見ろ、あの星が見えるか」
「あー見える。あれがなんだ」
 彼も星を見上げながら、首をひねる。

「……目は良いな。さあ始めよう」
 あの星を目指せ的なことを言おうとしたのだが、良いセリフが思い浮かばなかった。
 そういう事って、あるよね。
 飲み会とかの挨拶で、いざ…… 何も浮かばず「乾杯」。ただそれだけ言ってごまかした経験。

 後にその星が、この太陽系の惑星だと気がつくが、どうでもいい話。

 そうして彼、デルデン君はしばらく地獄を見ることになる。
 そしてこれのおかげで、カグラは振られることに……

「走れぇ」
 彼の腰にロープを巻き付けて、引っ張る。
「無理、むり、むりぃ」
 背後からなにか聞こえるが、当然無視だ。

 そう彼は絶望的に、運動ができない。
 だから最初は、手取り足取り、拘束をして運動させた。
 走るときは、引っ張るだけだけど、運動というか型稽古は手首同士と足首同士、四本の棒で繋がった状態。

 そう右手を出せば、彼の左手が押し込まれる。
 棒で繋がった二人、超高速で動き始める。
「うわあぶっ、あしっ。足はそんなに回らないから。ゆっくり」
 


 デルデン君は考えていた。
 今日いきなりやって来た男。
 ダナを助けると言っていたが、海へ行くと奇妙なものに興味を示して食べるという。

 そして、なぜか突然崖を壊して、連れて行かれた女達を発見。
 あっという間に、家を造り、そして俺の体がどうこう……
 なんだこいつは?

 だが、今はそんな事などどうでもよく…… このままでは死ぬ。
 だけど、ひっくり返り、動いたせいで息ができなくとも、こいつから光が発せられるといきなり楽になる。
 そしてまた走る。

 そうだ…… 俺はなんで、こんな目にあっているのだろう?

 だけど、数日経つと、気のせいか体が軽くなってきた。
 そして数日、港周辺を走っていた彼が、突然理解をしたと言い始める。

 でだ、翌日には、なぜか中型の船ができていた。
「俺は色々な船を見ていた。そして理解をしたのだよ」
 そう彼は、何かを考えていると思ったら、突然『すべては理解した』そんな事を言い始めるときがある。

「こう言うのは、様式美と言うんだ」
「様式美?」
「そう。何かを感じたら、額の辺りで放電するとか。じっちゃんが怖いから。とか言って推理を間違えないとか。何もかもおもしろいと言って、ミサイルのスイッチを押すとか…… あれ? 何か記憶がおかしいな。何もかも懐かしいと言って、コロニーを落とす? 宇宙は? 広大だわと言って、移住可能な星を、歌いながら探す?? いやいや二股がバレて主人公が刺されて? パイロットをやめて中華料理屋?」
 そう言って彼は、頭を抱えながら悩み始めた。

「いやそれで、鍋を振ったら、時空がおかしくなって、新宿は魔界都市となって…… あれ? 振ったのは木刀だったか? 忘れた。さあ、とにかく行こう。海と陸の狭間へ」

 そう言って彼は、訳の分からない事を言い放つと、一人で納得をして。少し変な顔をしながら、俺を真新しい船に乗せる。
 だけど、俺の方は会話の中に、聞いたこともない単語が幾つも出てきた。
 そっちのことが気になったが、船が動き始めると、それすらすぐに気にならなくなった。

 俺達が使っていた船は、風があるときは帆を使って進み、凪いでいるときには手で船尾から伸びたを漕ぐ。
 彼が造った船は、普通の船と違って、二隻の船を合わせた形で、彼は双胴船と言っていた。

 真ん中は橋となって、両側を繋いでいるが、かなり余裕がある。

「行くぞ。何かに掴まれ」
 そんな言葉が聞こえた瞬間……
「えっ?」
 なぜだか、俺は海の中に居た。
 立っていただけで、足元にあった船が消え、船体の船尾部分の立ち上がりで、足を払われた。
 空中で、縦に二十回転くらいしたよ。

「何をしているんだよ?」
 そう言って彼は、呆れてように言いながら帰って来た。

 船に引き上げて貰い、ついでに網の口を引き上げる。

 俺を振り落とし、沖から帰るときについでだからと網を入れたらしい。
 底引きだとか。

「魔導推進式双胴船。推力は水力だ。水魔法を使って進む。早さは…… 途中で三十メートル以上空を飛んだ」
 そう言って彼は腕を組み、うんうんと納得顔。

「早さの単位がそれ? 空を飛ぶってなんだよ。それにメートルって何?」
「この位が一メートル。一パソームの三分の一?」
 一パソームはおおよそ一ひろ。両手を広げたのが尋だ。
 釣りをする人は、よく使う単位だ。

「と言う事は、十パソームも空を飛んだのか?」
「そうだな」
 そうして浜に戻り、網を引き上げて見る。

 見たことがないくらい魚がいて、驚いたよ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

令和日本では五十代、異世界では十代、この二つの人生を生きていきます。

越路遼介
ファンタジー
篠永俊樹、五十四歳は三十年以上務めた消防士を早期退職し、日本一周の旅に出た。失敗の人生を振り返っていた彼は東尋坊で不思議な老爺と出会い、歳の離れた友人となる。老爺はその後に他界するも、俊樹に手紙を残してあった。老爺は言った。『儂はセイラシアという世界で魔王で、勇者に討たれたあと魔王の記憶を持ったまま日本に転生した』と。信じがたい思いを秘めつつ俊樹は手紙にあった通り、老爺の自宅物置の扉に合言葉と同時に開けると、そこには見たこともない大草原が広がっていた。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

処理中です...