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第四章 日本の竜司から、世界の竜司へ

第99話 非常識という常識

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 私設軍の隊長アリスター=ダフィールドは、今見ている現実が理解できなかった。
 彼らは人間じゃない。
 その事にやっと気が付く。

「隊長、撤退しましょう」
 副官がそんなことを言い出した。たまたま魔王が力を得るために強いモンスターを喰らった。
 その特殊な環境で、つい踏み込んではいけないところへ踏み込んだ。
 当然彼らの持つ小銃の弾など効きはしない。

 そこへ、組織から命令が来る。
「楯突いたジャップを殺せ」
「はっ? そんなことは無理だ。奴らは人間じゃない」
「何をふざけたことを。出来なければお前も終わりだ」
 組織の連中は、安全なところから命令をするだけ、現実が見えていない。
 そう考えたが、アリスター自身も、目で見なければきっと信じれなかっただろうと、思わず笑ってしまった。

「命令だ、あの日本人に一度だけ撃ち込み。撤退をする。この国から逃げる付いてきたい奴は付いてこい」
 そう。彼は組織を見捨てた。

 だが、そう上手くは行かないことは十分に承知している。

 そして、その考えすらも甘かったことを理解する。

「てぇ」
 一斉に小銃が腰だめで発射され、現場にマズルフラッシュが煌めく。
「撤退」

 振り返ったそこには、笑顔のマイリ。
「あっ。組織の命令なんだ。もう手を引く逃がしてくれ」
「そうはいきません。後で案内を」
 そうして、アリスターは気を失う。

 そして、竜司達の中にうつろな目をした、アリスターが立っていた。
 まどかによる、おとなしくしていてね。そのお願いを聞き入れた結果だ。
 逆らうことなど出来なかったが。

 意識はあるが、勝手にからだが動く。
 そして竜司達は、異常なスピードで周りのモンスターを殲滅し、異常な量の魂の欠片が体に流れ込んでくる。
 だが容赦なく流れ込んでくるそれに、体は気絶すら許してくれない。
 まどかの支配は強力だった。

 自身の体が、強制的に作り替えられ激痛が襲う。
 細胞レベルの変異。

 そして幾ら強力だといっても、魔王も削り取っていく。
 やはり届かなかった。魔王は、それを理解する。
 目の前の人間は化け物。

 抵抗をやめ。ただ運命を受け入れた。

 そして残りは雑魚。

 あっという間に殲滅された。

 そして……

「さあ兵隊さん。案内をして」
 その言葉に従い、アリスターは組織の施設を案内していく。

「何が起こっている?」
「ジャップ達です。なぐりこみだ」
「数人だろうナニをしている。殺せ」
 理解できていない、上位はまだ逃げるという判断が出来なかった。
 人間という、常識。

 来ているのは、人間という形を、まだ持っているだけの存在となっているのに。

 ビルから、一般人が放り出され、だるま落としのようにフロアごと消滅をして行く。

 周囲には一般人も見学に来ているが、その非常識さにあっけにとられる。
 相手は、困っていた非合法組織。
 当然周りはお祭り騒ぎになる。

 国からも警察からも、停止命令はなく傍観される。

 焦ったのは、同様の組織。
「どうしてあんな事になっている。あいつらは何者だ。すぐに調べろ」
 その命令は、なぜか警察や軍へと回る。

「あいつらは、日本のハンターだそうです。魔王退治に来ていたのですが、ファミリーの下っ端がちょっかいを出したらしくその報復。情報によると、彼ら一人一人が核ミサイルより恐ろしいから、手を出すなと言うことです」

 テレビで流れる画面。
 その言葉が、十分理解できる。
 高層ビルが、ドンドン消えていく。
 落としては、人を避難させ、またフロアが消える。

 ただ、組織関係者は、そこで立っている。

 おかしな光景。
 ビルがなくなる頃、トップ連中が現れる。
 そいつらも、青い顔をして、手を上げて出てくる。

「こいつらがトップ?」
 まどかが、アリスターに聞く。

「はい」
 むろん通訳はマイリ。

「こいつらは、この国じゃあムショに入ろうが、すぐ出てきます」
「じゃあ消す?」
 マイリがさらっと言う。

「それも寝覚めが悪い。そうだな。人数もいるし。無人島でバカンスをしてもらおう」
 そう言って、パラオ共和国の無人島に、彼らを適当に転移させた。

 数百の無人島があり、上手く行けば脱出できるかもしれないが、天に彼らの処罰を任せた。

 そして、ビルは無くなった。
 他にも農園や化学プラント。
 すべてを消した。

 用事が終わったので、アリスターも解放されたが、まどかが読んだ記憶から悪行が報告され、無人島行きが決まった。

「あんな奴らに関わるから……」

 このニュースは、大きくは広がらなかった。
 ネット上に上がった情報も、すごい勢いで消えていった。

 国が動いたとか、ギルドが動いたとか憶測をしたが、繋がりが彼らを守った。

 そう初期の奇跡。
 それに関わった者達は多い。


「あー終わった。この国ってお土産ってあるのかしら?」
 店を回ろうとするが、ハンターの姿を見るとシャッターが降りる。

「最近中南米はコカインをやめて、カカオを作っているから期待したのに」
 伶菜がさらっとそんなことを言う。
 ここは、最大の輸出国だが、一応頑張って摘発を行っているらしい。
 だが……

「どこかで、メキシコ産のメスカルというお酒を探そうか?」
 ふと思い出して口にする。

 メスカルは竜舌蘭アガベという多肉植物を原料にして造られる。
 そして、芋虫がたまに入っている。
 昔粗悪品が出たときに芋虫を入れて。
 腐らないメスカルは、アルコール度数が高いと品質の証明をしたらしい。

 だが、すでに橋本さんのお土産の中に、当たり入りが入っていた。
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