神の使徒は闇を走り、道化師は戯れる。ー 異世界、世直し道中記 ー

久遠 れんり

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トシュテン商会の娘イーリス

第48話 ズィクムントの町

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 少し見ない間に、ズィクムントの町は変わっていた。
 今や世界中から、名だたる薬師達が集まり、奇蹟の町と呼ばれるようになっている。
 希少な薬草が定期的に入手できて、当然それを使った希少な薬が手に入る。

 文字通り、奇蹟の町。すべての中心は薬処安心堂。
 その店の店主、アバドンを中心に作られた新薬師ギルドが力を発揮していた。


 数年前まで幅をきかせていた、大手の薬屋は姿を消して、小さな薬屋が乱立。
 薬に関わる、一大拠点となっていた。

「なんだか、人が多いわね」
「そうだな。何か祭なのか?」
 カグラ達は久しぶりに帰って来て驚いた。

 もっと山の中らしい、ひっそりとした町だったはずだが。

 キョロキョロしながら、ギルドへ入る。
 すると、人が沸き返っていた。

 話の内容は、薬草の群生地について情報が飛び交っている。
「なんか変わったな。前は群生地など秘匿情報だったのに」
 そう、情報通は、自分で採取せず情報を売る。
 危険が無くて楽。
 だが、そのためには日々情報収集が必要。
 本人は動かなくとも、冒険者に金を払い情報を買う。

 そんな事を思っていると、ガバッと抱きつかれる。
「カグラさん。お帰りなさい」
 カグラの胸元で、マーキングするように顔をなすりつけているのは、レーナ。
 もう二十を越え、美人さんになっていた。

「ああ、ただいま。あの、盗賊退治の依頼ってどうなった?」
 そう聞かれて、ガバッと顔を上げる。
 胸元で、見上げてくる視線。
 なんだかゾクッとする。

「確か、『境界の向こう』の皆さんがサインをして、処理したはずです。カグラさん達は、被害者さんを送って行ったことになっていたはずです」
 それを聞いて安心をする。どうやら、依頼未達成ではないようだ。

 だがその時、ギルド内の雰囲気が、変わっていたことに気がつかなかった。

「おい、無表情の化身だった、レーナ嬢が笑っていやがる。あいつは何者だ?」
「あっいや。俺知ってる。姉御のおもちゃだった奴だ」
 その言葉に反応をしたのは、『黄昏の五人』ルッツ達。
 二年の間に年を少し取り、リューベック達も二十歳を越えていた。

 だが……
「おう。カグラ久しぶり……」
 そう言って挨拶をして来たのだが、ものすごくばつの悪そうな顔。
 そして奇妙な服装。

 最新防具の下に、少し前に貴族の中で流行っていたフリル付きの服。
 そう顔を塗っていれば、ピエロとかそんな感じに見える。
 カーラ達女子組も、ドレスを着ている。
 完全に冒険者の格好ではない。

「なんだお前達…… 羽振りが良さそうだな?」
 つい疑問形になってしまう。

「あーそのなんだ。あの薬草園のおかげでな。ぼちぼち稼がせて貰っている」
 そう言えば、管理者がいないと困るから頼んだよな。

「面倒を見ているのか?」
「ああ餌も与えているし、元気そうだよ」
「それならよかった」
 そう、思い出の薬草園だが、辛いし任せておこう。

 あれは元々、ユスティと…… シュザンヌ嬢のために作った場所。
 息子さんは元気になっただろうか……

 そんな話をしていると、カウンターの向こうから、奴が来た。
 フィネッティ嬢と、ギルドマスターアンジェラだ。

 そして目が合う……
 目をそらす。
 だが遅かった。
  
 俺に張り付いていたレーナ嬢が、下履きを見せながら、床を滑っていく。
 抱きつかれる寸前、体を躱し、脇の下に腕を滑り込ませて足を払う。
 そして見事に、投げを決めて、仰向けからうつ伏せに半身を返して腕を極める。

「お久しぶりです」
「お久しぶりは良いが、なぜ投げた。しかも腕が極まって動けん。放せ」
「襲いませんか?」
「襲わんだろう。多分だが」
 少し悩んだが、腕を放す。

「ひどい奴だ。被害者を送って行ったまま、連絡も無しに二年とは……」
「それほどの時が流れていようとは、ついぞ思いませんでした」
「少し背が伸びたな」
 そう言っているが、目は肉食獣そのものだ。


 そうして、奥の応接室に引っ張り込まれて、盗賊の首と手配書を返して叱られた。
「無くなったと思ったら、お前が持って行っていたのか」
「えっ、くれたじゃないですか?」
「普通は見て覚えるんだ。紙も高いのに。ああそうだ。最近この白い紙が出てきて安くなったんだ」
 それを見て、ディアナが笑い始める。

「どうした?」
「それ、カグラが作ったんです」
「なに? 本当か?」
「ええ、まあ。ヨウシア国のトシュテン商会で売っています」
「むう」
 そう言って腕を組む。
 それも、わざとらしく胸を持ち上げてゆさゆさと。

「他には?」
「陶器類ですかね」
 そう言って取り出すと、アンジェラの目がクワッと開く。

「これは…… なんだ……」
 こっちまでは来ていなかったようだ。
「磁器です」
「ふうむ。薄いし綺麗な白だ」
 まじまじと見つめて、言いだしたのは……

「くれ」
「良いですよ」
「なんなら、代金代わりに飽きるまで抱かせてやる」
「必要ありません」
 そう聞いて、ピタリと動きが止まる。

「なぜだ? 俺が歳上だからか? それともがさつだからか?」
「さあ? 特に意味はありませんが」
 そう言いながら横を見る。
 無論、俺にはディアナが居るしなと言う、アピールだったのだが……

「オーク…… あっいえ、アンジェラさんなら、強そうだからできるのかも?」
「「はっ?」」
「あっいえ。ごめんなさい」
 俺だけではなく、子供が出来ないことを皆が気にしていたのか。
 説明をしないとまずいのかもな。
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