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第四章 日本の竜司から、世界の竜司へ

第95話 風夏の休日

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 その、うわさの風夏ちゃんは落ち込んでいた。
 せっかく、仲間になったと思ったのに、留守番ばかり。
 いえ、本来の仕事だけれど、前よりもそれは、さらに色あせ、心が少しささくれる。

「昨日は補習と言っていたけれど、北海道のお土産を持って来たし、悠月はいいわね」
 悠月は、少し前の無表情で、眉間に皺を作っていたときと違い、良く笑い嬉しそう。

 前は力も無く、それこそ集中して周囲の警戒をしていた。
 でも今は、力も得て。ほぼ無意識でも、二十メートル範囲くらいは動きがわかる。

 ほら、今だって、皆が目の前に…… なぜ?
「よう。ひまか?」
 そう聞かれて、自然に顔がにやけるのがわかる。
 あふれてしまう喜び。落ち着け心臓。

「えーはい」
「じゃあ行こう」
 そう言って手が差し出される。
 離すものかと、勝手に手が動き、握ってしまう。

「えっ何処へ?」
「何処がいい?」
 急にそんなことを聞かれても、何処でもいい。一緒にいられるなら。
 ふと見ると、悠月のにまにました顔。
 何かを、言ってくれたのかしら?

「じゃあまあ、最初は、あそこで良いんじゃ無い」
 彩さんがそう言う。
「そうだな」
 一瞬で宇宙船へ移動し、座標を探す。

 そして、もう一度飛ぶと、いきなり厳しくなる暑さ。
 目の前には、巨大な建物。
 皆について、エスカレーターに乗る。

 到着をしたそこは、四階らしいが、中へ入る。

 そう、私たちは沖縄の水族館へ来てしまった。

 悠月と私は来たことがある。でもその時は、内容など見ることはなく周囲の警戒。
 日常が仕事だったから。

 まどかさんが、美味しそうと言って走り回り、休日の人混みの中を動き回る。
 その動きは繊細で鋭い。

 見るだけで、ただ者ではないのがわかる。
 ランダムに動く人たちを、次の動きを予測して間を縫っていく。
 それも全員が。

 これが、この人達のいる位置。
 きっとうちの門下生でも無理だわ。
「どうしたの? 今日はお嬢様達は来ていないし、楽しんでいいのよ」
 嬉しそうな、悠月。
 私の方を向いているため、後ろ向きに歩きながら、足さばきを駆使して、後ろの人を避けている。

「随分差が付いたわね」
「それは仕方ないわ。戦場を経験すると、どうしてもね」
 そう言って笑う。

 そうか。置いていかれたのは私が未熟だから。
 気を抜けば殺される戦場。
 悠月はそれを、幾度も経験した。
「周りはどのくらい見ているの?」
「今は十メートル範囲かな。周囲の広さによって変えるから」
「そう」
 屈託なく、軽く言う。

「あっ伊勢エビ。水槽にまどかさんが張り付いてる」
 見ると、まどかを怖がり、伊勢エビが奥へと隠れてしまう。

 いくつかある水槽のエビたちを怖がらせ、まどかがすねる。
「きっと昼食は決まったわね」
 いたずらっぽく、悠月がそう言う。

「そうね」
「それと、竜ちゃん達が甘やかしてくれるみたいだから、行きたいところとかやりたい事を考えていた方が良いわよ」
 にししと笑いながら、私に教えてくれる。

「あっほら。なんで泣くの?」
 未熟な私に皆が優しい。つい涙がこぼれる。胸がきゅーとなる。

「今まで、私たちに自由はなかったけれど、これからは高校生らしくすれば良いって。フォローは皆がしてくれる」
 悠月に手を引かれ、皆を追いかける。

 大水槽でも、まどかさんを恐れ、回遊をやめた魚たち。
 係員さんがあわてているのがわかる。

「すべて食材?」
「そうみたいね」
 水槽前の軽食コーナーで、アイスクリームを頬張る。
 いくつかの、食べ物や飲み物。シェアして味を見るううー。
 反則的に、竜司さんが「はいあーん」なんて言うことをしてきた。
 スプーンを咥える私の後ろに、瞬時に列が出来る。
「流石に駄目だろ。無くなる」
「だめかぁ」
 何気ない行動。それが楽しい。

 そんな頃。
『風夏は預かった。ガードなら柊木瑠海ひいらぎるみさんか百田紫音ももたしおんさんにお願いするように』
「あらまあ。取られちゃいましたか」
 竜司からだろう。置き手紙を見て、かぐやはため息を付く。

 少し買い物へ出ようと思ったのだが、先に竜司に取られてしまった。
「あら? あの方達。補習では? 変ですわね」
 かぐやは、首をひねりながら部屋を後にする。

 その頃、イルカまでをも怖がらせ、堪能した一行は水族館から車で一〇分ほど移動をしてバーベキューをしていた。
 むろん伊勢エビもだ。

 風夏達も、今日はガードではないため席に着く。

 色々なものを調理をして、すぐに頂く。
 その当たり前が嬉しい。

 そしてお土産などを買うため、一度水族館へ戻り、園内に点在する店を回る。

 風夏は充実した休日を堪能して、お土産を抱える。

 宇宙船で、置いておけば良いのに、皆と一緒に学校へ飛んでしまう。
 そう、皆と一緒に。

「おう。終わったか? ――おまえたち、少し隠す努力をしろ」
 全員アロハシャツ。
 風夏に至っては、大きなイルカのぬいぐるみを抱えていた。

「先生これを」
 竜司は、提出物である小テストの下に箱を忍ばせる。
 ゴーフルとジンベエザメの形をしたちんすこう。

「おう、ありがと。まあ何だ、そうだな。お前達も世界のために戦っているんだ。先生も鬼じゃない。テストは……出来ているな。よし良いだろう。それでは気を付けて帰れ」

 学校から、半分泣きそうになりながら、風夏は一緒の下校を楽しんでいる。そんな怪しい集団が帰り始める頃。

 地球の裏側では、魔王同士が戦っていた。

 発生しやすい場所というのがあるが、本当にそうだったらしい。
 そこは、コロンビア、ベネズエラ、ガイアナ、スリナム、フランス領ギアナ、ブラジルの六か国と地域にまたがるテーブル形の特殊地域。ギアナ高地である。

 石灰質ではないが、浸食により、疑似カルスト地形を作っている。
 テーブルマウンテン。テーブル形に残された平らな台地。
 そこには自然と、水があふれている。

 その舞台で、三人の魔王が、戦いを始める。
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