上 下
30 / 58
第2章 新しい世界と新しい生活

第30話 救出

しおりを挟む
 準備ができたようなので、車に乗り込み出発する。
 目的地は見えているのだが、民衆たちをどけながらなので時間がかかる。

 当然、相手も簡単には迎え入れてくれないだろうと身構えていた。
 だが、動きが無い?
「来ないなぁ?」
「そうですね。最初の勢いなら、兵士たちが押し寄せてくるイメージで私も怖かったんですが」
 柴田3曹も運転しながら、時折領主の館をチラ見している。

 領主の館でも、周囲に城壁があり堀が刻んであった。だが跳ね橋は上がっておらず兵も姿が見えない。

「この橋木造だ、やばそうかな?」
「そうですね。橋自体は大丈夫だとは思いますけれど、敵襲の時に簡単に落とせる構造だと思います。あそこの橋を吊ってあるロープが、耐えられませんよね」
 そう言って、城壁から伸びているロープを指をさす。

「そうだな、結構太いが冒険することもないだろう。降りて行こう」
 橋の両側に、2台の高機動車のタイヤを一本ずつかけて、橋が上がらないようにする。

 俺と、腰の引けている佐々木さん。
 ここの領主の娘アドリアさんとフィオリーナ。
 当然家宰のアルチバルドは、お嬢様の行くところにはついて行くから良いとして、魔王の側近だと理由をつけて傍を離れないシャジャラ。
 こいつは俺のことを、餌だと思っているに違いない。


 銃を持った、自衛隊の隊員2人が護衛としてついて来る。
 1等陸曹で42歳の杉田さんと2等陸曹の35歳小山さん。

 総勢8人が橋を渡っていく。
 道案内は、アドリアさんができるので問題ない。

 何の抵抗もなしに、正面の扉を入る。
〔アドリアさん。あの状態なら、ご両親とかが捕まっているだろう。先に牢屋とかがあるのならそちらへ先に行こう〕
〔あっ確かに。ですが、部屋に幽閉ではなく牢屋へでしょうか? それはあまりにも無慈悲な〕
〔いや、罪人としての扱いだろう。多分ね。逃げられれば、今度は家宰本人の首が危なくなるしその辺りは必至だろう〕

 俺がそう言うと、少し考えていたが、
〔こちらです〕
 そう言って、外へ出る。

〔一般の犯罪者用の牢は町の外れですが、こちらに他国のスパイや貴族用の重要人物専用牢があります〕

 石造りの重厚な建物がポコッとあるが大きくはない。
 分厚い板で作られた結構大きな扉を開けて中へと入る。

 石の階段が、地下へと続いておりかなり暗い。

 皆を外へ残し、俺とアドリアさん、シャジャラを連れて中へと入る。
 光の玉を、魔法で作りそこら辺りに浮かべていく。

 中はかなり湿気が強い。それに、糞尿の匂いが立ち込めている。
「浄化」

 中に向けて魔法を使う。
 一瞬で、なんだか少し明るくなり、匂いも消えた。

 一段が20cmほどの階段を20段ほども降りただろう。
 両側に3部屋ずつ、木製のがっしりした格子枠がはめ込まれた部屋が並んでいる。

 周りに、光を浮かべながら見ていくと、手前から親父さん、次が奥さんだろう、その後が、アドリアの弟ルードルフだろう。

 手や足に錠がつけられぐったりとしている。
 特に母親の状態は、人物判断のためとはいえ、アドリアさんを連れてきたのは失敗だったと思える状態だった。
 家宰のルイトポルトの所業か誰か兵の仕業か、テーブルよりちょっと低い木の台に仰向けで固定されていた。
 鞭の跡や拷問の跡。
 状態を見てしまい。涙を浮かべるアドリアさんを、左手でそっと抱きしめながら魔法で一気に浄化と治療を行う。
 拘束を取り、アドリアさんに下着から洋服一式を収納庫から取り出して渡す。

 その間に、父親や弟さんも治療を行い、飲み物と食べ物を与える。
 だが、二人とも奥さんの状況を当然知っているのだろう、そちら側を見ようとはしなかった。

 やがて、すすり泣きが収まり、牢からアドリアさんに連れられ、母親メラニーさんが出てきた。治療が効いたのかきちんと自分で立って歩いている。

〔私は、諏訪真司だ。縁があって、フィオリーナ・ペルディーダに力を貸している。その一環として、アドリアさんに案内されてシエルキープへやって来た。ここまでは良いか?〕
 そう聞くと、お母さんはさすがに分かっていただろうが、父親と弟は改めて見て、ジーンズをはいて薄手のニットトップスにジャケットを羽織っているのが、自分の娘だと気が付いたようだ。

 いや、お母さんも隣を見てびっくりしているな。
 ああ髪型と化粧のせいか?
 最近皆一生懸命、『はやり』とか『一押し』とか『これで決まり』とか言い合って勉強をしていたものなあ。
 するのは良いけど、皆俺に見せに来て感想を求めるんだよ。
 そんなに褒める語彙(ごい)を持っていないんだよ。
 29年生きてきて、あんなにファッションをほめるために、勉強したのは初めてだ。

 みんなは、言葉じゃないよ。とか、似合わないなら似合わないと言ってね。と言われて、素直に言うとすごく機嫌が悪くなる。
 いまいちの時には、そっちを合わせてみれば、もっと良いかも。とか、こっちの色の方が軽い感じとか、落ち着いた感じとか、そういう言葉を入れないと許されない様だ。


 ああまあ、そんな話はさておき、牢屋内の状況。
〔〔〔アドリアなのか?〕〕〕
 みんな分かっていなかったのか。

〔ええ。大変だったようだけれど、主様。真司様にお任せすれば大丈夫よ〕
 そう言って、天使のようなほほえみを浮かべるアドリア。
 勝手にハードルを上げるなよ。

〔まあ、アドリアのこともあるし、あなた方には領主に戻っていただきます。代わりに家宰ルイトポルトに責任を取らせましょう〕
 俺がそう言うと、家族の目に憎しみの炎が灯った。

〔あいつは許さない!〕
 そう決意を決めて、階段を上がっていく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生無双の金属支配者《メタルマスター》

芍薬甘草湯
ファンタジー
 異世界【エウロパ】の少年アウルムは辺境の村の少年だったが、とある事件をきっかけに前世の記憶が蘇る。蘇った記憶とは現代日本の記憶。それと共に新しいスキル【金属支配】に目覚める。  成長したアウルムは冒険の旅へ。  そこで巻き起こる田舎者特有の非常識な勘違いと現代日本の記憶とスキルで多方面に無双するテンプレファンタジーです。 (ハーレム展開はありません、と以前は記載しましたがご指摘があり様々なご意見を伺ったところ当作品はハーレムに該当するようです。申し訳ありませんでした)  お時間ありましたら読んでやってください。  感想や誤字報告なんかも気軽に送っていただけるとありがたいです。 同作者の完結作品「転生の水神様〜使える魔法は水属性のみだが最強です〜」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/743079207/901553269 も良かったら読んでみてくださいませ。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

婚約者に忘れられていた私

稲垣桜
恋愛
「やっぱり帰ってきてた」  「そのようだね。あれが問題の彼女?アシュリーの方が綺麗なのにな」  私は夜会の会場で、間違うことなく自身の婚約者が、栗毛の令嬢を愛しそうな瞳で見つめながら腰を抱き寄せて、それはそれは親しそうに見つめ合ってダンスをする姿を視線の先にとらえていた。  エスコートを申し出てくれた令息は私の横に立って、そんな冗談を口にしながら二人に視線を向けていた。  ここはベイモント侯爵家の夜会の会場。  私はとある方から国境の騎士団に所属している婚約者が『もう二か月前に帰ってきてる』という話を聞いて、ちょっとは驚いたけど「やっぱりか」と思った。  あれだけ出し続けた手紙の返事がないんだもん。そう思っても仕方ないよでしょ?    まあ、帰ってきているのはいいけど、女も一緒?  誰?  あれ?  せめて婚約者の私に『もうすぐ戻れる』とか、『もう帰ってきた』の一言ぐらいあってもいいんじゃない?  もうあなたなんてポイよポイッ。  ※ゆる~い設定です。  ※ご都合主義です。そんなものかと思ってください。  ※視点が一話一話変わる場面もあります。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

偽物の女神と陥れられ国を追われることになった聖女が、ざまぁのために虎視眈々と策略を練りながら、辺境の地でゆったり楽しく領地開拓ライフ!!

銀灰
ファンタジー
生まれたときからこの身に宿した聖女の力をもって、私はこの国を守り続けてきた。 人々は、私を女神の代理と呼ぶ。 だが――ふとした拍子に転落する様は、ただの人間と何も変わらないようだ。 ある日、私は悪女ルイーンの陰謀に陥れられ、偽物の女神という烙印を押されて国を追いやられることとなった。 ……まあ、いいんだがな。 私が困ることではないのだから。 しかしせっかくだ、辺境の地を切り開いて、のんびりゆったりとするか。 今まで、そういった機会もなかったしな。 ……だが、そうだな。 陥れられたこの借りは、返すことにするか。 女神などと呼ばれてはいるが、私も一人の人間だ。 企みの一つも、考えてみたりするさ。 さて、どうなるか――。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

処理中です...