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第三章 奇術団

第12話 オネスティって言う奴は……

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「おっ。驚いている」
 来た奴らは、中を見てあたふたし始めた。

 中に居るはずの、人間達がいない。
 だが、そもそも入れた様子が無い。
「あの野郎ども、嘘をつきやがったな」
 前回の、商人と違い。少しガラが悪いようだ。

 あわてて、馬車は帰って行く。

 当然追いかける。
 相手は馬車だが、暗いためにスピードは出ない。
 二台の馬車に分乗をして、四人の人間。見つかってもまあ何とかなるだろう。
 他の小屋にでも行くかと思ったが、くるっと回り込み、町中へ入っていく。

 やって来たのは、大きめの商家。
 看板は、穀物などを示す絵がぶら下がっている。

「あれ? 空ですか?」
「そうだ、居なかった」
「何かありましたか…… 代金は払っておりますのに」
「明日聞きに行ってくる」
 そんな話が、こそこそとされ、家の中へ入っていった。

 この商家は、店舗兼住居。そして倉庫が一緒らしく、かなり大きい。

「明日は見張ってくれ」
「おう」
 エーミルにそう言って、その晩は帰る。


「わっ。何それ」
 井戸のある小屋で、女の子達が騒いでいる。
 自作の蜜蝋入り石けん。
 花から搾ったオイルも入れてある。

「お湯を作ってきた。ちょっとだけ入らせて」
 ジャンナに持っていくように言ったが無視された。

 井戸の横に大きめの瓶があり、その中に移す。
 どうせ暗くて、見えないと思っていたが、暗い中で、白い肌は意外と見えるようだ。
 そして、エステリ達二人の存在を忘れていた。
 彼女達は、十七歳くらい。
 ある程度大人の体。
 ローラ達十五歳組と違って、色々と育っていた。

「ご苦労様」
 そう言って、態々見える範囲に来る。

「熱いから、気を付けて」
「うん。助けてくれてありがとう」
 何度目か判らない御礼を言われる。

「ねえ…… オネスティって、元貴族様? 皆教えてくれないけれど、品というか育ちの良さが気になって」
 その問いにスパッと答える。

「絶対、元貴族ではない」
 現王族だからね。
「そうなんだ」
「風邪を引くから、閉めるよ」
「あっ、ごめんなさい」

 戸を閉じて、向き直ると、ジャンナ達がにまにましている。
「見慣れた私たちと違って、新鮮だろ」
 つい鍋を投げる。
 鉄製だから結構重い。

 そして、避けられ床に落ちた鍋が、大きな音を立てる。
 土間の上に敷かれた木の床。
 鍋が、鋳造ではなく鍛造だったので、クワンといい音がする。

「あっはっ。相変わらず初心だねぇ。お坊ちゃま」
「怒るぞ」
 そう言って睨んだつもりだが……

「あっごめん。泣かないで……」
 仲間内だが、お坊ちゃん扱いをされるとムカッとくる。

 あの時はたしか、こいつらと付き合いだして、三年いや四年は経っていた。
 普段は着替えてくるのだが、行事があり。町に出たときに抜け出したときのこと。

 丁度国民も国の状態が知れ渡り、王族や貴族の信頼とか威厳が失墜してきた頃の話。


 そんな国だが、この国にも王族にしか使えない色という物があり、たまたまこの国では紫だった。

 俺は普段見慣れているから気にしていなかったが、民の間では、死に繋がるのでしつこく言われていた様だ。
 背中からそでに掛けて、神獣と言われる狼の刺繍が入っていた。
 見えないし、気にせずこそこそと抜けて、こいつらが住んでいる山へとやって来た。

「おう。オネスティ。今日は変わった服を着ているな」
「ちょっと行事があって、抜けてきた」
 出会ったときから、貴族だとは言っていたけど……
 その頃には、一緒に狩りに来ていた、エーミルやルカネン達。

 おれの上着を見て固まる。
「その青とも赤とも言えない色…… まさか紫じゃないのか?」
「うん?」
 視線を見て、上着を脱ぐ。

 目に入る刺繍。
「ああ。そうそう。紫だ」
 言った瞬間、皆の態度が変わる。
 と言うか、固まった。

 古着でも、たまに王家から出る物があったりする。
 その時は、大体貴族街で出るが、貴族達はよほどじゃなければ、その類いの服には手を出さない。
 
 皆が見知っているし、恐れ多いもの。そして刺繍や飾りに地雷。つまり紫がちりばめられている。
 だから、普通は丁寧にバラされて、素材として売られる。

 いや…… 少し前までは、王家からそもそも売り払われることなど無かった。
 貧乏が悪い。

 でだ、何かの手違いで紫が残っており、憲兵や王国兵に見つかると、縛り首になる。
 そう、一般常識。
 大阪で、ぼけられたら、とりあえず突っ込むくらい普通の話。

 エーミル達は気が付く。
 貴族なら、その事を知らずに平然と紫だと言うことは考えられない。
 オネスティのことは、貴族だと知っている。だが、どこかの下級貴族の坊ちゃんなら、平民とあまり差は無い。そう思って付き合っていた。
 そう、騎士爵とか、準男爵。
 手柄を立てたり、役職に付いてくる、一代限りの貴族。
 その息子は、まあ平民だ。

 だが、まさか。
 王族がふらふらしているなどとは思ってはいなかったが、このぼけ具合。
 紫を悪いと思っていない……

 まるで「お姉ちゃん何処行くの? 一緒にあそばへんか」などと、女の子に声をかけ。冷たい目で「きもっ。死ね」と言われても、「そう言われてもなぁ。まだ、川は冷たいねん。せや、暖まるために茶でもしばこうか」と切り返す様な開き直り。

「「「こいつ……」」」

「オネスティ。お前貴族じゃないな!!」
 びしっと指をさす。

「えっ、いや」
「死の紫が何よりの証拠。王族以外が紫を着ると死罪なんだぞ」
 まるっとお見通しのような感じで、エーミルが指摘をする。

 そう言ったら、オネスティはビックリしていた。
 知らなかったらしい。

 だがまあ、その後。遠慮というか、こっちも引くじゃないか……
 そしたら、俺達の態度で、泣かせてしまった。

 それ以降、王族とか、王子とか坊ちゃんは禁句になった。
 オネスティが泣くし、怒るし、すねるから……
 敬語禁止、態度はなれなれしく。俺達はダチだ。そう決まった。
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