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第四章 日本の竜司から、世界の竜司へ

第58話 平穏な日常

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「デム、何とかしないとまずい」

「だがこの壁、どうしようもないぞ」
 そんな時、壁の向こうに女の子が二人。

 鈴木姉妹は、二人共が何あれ? 状態。
 廊下の両側に米軍の兵達。
 片側は、完全に崩落をしている。

「竜ちゃん家に、行ってみよう」
 そして、すぐ隣のインターフォンを押そうとするが、先にドアが開く。
 出てきたマイリは、周りを一瞥。

 横で、壁に張り付いている二人に気がつく。
 すぐに手を取り、家の中に引っ張り込む。

 何がどうなっているのかを、彩が聞こうとするが、先にマイリが口を開く。

「カレーが沢山あります。食べられる間に食べてください。私は竜司と話をしてきます」
 そう言って、消えた。

 それを見送ると、背後から声がかかる。
「彩、それと葉月ちゃんだったわね。カレーを食べて」
 伶菜は未だに、例の一件を少し引きずっているのが、多少だが態度に出る。

「えっ。あっ、うん。頂こう、葉月」
「うん」
 妙な迫力に押されたが、すでに晩ご飯は食べている二人。

 だが、カレーは魔物。
 出されると、食べてしまう。
 二十分後には、見事なポッコリお腹が二つならぶ。

 そうしていると、外が静かになる。

 結局外では、竜司とマイリが、電撃を使い一瞬で、マンション内に居る連中を眠らせた。

 だが、その前に少し、騒動があった。

「マンションが崩壊しまして…… ええ、そうですね。責任の所在を…… そうです。前回より圧倒的に状況が悪く。本当です。非常に、困っていまして。ええ、お願いします」
 そう言って、通信を切る橋本。
 振り返った彼、その表情は、かなりにやついている。

「引っ越しだぁ。それに予算は警察が持つ。この辺りの豪華マンションはっと」
「外の奴らはどうします?」
 橋本の浮かれた様子に、少し呆れながら聞く竜司。

「うん? もう少ししたら、三組織に命令が下りる。即時制圧とな。そこからは早い者勝ちだ」
 そう言っていると、無線機に入感が来る。

「内閣より通達。何処でもいい。速やかに賊を制圧せよ。担当がどうこうよりも市民の安全を優先。これ以上被害が広がるようなら、来年の予算は無いと思え」
「おおう。強気だな。うちは予算が欲しい。頼むよお二人さん」
 丁度、マイリが転移してきた。

「両サイドに居るから、二手に別れて制圧。その後は?」
 そう聞くと、橋本が手を上げる。

「俺達が確保をするから、シールドを切ってくれ」
「はい。行くぞマイリ」
 そう言って、一旦宇宙船へ、一瞬だけ目標を確認をして一気に飛ぶ。

 まあ、掛かった時間は数秒。
 二人が個別に飛んで、敵部隊の背後に現れた瞬間には、光が発せられる。
 倒れた奴らを、適当にまとめるとお仕事は終了。

 その頃、やっと各組織において、命令が発令され始める。

 その時にはすでに、マンション内では、すべて縛り上げて、武器の押収も終了。橋本から戦闘終了の報告まで完了していた。

 敵である米軍の、後続部隊と指令所。
 そこについては、警察との壮絶な撃ち合いの末。制限から解き放たれた自衛隊が乱入。そして制圧。
 制圧と言うよりは、自衛隊の隊員を見た瞬間に、米兵側が戦闘を放棄したのが正しい。
「流石に、これ以上はまずい。行動がばれた以上、作戦は失敗だ」
 隊長はそんな判断を下した。

「みろ簡単。大体うちは、保護対象者が一番強いんだ」
「隊長、それ、自慢になりませんよ」
 そんな事を、柊木隊員が口にするが、みんな判っている。
 外が大騒ぎの時には、すでに、マンションでは、お茶会が始まり、警察の引き取りを待っている。

 結局、後手後手に回り、被害が拡大した責任で、警察関係はペナルティを喰らう。

 自衛隊は、作戦行動を制止されたと、上に陳情。
 一般からの目撃も多数上がり、認められた。

「畜生」と、警察のお偉いさんが叫んだ頃。

 海の向こうでも叫んでいた。
「全員、シグナルロストだそうです」
 自信があっただけに、全員唖然とする。

「なぜだ、戦闘に不慣れなジャップだろう?」
「そのはずですが」
 これで、合算をすると小隊単位の人数が、テロリストとして収監された。
 何らか、土産がなければ、駄目だろう。

 意図せず、弱みを握られる事になった。

「このマンション?」
「そうらしい」
「橋本さんの、言っていたのと違う」
 彩の突っ込みに、申し訳なさそうな顔になる橋本。

「いや依頼したのは、別の建物なんだが、高層は、そのなんだ、九一一の例もあるし危険だと言うことで却下された。そのかわりだ、ここは堅牢かつ絶妙に不人気…… あっ、いや。でも、間取りは各部屋、倍以上はある」

 目の前にそびえる、五階建てのコの字型の建物。
 中庭があり、噴水や庭園が造られている。

 三階以上をすべて買い取り、構造体から補強。

 一見見た目は普通だが、要塞化された。
 この工事の為に一月以上、穴の開いたマンションでみんなは生活をした。

 その間に、そろって三年生になる。
 
「おひさぁ」

 クラスメイトも、変更がない様だ。

 そして、担任に細矢先生が復活していた。
「よう皆、ひさしぶりだなぁ。元気だったか」
 そう言うと、何故かくるりと回る。

 ピシッと、指を鳴らして静止する。

「お前達も、今年は三年生だ、気合いを入れろぉ」
 そう言って、じろりと教室を見渡す。
 ――そして、語り始める。

「――色々あったが、先生は今幸せだ。愛する人と、その生活を守るために頑張る自分。良いぞう。何というか人生が変わった。人間一人でも生きていけるが…… そうだなあ、世界に色が付いた。みんなもこれから先、人生にむなしさとか苦しみを感じたとき、誰か愛せる人を見つけろ。むろん人は、お互いに自分がある。合う合わないもあるだろう。だがな、そこで共に手を取り、それを共に越えていくのが、恋人であり夫婦。どうだ良いだろう……」

 そんな話を、恍惚とした表情で、語る細矢先生。
 ありがたい話は、二〇分以上も続く。

「おお。佐藤達も元気か? 何かと大変だったようだな。まあ重要な国の、おおっとトップシークレットだったな。頑張れよ。さて、みんな、始業式は体育館で…… ああっ、あん? 五分前に始まっている。走れ」
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