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第二章 異物混入

第18話 闇の者達

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「なに蜘蛛たちが?」
「はい、すべてでございます」
 それを聞いて、理解する。

「祭の者達か。ジャマばかりしおって。かといって獲物の数を考えれば……」
 そう、育てるならば餌が必要。

「仕方が無い」
 公園は目立つため、目立たない所へと繁殖場を移す。
 普段なら、こんな地元では行わない。
 だがたまたま、ターゲットが此処なのだ。

 『お願いです恨みを、晴らしてください』
 パワハラにより追い込まれ、自ら命を散らした旦那。
 その手記を見つけた家族が、生命保険の一部を使い依頼をして来た。

 ターゲットは、ある会社の社長。
 ワンマンで、部下を部品のように扱う。
 元々、それをパワハラ委員に伝えたが、そんな事は知ったこっちゃない、社長へと届き、逆に懲罰を喰らう。
 おまけに退職金まで減額された。

 家族の願いが、なぜか闇術士のところへとたどり着いた。

「かわいそうなことだ。ふむこの会社、潰そう」
 あっさりとそんな事が決まる。

 放つためのかわいい蜘蛛たちを育てだしたのに、殺されてしまった。

 公園の中を探すと、逃げ延びた小型蜘蛛がいた。

 面倒だから、その社長宅へと放つ。
「ターンとお食べ」
 そう、本来それだけでよかったはず。
 だが彼らは、面倒だの一言で、周りを巻き添えにする。

 それが嫌われる理由。
 彼の名は、弥美 悠陽やみ ゆうひ
 丁度今、中学校二年生。
 闇に生きるものだが、今時大学まで通う。
 ただ、夜間は家業を手伝っているだけ。

 将来、一族を率いていかねばならない。
 一族は、表向き真っ当な仕事をしている。
 街角のアイスクリーム屋、たこ焼き屋、めっきり減ったタピオカ屋、駄菓子屋。
 ゲーセンに、解体工場、肉屋。
 民間のペット火葬場。霊園。

 細かな所から、本業の補助となる所まで多岐に及ぶ。

 『どうだぁ。ガキ共のなけなしの小遣いを巻き上げる、駄菓子屋ってあくどいだろう?』
 そんな事を言っていたが、時代の流れ。
 無くなってしまった。

 悠陽の父親は、暗殺術を使えるたこ焼き屋をしている。
 両手で使う千枚通しの技で、たこ焼きは空中を舞い、あっという間に丸くなっていく。
 ふわとろの食感で人気も高い。

 悠陽も練習をしているが、まだお客さんに出す許可は下りない。

「行ってきまーす」
 悠陽は元気に学校へと向かう。

 しばらく歩くと、目の前でいちゃつく一年生を見かける。
「ちっ、祭の関係者か。いちゃつきやがって、いつか絞めてやる」
 だが彼の周りでは、風が舞い。身を守っている。

「悠陽。なに道ばたでぶつぶつ言っているの。気持ち悪いよ」
「悪かったな」
 コイツは、遠野 氷見おんの ひみ十四歳。
 誕生日を過ぎたからな。
 こんな顔をして、実に恐ろしい奴だ。
 
 我が苦労をして育てた蜘蛛やムカデを、無表情のまま殺しやがった。
 それも一度や二度ではない。

 そして、コイツは表の者と同じ様な異能を使う。
 氷見というように、氷を使う。
 その冷たさと堅さは、ふわふわのカキ氷を作るのに丁度で、夏になるとコイツは金持ちになる。

 まだ実働はしていないらしいが、おばさんの冷子さんは、突き刺してよし、スリップさせてよしで、事故死を作るには最適よと言って教えてくれた。
 おばさんの、目を見開いたまま笑う顔は子供心に怖かった。

 そしてコイツ。
 おもしろがって、背中に氷を入れるし、椅子にとげができていたり、前に怒らせたときには靴にもとげが生えていた。

 とにかくとんでもない奴だが、幼馴染みですぐにまとわりついてくる。

 最近はとうとう、暗殺を始めるのか、部屋でいると「ねえ、キスしよう」などと言ってにじり寄ってくる。
 きっと抱きつき、首筋に氷を突き刺すつもりだ。
 隙は見せられない。

 だけどその日、コイツを怒らせたらしく、俺の毒虫たちが強制冬眠させられていた。
「虫は冬眠できないんだよぉ」
 何度そう教えても覚えない。

 だけど、見た目も良いし、学校で友達も多い。
 幼馴染みで俺のそばにいるため、男達から俺は虐められることがある。

 畜生。俺は不幸だ。

 祭家の奴ら仲よさそうにいちゃつきやがって。
 滅してやるぅ。

 悠陽ったらまた羨ましそうに、風祭くん達を見てる。
 羨ましそうだから、こっ、恋人でも欲しいのカナーって、私も頑張ってキスしようって言ったのに。
 真っ青になっちゃって、逃げるんだもん。
 顔とか、胸は少ないけど、氷見だって負けてないと思うけどなあ。
 氷見は自分のことを氷見と呼ぶ。
 うちのお母さんのことぼーっと見てたから、大きい方が好きなのかしら?

 こんなに、悠陽のことを好きでいるのは、氷見くらいだと思うんだけど……
 誰か好きなことか、居るのかなぁ。
 はっ、まさか火祭りとか水祭? あいつら敵じゃない。
 もしそうなら、滅してやる。

 幼馴染みで似たような感じらしい。

 悠陽が素直に、氷見の気持ちに気が付くのは何時の日だろうか?
 そして気が付いたとき、受け入れるのか、それとも、彼の虫たちが殺されるのか。
 それはもう少し先のこと。

「事故というか、先日騒ぎのあった蜘蛛ですね」
「外国から来たのか?」
「どうでしょうね?」
「えー被害者は男性。斉藤……」

 悪徳社長はミイラで見つかった様だ。
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