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第二章 異物混入
第19話 雫の憂鬱
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陸斗は変わっていない。
でもアイツは良いのよ。
問題は、朱莉と颯司ね。
あの二人、黙って付き合ってる、なんてことは無いわよね。
今日は写生会を兼ねた遠足。
寝ることができない地獄の行事。
一年生は、全員近くのお城まで歩く。
途中で他校のヤンキーどもが因縁をつけようとやって来て、途中で盛大に転ぶ。
なぜかこの時期に、道路が凍っていたようだ。
「よーしここから自由行動。だけど、お城の範囲から出るな。せめて下書きは終わらせること」
先生はすでにお疲れのようだ。
学校から、ここまで六キロ程度。
「ふん。ふぬけめ」
陸斗が自分より下を見つけて喜ぶ。
「さて何を描くか、それが問題だ」
ベレー帽をかぶって、陸斗画伯が、ぶつぶつ言い始める。
土魔法は、何よりも空間把握と処理が重要なのだそうだ。
まあ、一瞬で彫像を作るような技だしね。
昔から、絵とかは異常に上手だった。
「はっ、二人がいない」
お馬鹿を気にしていたら、二人を自由にしてしまった。
ああ馬鹿なわたくし。
悲劇のヒロインごっこをして、さらに無駄な時間を使ってしまった。
探すと、朱莉は銅像を描いていた。
「銅像?」
「ああうん。建築物だと線が増えるし、面倒じゃ無い。ここなら背景は木だし、楽そうだと思わない?」
そういう朱莉は、すでに色を塗っていた。
なんだろう、燃える木、その間の銅像は苦悶を浮かべた何か。
あーそうね、大炎熱地獄とかだとこんな感じなんでしょうね。
八大地獄の話、私たちは、必ず子どもの頃に習うものね。
でも一緒にいなくてよかったけれど、颯司はどこ?
探し回る私。
颯司は安易に、お城に来たのだからお城を描かなけりゃいけないと上へと上がってきていた。
「此処かな?」
公園になっているそこには、植木とお城。
背後には町中、景色的には良いカットだけど、描くには大変そう。
その背後を追う女。
雫では無い。
雫はまだ、追手門がある一段目を走り回っていた。
そう例の一件で、颯司に惹かれ興味を持った、人見 杏実。
彼女はあれ以来、彼に抱かれ、触れられた感覚を、今も毎晩反芻をしている。
教室では声をかけられず、困っていたが今日は別。
流石に、颯司も寝ておらず、真面目にを描いている。
「となり良い?」
「うんいいよ」
颯司が座っている花壇横のベンチ。
空を見上げれば、初夏の前に見せる青い空。
太陽の光が肌に刺さる。
準備をしながら、颯司のスケッチブックを覗き込むと、それは風に揺れる水面に映る景色のよう。
思わず、お城の方を見てしまう。
ただお城はそこに存在し、どう見ても颯司の描いた絵のようにはなっていない。
ただ本人は、常時意識の五パーセントくらいを、風の流れに意識を向けている。
その風の流れの中で捉える景色は、今描いているものと同じなのかもしれない。
だけど常人はそんな事は分からない。
その不思議な絵は、ひどく寂しさを感じさせる。
青みのある揺らめく世界。
何かあれば消えていきそうな。
今でも、風は周囲を探り、走り回る雫も捉えていた。
そう仲間をいつも見ている。
何かに絡まれたりすれば、刃の風がそいつを滅するだろう。
今、颯司にはその位の余裕がある。
力が解放され、単純な強さだけでは無く、できることも一気に増えた。
「あの風祭くんてさ、部活とかしていないでしょう?」
「ウンしていない」
「お家へまっすぐ帰るの?」
「そうだね」
スケッチブックから目を離さず描き続ける颯司。
そう風で見て、目で見ず描いていた。
「あの、火祭さんとか、水祭さんて親戚?」
「あーうん。そう」
そう聞いて、杏実は少し安心する。
だけど、あれ? 従姉妹って結婚できるんだったっけ?
『従姉妹、結婚、調べる』そんな事をメモをする。
実際、雫や朱莉と結婚することは問題ない。
親族というのも間違いは無いが、そんなに近くも無い。
そして彼女は描き始め、ここからのアングルが意外と面倒なことに気が付く。
植木の枝を正面へと大胆に食い込ませて、細かなものを減らす。
右側にも、大胆に木が創造される。
そんな中、ようやっと三の丸へと上がってきた雫。
「見つけたー…… てあれ誰?」
クラスの違う雫は、人見の事を知らない。
だが、雫。躊躇はしない。
「颯司、こんな所にいたの。探したわよ」
だが、
「えっなに? 用事?」
とまあ、ぼけた返事。
「あんたねえ」
とはいえ約束したわけでは無く、雫が一緒にいたかっただけ。
言葉にできず、金魚のようにパクパクと。
はむっと言葉を飲み込む。
「どんなのを描いたの?」
「お前は終わったのか?」
「そりゃまあ、大体」
「早いな」
「水性だし、水だからね」
「そうか」
そう言ったものの、真っ白。
走り回っていた雫を知っているのに、颯司は何も言わない。
ついでだから、お弁当を食べようとしていると、朱莉達もやってくる。
颯司と陸斗は気を利かせて、花壇側に座り直す。
向かい合うが、花壇の段が高く、目覚めた朱莉は丁度目の前に来る颯司の股間が妙に気になる事になる。
そして後日、なぜか四人の絵がコンテストに出されることになった。
点描による、写実的な陸斗の絵。
妙に目を引く、幻想的な颯司の絵。
燃えさかる炎のような、迫力満点の朱莉の絵。
そして、無数の玉石が転がる広場にできた水たまり、その真ん中で寄り添うような二枚の落ち葉と、少し離れたもう一枚が波紋を乱し、さらに外側の一枚は静かに存在をする。
それは雫の心象風景のような絵だった。
ただ、波紋の起こすそのイメージは、人の心に何かを訴える。
だが、その砂利達の中に、色分けられた一つ異彩を放つ砂利が一つ存在していた。
それはまだ小さいが、どう変化をするのか?
描いた雫でさえ、気が付いていなかった。
でもアイツは良いのよ。
問題は、朱莉と颯司ね。
あの二人、黙って付き合ってる、なんてことは無いわよね。
今日は写生会を兼ねた遠足。
寝ることができない地獄の行事。
一年生は、全員近くのお城まで歩く。
途中で他校のヤンキーどもが因縁をつけようとやって来て、途中で盛大に転ぶ。
なぜかこの時期に、道路が凍っていたようだ。
「よーしここから自由行動。だけど、お城の範囲から出るな。せめて下書きは終わらせること」
先生はすでにお疲れのようだ。
学校から、ここまで六キロ程度。
「ふん。ふぬけめ」
陸斗が自分より下を見つけて喜ぶ。
「さて何を描くか、それが問題だ」
ベレー帽をかぶって、陸斗画伯が、ぶつぶつ言い始める。
土魔法は、何よりも空間把握と処理が重要なのだそうだ。
まあ、一瞬で彫像を作るような技だしね。
昔から、絵とかは異常に上手だった。
「はっ、二人がいない」
お馬鹿を気にしていたら、二人を自由にしてしまった。
ああ馬鹿なわたくし。
悲劇のヒロインごっこをして、さらに無駄な時間を使ってしまった。
探すと、朱莉は銅像を描いていた。
「銅像?」
「ああうん。建築物だと線が増えるし、面倒じゃ無い。ここなら背景は木だし、楽そうだと思わない?」
そういう朱莉は、すでに色を塗っていた。
なんだろう、燃える木、その間の銅像は苦悶を浮かべた何か。
あーそうね、大炎熱地獄とかだとこんな感じなんでしょうね。
八大地獄の話、私たちは、必ず子どもの頃に習うものね。
でも一緒にいなくてよかったけれど、颯司はどこ?
探し回る私。
颯司は安易に、お城に来たのだからお城を描かなけりゃいけないと上へと上がってきていた。
「此処かな?」
公園になっているそこには、植木とお城。
背後には町中、景色的には良いカットだけど、描くには大変そう。
その背後を追う女。
雫では無い。
雫はまだ、追手門がある一段目を走り回っていた。
そう例の一件で、颯司に惹かれ興味を持った、人見 杏実。
彼女はあれ以来、彼に抱かれ、触れられた感覚を、今も毎晩反芻をしている。
教室では声をかけられず、困っていたが今日は別。
流石に、颯司も寝ておらず、真面目にを描いている。
「となり良い?」
「うんいいよ」
颯司が座っている花壇横のベンチ。
空を見上げれば、初夏の前に見せる青い空。
太陽の光が肌に刺さる。
準備をしながら、颯司のスケッチブックを覗き込むと、それは風に揺れる水面に映る景色のよう。
思わず、お城の方を見てしまう。
ただお城はそこに存在し、どう見ても颯司の描いた絵のようにはなっていない。
ただ本人は、常時意識の五パーセントくらいを、風の流れに意識を向けている。
その風の流れの中で捉える景色は、今描いているものと同じなのかもしれない。
だけど常人はそんな事は分からない。
その不思議な絵は、ひどく寂しさを感じさせる。
青みのある揺らめく世界。
何かあれば消えていきそうな。
今でも、風は周囲を探り、走り回る雫も捉えていた。
そう仲間をいつも見ている。
何かに絡まれたりすれば、刃の風がそいつを滅するだろう。
今、颯司にはその位の余裕がある。
力が解放され、単純な強さだけでは無く、できることも一気に増えた。
「あの風祭くんてさ、部活とかしていないでしょう?」
「ウンしていない」
「お家へまっすぐ帰るの?」
「そうだね」
スケッチブックから目を離さず描き続ける颯司。
そう風で見て、目で見ず描いていた。
「あの、火祭さんとか、水祭さんて親戚?」
「あーうん。そう」
そう聞いて、杏実は少し安心する。
だけど、あれ? 従姉妹って結婚できるんだったっけ?
『従姉妹、結婚、調べる』そんな事をメモをする。
実際、雫や朱莉と結婚することは問題ない。
親族というのも間違いは無いが、そんなに近くも無い。
そして彼女は描き始め、ここからのアングルが意外と面倒なことに気が付く。
植木の枝を正面へと大胆に食い込ませて、細かなものを減らす。
右側にも、大胆に木が創造される。
そんな中、ようやっと三の丸へと上がってきた雫。
「見つけたー…… てあれ誰?」
クラスの違う雫は、人見の事を知らない。
だが、雫。躊躇はしない。
「颯司、こんな所にいたの。探したわよ」
だが、
「えっなに? 用事?」
とまあ、ぼけた返事。
「あんたねえ」
とはいえ約束したわけでは無く、雫が一緒にいたかっただけ。
言葉にできず、金魚のようにパクパクと。
はむっと言葉を飲み込む。
「どんなのを描いたの?」
「お前は終わったのか?」
「そりゃまあ、大体」
「早いな」
「水性だし、水だからね」
「そうか」
そう言ったものの、真っ白。
走り回っていた雫を知っているのに、颯司は何も言わない。
ついでだから、お弁当を食べようとしていると、朱莉達もやってくる。
颯司と陸斗は気を利かせて、花壇側に座り直す。
向かい合うが、花壇の段が高く、目覚めた朱莉は丁度目の前に来る颯司の股間が妙に気になる事になる。
そして後日、なぜか四人の絵がコンテストに出されることになった。
点描による、写実的な陸斗の絵。
妙に目を引く、幻想的な颯司の絵。
燃えさかる炎のような、迫力満点の朱莉の絵。
そして、無数の玉石が転がる広場にできた水たまり、その真ん中で寄り添うような二枚の落ち葉と、少し離れたもう一枚が波紋を乱し、さらに外側の一枚は静かに存在をする。
それは雫の心象風景のような絵だった。
ただ、波紋の起こすそのイメージは、人の心に何かを訴える。
だが、その砂利達の中に、色分けられた一つ異彩を放つ砂利が一つ存在していた。
それはまだ小さいが、どう変化をするのか?
描いた雫でさえ、気が付いていなかった。
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