上 下
46 / 55
第四章 脅威は広がっていた

第46話 あの人は今

しおりを挟む
 生き霊《いきすだま》はその頃、普通の男になっていた。
 元々は、家庭持ちの会社員。

 だが仕事がブラックで、会社ではうだうだ言われ、家では奥さんに家のことを何もしてくれない、子ども達を私一人で育てているような物じゃない。
 そんな感じで、どっちでもこっちでも、日々うだうだ言われていた。

 仕方が無く、もう少し楽な部署に異動しようとしたら……

「ああっ、嫁さんがやかましいから、楽な部署に移りたいだ?」
「はい、すみません」
 すると上司は、紙を出してきた。
 少し嬉しそうに。

『退職願 私儀 このたび、一身上の都合により、勝手ながら、二〇××年×月×日をもって退職いたしたく、ここにお願い申し上げます。』

「あのこれは?」
「なんだ? それを出せば楽になるぞぉ、毎日日曜日だ。希望通りだろ……」
 流石にこれはと思い、返そうとしたが、上司は首を振る。

「書け」
 そう言って睨まれる。
 ああ、どうやら言いだしたときに、すべては終わっていたようだ。

 俺の成績は悪い。
 要領が悪く、あと一歩が足りない。
 大体もう少しで契約と思ったら、他社が契約を持って行く……
 それで腹が立ち、夜な夜な資料を作る。
 だが結果は同じ。

 もう良いか……

「はい」
 退職願を出し、荷物を抱えて家へと帰る……

「なんて言おう……」
 そう、不安なのは、今日帰って妻になんと言うのか。

 お前が早く帰れと言うから、早く帰れるように言ったら首になった?
 本当のことだが、絶対喧嘩だ。
 
 家に居られるようになったから、家事は任せてくれ……
「なんてな」
 たらたら歩いても、家には帰り着く。

 階段を上がり、玄関に鍵をさす。
 
 この時間なら、まだ妻は仕事。
 保育園のお迎えは、まだ先だ。
「大体パートとフルタイムなんだもの。俺が家事をするって間違い……」
 開けかけた玄関。

 開閉をゆっくり、静かにする。
 誰も居ないはずの家の居間から、声が聞こえる。
 そう良くある話。
 
「ああっ、良いわ。もっと奥。乳首もお願い」
「相変わらずスケベな奴だな」
「良いじゃない。へたな旦那のせいで欲求不満なのよ。ああ、そこ。ううんっ、あっ」
 パンパンと打ちつける音は激しくなり、もう少しで終わるかな?

「いくぞ、口で……」
 男は、ゴムをしていなくて、抜いてお口フィニッシュを考えていたようだが、突然カメラ音が鳴り響く。

 驚き、抜くのを失敗をしたようだ……

「ああっ、あうぅっ」
 意外なことに、妻は中で出されると、同時に、深く絶頂をした様だ。
 立ちバックだったが、膝から崩れ落ちる。
 オッサンは、そのままの格好で、呆然とこっちを向いている。

「ごゆっくり」
 俺はそう言って、外へでる。

「なんだよそれ……」
 段ボールを抱えたまま、公園へと向かう。
 金も無いし……

 自販機で、いつもは買わない、百五十円の缶コーヒーを買う。
 ふと見ると、公園の一角に喫煙所があり、ちょっとガラの悪そうな人達が、たむろをしていた。
 まあ良いかと思い、禁煙後、お守り代わりに入れておいたたばこセットを取り出す。

 寿命が何年増えるか分からない禁煙。
 もういい……

 生きている気はない……
 もうやめよう。

 俺は空いている席。強面のお兄さん達の間に座る。
 たばこを咥えて火をつける。

 吸込み、軽く息を止める。
 長いこと吸っていなかったから、くらっとくる。

 ぶはーと、大きく息をはく……
「ああっ。美味い……」
 そう言ってしみじみ吸っていると、いきなり聞かれる。
 そう怖そうな、お兄さん達。

「あんた勤め刑務所帰り?」
「あっ、ええ。ですがまあ、嫌になっちゃいました。もうやめました」
 俺は会社だと思ったが、相手は違ったようだ。
 段ボールを抱えて、昼間の公園。
 ひさしぶりのようで、美味そうにたばこを吸う男。

 彼らは思った。
 まあ、ムショはしんどいって言うしな。
 俺達はこれから行くんだが……

「そりゃまあ、ごうくろさんです」
 そう言って頭を下げられた。
「ありがとうございます」

「ところで、ムショ…… 来たあいつだ」
「すみません。気を付けて」
 そう言ってそいつらは走って行き、向こうから、パンパンと何か聞こえた。

 そう少し手広くやり過ぎて、狙われた。

 口座の金は別に移したし、この体を捨てても問題は無い。
 数発の弾を撃ち込まれて、体は死んでしまう。

 ふっと抜け出して、次を探す。
 するとまあ、適度に闇堕ちをした体がいた。

 ラッキー……

 ほう、嫁さんが浮気ねえ。
 会社は今日辞めたと。
 色々が好都合だな。
 先ずは、間男を追い込んで、嫁さんは、便利に働いて貰うか。
 だめなら埋めるし。

 そう考えながら、安たばこを吸い始める。
 随分しけっているが、体は喜んでいる。

 スマホを確認し、写真とビデオの確認をする。

「間男君、金持ちの独身がいいが、嫁でも居ると面倒だな」
 嫁がいた場合、こっちの嫁さんに慰謝料請求が来る。

 ああいや、こっちは捨てて、間男の嫁さんとしっぽりするのも良いかもな。

 などと考え、色々と実行し、トレーダーとして生計を立てる。

 一応離婚はせず、嫁さんは奴隷契約。
 いやなら離婚。

 だが中身の変わった旦那は、ひと味違ったようだ。

 そんな男を、中学三年生の冬。
 塾帰りの雫は見つけた。

 輪郭のズレた妙な人。
 その男は、生き血をすすっていた。
「離れなさい」
 いつもの様に、雫は浄化を使おうとした。

 だが、風でもなく、殴られたわけでもなく、いきなり吹っ飛ばされ立木にぶつかり気を失った。

 そうそれは、超能力のサイコキネシスのような、不可視の攻撃だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

勇者に闇討ちされ婚約者を寝取られた俺がざまあするまで。

飴色玉葱
ファンタジー
王都にて結成された魔王討伐隊はその任を全うした。 隊を率いたのは勇者として名を挙げたキサラギ、英雄として誉れ高いジークバルト、さらにその二人を支えるようにその婚約者や凄腕の魔法使いが名を連ねた。 だがあろうことに勇者キサラギはジークバルトを闇討ちし行方知れずとなってしまう。 そして、恐るものがいなくなった勇者はその本性を現す……。

【完結】後妻に入ったら、夫のむすめが……でした

仲村 嘉高
恋愛
「むすめの世話をして欲しい」  夫からの求婚の言葉は、愛の言葉では無かったけれど、幼い娘を大切にする誠実な人だと思い、受け入れる事にした。  結婚前の顔合わせを「疲れて出かけたくないと言われた」や「今日はベッドから起きられないようだ」と、何度も反故にされた。  それでも、本当に申し訳なさそうに謝るので、「体が弱いならしょうがないわよ」と許してしまった。  結婚式は、お互いの親戚のみ。  なぜならお互い再婚だから。  そして、結婚式が終わり、新居へ……?  一緒に馬車に乗ったその方は誰ですか?

処理中です...