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第四章 帝国の滅亡へ向けて
第29話 周りの国々
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エッカルト王国では、国境の川を挟んで、にらみ合いを行っていた。
無論現地の帝国兵は、帝都の騒動などは知らず、ただ川向こうに立つ、奇妙な板壁を睨む日々。
目の前の草原に足を踏み込めば、穴だったり溝だったりそんなものが、知らぬ間に作られていた。
街道にかけられていた橋は落としてしまったが、そのおかげで、侵攻するのが遅れることに落としてから気が付いた始末。
「ええい。いい加減何とかならぬか」
「それが敵のような、簡易な移動盾を造り、進もうとしましたが、草で隠れて見えない溝や穴がありまして、とても進めません。先にあのこざかしい穴を埋めないと駄目です」
「埋めれば良いじゃ無いか」
「矢が来ます。こちらより圧倒的に射程の長い矢が……」
兵はそう言って首を振る。
「誰か何とかしろぉ。何とかした者には褒美を出す。金貨五枚だ」
起死回生の案だとばかりに、宣言をしたが、皆無反応だった。
「ぬっ。では十枚…… 十一枚…… むうう。百枚だ」
そう言った後、小声で「銀貨」と追加された。
普段は仕事しない副官が、復唱する。
「報償は、金貨十一枚と、銀貨百枚。つまり、金貨十二枚だそうだ。軍指令エトヴィン=フレーベ侯爵が自らの狭さ、いや、お心をを示す報償だぁ。誰か志願をせぬか。おらんか…… おらんよなあ。ものすごく危険だものなぁ」
結局。盾付きの荷車を作り、前側へ土を落とし、整地をして行く事になった。
だが、ある程度の距離になると、矢の威力が上がり、簡易な盾は貫かれるようになってしまう。
帝国側が、苦労している頃。
エッカルト王国、帝国方面防衛軍側では、ヨリック=クリスティア辺境伯の兵三千が詰めていたが、それ以外は帰ってしまっていた。
帝国側が、どうやって攻めるにしろ、山側は谷が急峻となり渡れない。
そして、河口側になると、川幅が広くなってくる。
船でゆったり渡ってくれば、たどり着くまでには、大半が矢で射貫かれて死んでしまう。
つまり、道は一つ。
「定時報告。敵、今日もダンゴムシ作戦のようです」
「よし、適切に対処」
「はっ。あのー指令。火矢はまだ使用禁止でしょうか?」
「ああ、君は知らぬだろうが、夜間に草原で補修を行っておる。焼くと見えてしまうからな」
なんということでしょう? 帝国が昼間にこそこそと命がけで埋める穴を、エッカルト王国側が、夜間に掘り返していた。
当然帝国側でも把握しているが、少しでも、陣が前に進めるため妥協をしていた。
だが、それも途中まで。
ある点を過ぎると、強力な矢は、本陣まで届くようになってしまう。
「ぬううっ」
軍指令エトヴィン=フレーベ侯爵が呻いていた頃。
シュプリンガー帝国東方解放軍はもっと悲惨だった。
とうとう、彼らは山に取り付くことすら出来ず、麓の森から出られなくなっていた。
しかも、こちらでは、ガンガン燃やされていた。
「何とかしろ」
「無理です。敵の弓の方が射程がある上、高所を取られています。それに最近加わった破裂する矢は危険です」
そう、オネスティが、男のロマンで造った武器。
通常なら、重くて使えないが、山からの射ち下ろしなら、弾頭が必ず下を向く。
かなり使い勝手が良いそうだ。
そしてこちらでも、にらみ合いが長引く。
「戦線、膠着中」
こうなるわけだ。
当然帝国側の方が人数が多く、兵糧とかの負担も大きい。
「ええい。やむを得ん。帝都へ兵糧の追加を請え」
奇しくも北と東、双方から依頼が走る。
だが帝都は、すでに滅びに向かっていた。
伝令からそれが伝わり、彼らは、 飛んで火に入る夏の虫のごとく、滅びへと自ら足を踏み出していく。そう国境に少数を残して軍を帝都へと戻してしまう。
戦争と、長距離の移動。疲れた体に鞭うち帝都へと到着をするが、かつての栄華はなく、不気味に静まりかえった町。
正面の大門は夜でも開きっぱなしで、そこを守る兵達も姿が見えない。
「夜だというのに、どうなっておる? 先触れは帰ってきたのか?」
「いえ。戻っていないようです」
「ぬうう」
そうして、優柔不断で小心者の北方解放軍軍指令エトヴィン=フレーベ侯爵はそこで悩む事三日。
そこへ、東方解放軍軍指令ヘルムート=シュトロー侯爵が合流する。
「帝都の前でどうされた?」
「おお。シュトロー侯爵。触れも物見も中へ入ると帰って来ない。この異常な状況では、おいそれとは足を踏み入れることが出来ず。困っておる」
その言いぶりを聞いて、シュトロー侯爵は高笑いをする。
「この大軍が、門の前にいて何も起こっておらぬのだろう。確かに異変はあったようだが、異常はすでに過ぎ去り、救援を望んでいるものがいるのではないか?」
そう言い残すと、彼は躊躇することなく、自軍を率いて大門をくぐる。
それから三十分とおかず、戦闘が始まったようだ。
帝都内から聞こえる、悲鳴と怒号。
フレーベ侯爵は、帝都前で見張ることに決めたようだ。
シュトロー侯爵は、変わり果てた町中を進む。
所々が、破壊された町。
人々の姿は見えず、音が消えている。
時たま、水桶か何かが、風に吹かれてカラカラと転がる音がするくらい。
そして、何かを引きずった跡が、道に多数残っている。
それは赤黒いシミ。
そうして、城に至る広場まで来ると、何かが居た。
そいつは、座り込み、静かに人だったものを喰らっていた。
「くっ。きっとあいつが敵。攻撃せよ。目標モンスター」
彼は自ら、破滅へのボタンを押した。
無論現地の帝国兵は、帝都の騒動などは知らず、ただ川向こうに立つ、奇妙な板壁を睨む日々。
目の前の草原に足を踏み込めば、穴だったり溝だったりそんなものが、知らぬ間に作られていた。
街道にかけられていた橋は落としてしまったが、そのおかげで、侵攻するのが遅れることに落としてから気が付いた始末。
「ええい。いい加減何とかならぬか」
「それが敵のような、簡易な移動盾を造り、進もうとしましたが、草で隠れて見えない溝や穴がありまして、とても進めません。先にあのこざかしい穴を埋めないと駄目です」
「埋めれば良いじゃ無いか」
「矢が来ます。こちらより圧倒的に射程の長い矢が……」
兵はそう言って首を振る。
「誰か何とかしろぉ。何とかした者には褒美を出す。金貨五枚だ」
起死回生の案だとばかりに、宣言をしたが、皆無反応だった。
「ぬっ。では十枚…… 十一枚…… むうう。百枚だ」
そう言った後、小声で「銀貨」と追加された。
普段は仕事しない副官が、復唱する。
「報償は、金貨十一枚と、銀貨百枚。つまり、金貨十二枚だそうだ。軍指令エトヴィン=フレーベ侯爵が自らの狭さ、いや、お心をを示す報償だぁ。誰か志願をせぬか。おらんか…… おらんよなあ。ものすごく危険だものなぁ」
結局。盾付きの荷車を作り、前側へ土を落とし、整地をして行く事になった。
だが、ある程度の距離になると、矢の威力が上がり、簡易な盾は貫かれるようになってしまう。
帝国側が、苦労している頃。
エッカルト王国、帝国方面防衛軍側では、ヨリック=クリスティア辺境伯の兵三千が詰めていたが、それ以外は帰ってしまっていた。
帝国側が、どうやって攻めるにしろ、山側は谷が急峻となり渡れない。
そして、河口側になると、川幅が広くなってくる。
船でゆったり渡ってくれば、たどり着くまでには、大半が矢で射貫かれて死んでしまう。
つまり、道は一つ。
「定時報告。敵、今日もダンゴムシ作戦のようです」
「よし、適切に対処」
「はっ。あのー指令。火矢はまだ使用禁止でしょうか?」
「ああ、君は知らぬだろうが、夜間に草原で補修を行っておる。焼くと見えてしまうからな」
なんということでしょう? 帝国が昼間にこそこそと命がけで埋める穴を、エッカルト王国側が、夜間に掘り返していた。
当然帝国側でも把握しているが、少しでも、陣が前に進めるため妥協をしていた。
だが、それも途中まで。
ある点を過ぎると、強力な矢は、本陣まで届くようになってしまう。
「ぬううっ」
軍指令エトヴィン=フレーベ侯爵が呻いていた頃。
シュプリンガー帝国東方解放軍はもっと悲惨だった。
とうとう、彼らは山に取り付くことすら出来ず、麓の森から出られなくなっていた。
しかも、こちらでは、ガンガン燃やされていた。
「何とかしろ」
「無理です。敵の弓の方が射程がある上、高所を取られています。それに最近加わった破裂する矢は危険です」
そう、オネスティが、男のロマンで造った武器。
通常なら、重くて使えないが、山からの射ち下ろしなら、弾頭が必ず下を向く。
かなり使い勝手が良いそうだ。
そしてこちらでも、にらみ合いが長引く。
「戦線、膠着中」
こうなるわけだ。
当然帝国側の方が人数が多く、兵糧とかの負担も大きい。
「ええい。やむを得ん。帝都へ兵糧の追加を請え」
奇しくも北と東、双方から依頼が走る。
だが帝都は、すでに滅びに向かっていた。
伝令からそれが伝わり、彼らは、 飛んで火に入る夏の虫のごとく、滅びへと自ら足を踏み出していく。そう国境に少数を残して軍を帝都へと戻してしまう。
戦争と、長距離の移動。疲れた体に鞭うち帝都へと到着をするが、かつての栄華はなく、不気味に静まりかえった町。
正面の大門は夜でも開きっぱなしで、そこを守る兵達も姿が見えない。
「夜だというのに、どうなっておる? 先触れは帰ってきたのか?」
「いえ。戻っていないようです」
「ぬうう」
そうして、優柔不断で小心者の北方解放軍軍指令エトヴィン=フレーベ侯爵はそこで悩む事三日。
そこへ、東方解放軍軍指令ヘルムート=シュトロー侯爵が合流する。
「帝都の前でどうされた?」
「おお。シュトロー侯爵。触れも物見も中へ入ると帰って来ない。この異常な状況では、おいそれとは足を踏み入れることが出来ず。困っておる」
その言いぶりを聞いて、シュトロー侯爵は高笑いをする。
「この大軍が、門の前にいて何も起こっておらぬのだろう。確かに異変はあったようだが、異常はすでに過ぎ去り、救援を望んでいるものがいるのではないか?」
そう言い残すと、彼は躊躇することなく、自軍を率いて大門をくぐる。
それから三十分とおかず、戦闘が始まったようだ。
帝都内から聞こえる、悲鳴と怒号。
フレーベ侯爵は、帝都前で見張ることに決めたようだ。
シュトロー侯爵は、変わり果てた町中を進む。
所々が、破壊された町。
人々の姿は見えず、音が消えている。
時たま、水桶か何かが、風に吹かれてカラカラと転がる音がするくらい。
そして、何かを引きずった跡が、道に多数残っている。
それは赤黒いシミ。
そうして、城に至る広場まで来ると、何かが居た。
そいつは、座り込み、静かに人だったものを喰らっていた。
「くっ。きっとあいつが敵。攻撃せよ。目標モンスター」
彼は自ら、破滅へのボタンを押した。
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