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第二章 宇宙人来襲

第14話 かくして、最大の危機は身近に

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「くっ。やばい。みんなの姿が、見えなくなる」
 何とか人をかき分けて中へ入るが、通路は、カートによりブロックをされている。

「大変混雑をしています。危険ですので、カートはご使用なさらないでください!!!」
 アナウンスが、絶叫のように響く。

 見れば人のカートから、物を盗って行く人がいる。
「ちょっと、あたしの。返せー」
「カートは、使わないでください!!」
 もうね。

 惣菜関係とか、インスタント物。
 簡単に食べられるものから、消えていっているようだ。

 むろんお弁当など、半額を張られる前に消えてしまった。

「生鮮品。あれ?」
 何故か、生鮮品は普通だった。

「なんだか、こっちは普通ね」
「おう、伶菜」
 そう声をかけると、ぽっと赤くなる。

「なんだか、夫婦みたいね。お買い物」
 そう言いながら、白菜やジャガイモ、ニンジン、こんにゃくやシメジ、えのき。
 どんどん放り込まれていく。焼き豆腐にもやしや、ネギ。
 鍋焼き用うどん。

 鶏モモや豚ロース。
「鍋か?」
「そう。簡単だし。ハズレが無い。長引けば、具材を追加でいける」
 そう言って、サムズアップをする。

「そりゃそうだ。ポン酢がいるな。後、大根と鷹の爪」
「あっ。ちょっと待って」
 勝手に取りに行こうと思ったら捕まる。
「一緒に行けば良いでしょ。せっかくなのに」
 そう言って横に並ぶ。

 そうして、買い物をしていると、下ごしらえ済みの材料を満載にして、彩とまどかがやってくる。
「こんな所にいたぁ」
「何をそんなに一杯?」
「えーとハンバーグと、青椒肉絲とか人数分。もうお惣菜とかがなくて」
 カゴの中身は、よくスーパーにある、お家で火を通せば大丈夫という。味付きのお惣菜パックだな。

「普段なら良いが。いやまあ、火を通しておけば大丈夫か」
 少し考えて、答えていると、伶菜から注意がやってくる。

「そうね。電気とかいつ止まるか分からないし。カセットボンベのタンクはある?」
「あっ、いけね」
 そう言って移動し、ついでに衣類関係の方にも回る。

「さっきの、彩の買い物。今晩食べるもの以外は、パックをして冷凍しようか?」
「それでも一度、火を通しておけば。もし溶けても大丈夫じゃないか?」
「あっそうね」

 この時点で、生活力については、三人の中で伶菜の圧勝だった。

 そして何とか帰り着き、今の感じなら、各自を家へ送っていけそうな気はしたが、どこで出会うか分からないし、リスクは避けようと思いとどまる。

 後買い物で、パスタなどの乾麺も買い込んできた。
 日持ちもするし、最悪オリーブオイルと鷹の爪。ニンニクでペペロンチーノがつくれる。ツナ缶で炒めて、醤油と海苔でも良いし、缶詰のホールトマトでもあれば、鶏肉だろうが何だろうが合うし、ホワイトクリームでも同じだ。
 まあ、牛乳とバター小麦粉があれば、電子レンジでホワイトクリームは簡単に作れる。きちっとバターと混ぜるのさえ何とかすれば、フライパンでもいいが。電子レンジの方が玉にならない

 パスタは細めのタイプで、焼きそばを作ったのも結構いけたな。

 そんな事を思いながら、調理中に順番で風呂へ入って貰う。

 鍋より先に、彩たちが買ってきた物と、軽くキャベツを千切りにして、ツナ缶と和える。レモン果汁で味を調整して簡単サラダ。ツナ缶が水煮だったから、オリーブオイルを足す。輪切りにしたキュウリを、塩もみして混ぜる。塩胡椒は趣味で。

 ハンバーグは、少し成形して中火で片面を焼いた後、ひっくり返し、蓋をして弱火に落とす。
 そうすれば、中まで火が通る。

 その間に、伶菜が丁度良い大きさに切って、肉類や魚を湯通ししていく。粗熱を取りパックして冷凍。

 エビなどは、保存するときはしっぽまで外して、背わたを取っておく。こいつは片栗粉と塩を揉み込み、最後に洗う。
 その後、軽く湯通しをする。
 炒め物のときには、油通しでもいい。

 
 その頃風呂場では、まどかと彩がぼやいていた。
「生活力で伶菜に負けているし、竜ちゃんにも負けてる。そんな気がしない?」
「する。私は今まで、お母さんにおんぶ抱っこで、何も出来ない」
「よく考えたら、大学に行って一人暮らしとか考えたら、三日で腐る自信があるわよ」
「同じぃ。コンビニに住むかもしんない」
 体を洗いながら、彩は考える。

「体で勝負と言いたいけれど、私よりいい人って大量にいるよね」
「あーいるね。伶菜とか」
「料理でも負けているし、勉強でも負けてどうしよう。好きって言うだけじゃ駄目なんだ」
「そうだね。あ゛あ゛あっ。なんか、いいものが、ないかなぁ。うぶぶぶっ」
「ちょっと、溺れないでよ」
 まどかが、お湯の中へ沈みゆこうとしていた。

「だってぇ。自信が無いのよ。竜ちゃんのことを好きなんだけど」
「えー。あっそうか。まどかは友人としては良い子だし。そうね。竜ちゃんのことを無理に、追いかけなくても良いんじゃ無いかしら? きっと、そうすれば、辛くならなくなるわよ」
 女神のような笑顔で、彩が言ってくる。

「まさかの裏切り」
 そう言って、苦しむ振りをする。いや内面では、もっと本気で苦しんでいたが。

 その頃台所では。
「これってどう?」
 お箸でつまみ、差し出された肉の欠片をパクッと食べる。むろん試しに焼いたもの。

「やっぱり、ちょっと濃いな」
「惣菜ものの宿命かしら?」
 ミンチ肉だから、防腐のためもあるのかもしれないが、シーズニングスパイスがかなり入っているようだ。ナツメッグはあまり大量に摂取すると毒だからなあ。ただまあ、六グラム以上で致死量だけれど、一キロで普通〇・二グラム程度しか使っていないはず。
 少し多くても、大丈夫だろう。

「うーん。大根があるから、すりおろして、あっさり食べよう」
「プロテアーゼ の効果もあるし、柔らかく頂けそうね」
 おろしポン酢のハンバーグに決定した。
 
 その姿は、長年連れ添った夫婦が、休日に料理研究でもしているかのような光景だった。
 風呂場の二人は、自分たちのことに精一杯で、その事実に気がついていなかった。
 危機は身近に潜んでいる。
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