上 下
8 / 109
第一章 何かが起こった

第8話 聖域

しおりを挟む
 と、言うことで、表向きは変わらずリセット。
 全員が、気持ちを表明をして、横一線となったようだ。

 ただまあ現実は、婚約者の看板が燦然と輝く、彩がトップであることに間違いはない。
 幼馴染みのポジションもあり、家はすぐ隣り。
 今朝も、きっちりと迎えに? 来ている。

「うふっ、おはよう。竜ちゃん」
 まだ六時半。寝ていると、口びるに柔らかな感覚。
 そして、何か液体が顔の上に垂れてくる。

 一瞬、肉食獣に襲われている感覚。
 だが現実は、鼻血を垂らす彩の姿。
「おまえ、また鼻血が出ている。興奮をしすぎだよ」
「だってぇ」
 どうも、キスをするだけで、興奮して血圧が爆上がりでもする様だ。

「こら、上を向くな。血を飲まないようにして、小鼻を圧迫」
「ふあーい」

 彩は考えてしまった。
 ベッドの中で眠る竜ちゃん。
 そっと、おはようのキスをする。
 レースのカーテン越しに、部屋へ降り注ぐ。やわらかな日の光。

 竜ちゃんが寝ぼけて、キスをする私を抱きしめ。ベッドの中へ引っ張り込まれる。一回平均一〇分から一五分程度とネットには書いていた。
 朝から望まれても学校には間に合う。受け入れるのは望むところ。

 えへへっ。などと妄想し、鼻血を出した。

「あー。竜ちゃん。触っていいのよ」
「ばか。また血を吹いた。つまんないことを言わず、じっとしていろ」
「ぶー」

 自分で、鼻を押さえさせて、その間に着替えてと思ったら、顔に血がついている。
 鏡に映る自分の顔。そして、その背後に肉食獣のような目をして、こっちを見ている彩の顔。

 見なかったことにして、部屋を出る。
 少し元気なものを静めるためにもトイレに行き、その後顔を洗う。

 部屋の戻ると、鼻血は止まったようで、ベッドでぼーっとしている彩。
 カーテン越しの柔らかな光の中で見る彩の横顔は、客観的に見ても美人ではないがかわいい部類だろう。

 ただし、おれは、これから着替えるのよね。
 それを期待でもしている。その目付きがこわい。
 まあ、着替えるけどさ。

 今更、照れるよな関係でもないし。

 パジャマを脱ぎ、着替えを取りに行く。
 その動きを、彩の目が追いかける。

 なんだろう? 猫の動画で見たことがあるな。
 普段は、興味なんか無いわよ。そんなふりをしていて、実は興味芯々で飼い主を追いかける。

 そうだ、猫じゃらしを追いかけるときの雰囲気。

 そんな、馬鹿な想像をしながら着替えをすませると、何故か終わっちゃったという顔になる彩。
「鼻血は止まったか?」
「あーうん。たぶん」
「血圧が高いのか?」
「うーん。そうでもないけど、ちょっと」
「ちょっと? なに?」
「うー。知らない。竜ちゃんのエッチ」
「なんでだよ」

 そんなことを言いながら、下へ降りていく。
「あら。おはよう。彩ちゃんも席について」
「おはようございます」
 週に何回かは、朝食を一緒に食べる。

 彩のお母さんが、早出の時は家で食事を取るが、こいつ朝から、お代わりをする。
 皆で食べるのが楽しくて、と言うことだが、三人の中で一番背が低いのに重いのだよ。

 まあ、あまり気にはしないが。

 そして今日も、俺の左手から血の流れは消え。紫になっていく。

 教室に入ると、いつものメンバーが待ち構えて、彩から何かを聞き出し始める。
 撮られた覚えのない、写真が共有されていく。


「ふむ。彼の副官達が、何をしていたかだな?」
「星には降りてはいませんでしたので。すでに亡くなって一〇数年。何かの切っ掛けで思いだし。その追悼の一環では?」
「うむ。理由がなく。見に行っただけなら良い。だがそうでなければ、何かに気がついたと言うことも考えられる。この数週間。彼らの行動を洗え」
「はっ。承知いたしました」

 彼が出ていくのを目で追う。

「彼が、軍の関係者。それも、立場がある人間だったのが痛いな。あんな小娘と懇意でなければ」
 この世界、セクスタプレトは種族の中での上位者達。

 事故で亡くなったことにはなったが、あの時はトップ記事となった。
 セクスタプレトは使える能力が飛び抜けている。
 よほどでなければ、簡単に回避する力がある。

 隕石の速度も遅ければ、宇宙船のシールドを自前の能力で強化して難なく帰還をしていただろう。
 いくつかの超重力星を用いて、スイングバイをさせて。
 あの軌道を見つけるには苦労したし、ぶつけるのも、ピンポイントに彼へと直撃させねばならなかった。

 まあそれのおかげで、調査団も人為的には不可能という見解を見せたのだから、結果的には良かった。

「地球か。物見遊山であってくれよ。軍が動き始めると面倒になる」
 彼は自室に張った、地球の絵を眺めながらつぶやく。

 外では、学生達の楽しそうな声が響く。

「同じ見た目でも、下等な者達が知識を得ることができる。この環境は良くないかも知れん。だから、卑劣な発想を思いつくような者が出てくる。理をゆがめる行為は許してはならんのだよ」

 そうすべては、ランクツインである、マイリの論文から始まった。

 姿は似通っているが、羽の数が違えば別の人種。
 それは、この世界での、絶対の不文律。侵すことは許されない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【旧版】パーティーメンバーは『チワワ』です☆ミ

こげ丸
ファンタジー
=================== ◆重要なお知らせ◆ 本作はこげ丸の処女作なのですが、本作の主人公たちをベースに、全く新しい作品を連載開始しております。 設定は一部被っておりますが全く別の作品となりますので、ご注意下さい。 また、もし混同されてご迷惑をおかけするようなら、本作を取り下げる場合がございますので、何卒ご了承お願い致します。 =================== ※第三章までで一旦作品としては完結となります。 【旧題:異世界おさんぽ放浪記 ~パーティーメンバーはチワワです~】 一人と一匹の友情と、笑いあり、涙あり、もう一回笑いあり、ちょこっと恋あり の異世界冒険譚です☆ 過酷な異世界ではありますが、一人と一匹は逞しく楽しく過ごしているようですよ♪ そんなユウト(主人公)とパズ(チワワ)と一緒に『異世界レムリアス』を楽しんでみませんか?(*'▽') 今、一人と一匹のちょっと変わった冒険の旅が始まる! ※王道バトルファンタジーものです ※全体的に「ほのぼの」としているので楽しく読んで頂けるかと思っています ※でも、時々シリアスモードになりますのでご了承を… === こげ丸 ===

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

エンジェリカの王女

四季
ファンタジー
天界の王国・エンジェリカ。その王女であるアンナは王宮の外の世界に憧れていた。 ある日、護衛隊長エリアスに無理を言い街へ連れていってもらうが、それをきっかけに彼女の人生は動き出すのだった。 天使が暮らす天界、人間の暮らす地上界、悪魔の暮らす魔界ーー三つの世界を舞台に繰り広げられる物語。 著作者:四季 無断転載は固く禁じます。 ※この作品は、2017年7月~10月に執筆したものを投稿しているものです。 ※この作品は「小説カキコ」にも掲載しています。 ※この作品は「小説になろう」にも掲載しています。

追放公爵ベリアルさんの偉大なる悪魔料理〜同胞喰らいの逆襲無双劇〜

軍艦あびす
ファンタジー
人間界に突如現れた謎のゲート。その先は『獄』と呼ばれる異世界へと繋がっていた。獄からは悪魔と呼ばれる怪物の大群が押し寄せ、人々の生活が脅かされる。 そんな非日常の中で生きる宮沖トウヤはある日、力を失った悪魔『ベリアル』と出会う。ベリアルはトウヤに「オレ様を食べろ」と言い放ち、半ば強引にトウヤは体を乗っ取られてしまった。 人と悪魔が生きる世界で、本当に正しい生き方とは何なのだろうか。本当の幸せとは何なのだろうか。 ベリアルの力を求め襲いくる脅威に立ち向かう二人の、本当の幸せを賭けた闘いが幕を開ける——!

『ダンジョンの守護者「オーガさんちのオーガニック料理だ!!」』

チョーカ-
ファンタジー
ある日、突然、なんの前触れもなく―――― 主人公 神埼(かんざき) 亮(りょう)は異世界に転移した。 そこで美しい鬼 オーガに出会う。 彼女に命を救われた亮はダンジョンで生活する事になるのだが…… なぜだか、ダンジョを開拓(?)する事になった。 農業×狩猟×料理=異種間恋愛? 常時、ダンジョンに攻め込んでくる冒険者たち。 はたして、亮はダンジョン生活を守り抜くことができるだろうか? 

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

処理中です...