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第三章 奇術団

第13話 必要悪と社会悪?

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 ジャンナが駆け寄ってきて抱え込み、いい子いい子と人の頭をなでる。

「なんのつもりだ?」
「泣くかと思って。あんた、一度泣き出すと手が付けられないから……」
「この年になって、泣くかぁ」
 反論するが、放してもらえない。

「あらそう。つまんない」
 抱えられて、なだめられている俺。仲間は笑い、ニクラス達は目を丸くする。

 それからまあ、ニクラス達へ懐かしの、泣き虫オネスティの逸話が暴露される。
「そうそう。自分で怒って顔を出さなかったのに、一月後に来て、淋しかったぁって泣くんだよ」
「そんな事は、覚えていない」
 俺はそう言って、ぷいっと顔を背ける。

 そんな様子を見て、オネスティってかわいい……
 そんな事を考える、人間が二人。

 この家、いくつか部屋がある。
 そして相変わらず、俺は、物置に一人。

 女の子達は女の子で雑魚寝だが、むくっと一人起き上がる。
 だが、それに反応をして声がかかる。
「トイレかい? 物騒だから付いて行ってやるよ。また攫われないようにね」
「あーらまあ。ありがとうございます。でも、ゆっくり休んでください。睡眠不足はお肌に悪いですわよ」
 そんなやり取りが、行われる。

「油断も隙もない…… 私だって、我慢しているのに」



 翌朝。俺達は、いつもの様に小屋を建てて、マジックショー。
 その間に、穀物の商店を、ニクラス達が見張る。

 そして出かけた先は、小売店。

 主人が出迎え、頭を下げている。
 店の裏へ回り、声を聞く。

 断熱材など当然入っていないし、薄い板が一枚。
 外でも声が聞こえる。
 板にすりこぎのような棒を当て、反対を耳に当てる。

「居ない? 私どもの手の者は、きっちり八人。買ってきたと申していましたが」
「小屋には、搬入した感じもなかったぞ」
「近くですから、依頼した者達に会いにいきましょう」

 そしてまた追いかける。
 今度は普通の家。

 若いのが出てきて、二人を招き入れる。

「頼まれたとおり、各村を回って、親無しを買ってきました」
「いつもの様に小屋に入れたのか?」
「ええ。手抜かりはありません」
「化かされたような話だが…… 向こうも人手が足りないのだ。仕方が無い。出発までにそろえてくれ」
 そう言って、また小袋が渡される。―― 逃げた連中は、探さなくて良いのか? 袋を渡された男は考えるが、相手がそう言うなら、まあいい。

「近場の村には、もう居ませんので、少し遠くに回らないと……」
 壁越しで表情とかは判らないが、人手の足りない農村と、親無しが居て困っている農村。その間で、穀物問屋の方が人の斡旋をしている感じのようだ。


「という感じで、人さらいという感じじゃないな。この辺りにはいないと言っていたから、たまたま人数合わせにお前達も攫われたが、山だったし、山で隠れ住んでいる親無しだと思われたかな?」
 それを聞いて、エステリとアウッティは怒り狂う。

「確かに、若いけどさ。武器も持っていたのに……」
「ああ、そうだな。持っていないと危ないし、買いに行くか」

 翌日は、昼から小屋を開くつもりで、武器屋に二人を連れていく。
 お目付に、ジャンナとアネットが付いてきた。

「ちわーす」
「帰れ」
「はっ?」
 店主の『帰れ』は、俺達に向けてでは無かったようだ。
 冒険者だろうか? 少しガラの悪い二人組。

 出がけに、ジャンナ達の胸を触ろうとして、大事な所を蹴りあげられる。
「ぐはっ」
 ストンと座り込み、動かなくなってしまった。

「死ね」
 そう言い放ったときの顔は、背中越しなので見られなかったが、こっちに向いたときには普通の笑顔だった。
 ただ、エステリとアウッティは顔が見えたのか、躊躇無く蹴ったことへの驚きか、多少顔が引きつっていた。

「まあ良いか」
 振り返って、店主に聞く。

「弓を二つとナイフ。女の子が使うので、それなりのものを」
 そう言ったら、強面のオッサンがこそっと言ってきた。
「連れのお嬢ちゃん容赦ないな。見ただけで、ひゅときたぞ」
「激しく同意する。でだ、エステリとアウッティ。蔓の強さとか大きさは?」
「ええと村を出るときに、猟師さんから適当に貰った奴だから判らない」
「二人とも?」
 そういう事らしい。
 オッサンに言って、奥で試射させて貰う。

「自分の引ける弓力の弓で、七割くらいが良いと思う。強ければ威力は上がるが、疲れたときに引けなくなってしまう」
 そうして、大きさと強さを決める。

 そして、ナイフを四つ。
 二つは、刃渡り三十センチくらい。
 もう二つは、その半分くらいの小さなもの。

 そしたら、ジャンナとアネットも持って来た。
 そういえば、皆の装備も、考えないとやばいかも。
 買うと、ジャンナはなぜかナイフに頬ずりをしている。
 美人な分だけ、やばさが際立つ。

 そして、あの男達。
 復活をしたらしい。何か話し合って逃げていった。

「あいつらは、屑だから気を付けろ」
 オッサンが教えてくれる。

「何があったんだ?」
「買っていった剣だが、手入れもせず、刃が潰れ、どうせ石でも叩いたんだろ。折れたから新品に変えろって、ふざけたことを言いやがって。あいつらが買ったのは、一年も前だ」
 そう言いながら、話を思い出して腹が立ったのかオッサンが真っ赤になる。

「クレーマーか?」
「クレーマーってなんだ?」
「ああいや。気にしないでくれ」

 そして、馬鹿達は人数が増えてやって来る。
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