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第7章 王国は議会共和制的な何かへ

第70話 セイクリッド国は、フェルナンダ=トルエバ王国とは違うのだよ

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 ほぼ全滅。

 それは良い。予定通りだ。
 だが親書の内容に、皇帝の眉が反応する。
「来いと言ったのか?」
「はい。確かに。伺いを立てたのですが、間違いは無いようでございます」
「ふむ。まあいい……」
 セイクリッド国の聖王。アシュアス。

 ほとんど滅んでいた国を立て直し、ドラゴンや精霊を使役する……
 なるほど……
 普通じゃない。

 旧フェルナンダ=トルエバ王国だと思い、下に見ていたが、少し考えを改める。
 この柔軟さが、現皇帝イヴァン=スチェパーノの優れたところだろう。

 まず儀礼に乗っ取り先触れを送り、準備と軍備をそろえた後、大軍を率いて皇帝は出発をする。
 セイクリッド国が指定をしてきたのは、国境。

 王都にまで、招く気が無いようだ。

 今回、供として連れて行くのは、一万もの軍勢。
 何かあれば、すぐにでも戦争に入れる準備をしている。

 途中の領主にも会いながら、たっぷり二週間をかけて国境へと到着し、皇帝はいきなり度肝を抜かれる。

 手前の自領と全く景色が違う。

 対岸では木が生い茂り、それがきっちりと手入れされ、兵が報告をしてきた要塞がその姿を見せている。

 橋も知らぬうちに向こう側だけ直され、帝国側の部分がみすぼらしく見える。

「帝国側が、些末な木の橋。向こうは石材を使った立派な物だな」
 皇帝が、宰相ローベルト=セヴェトキンに向かって問いかける。

「多少、見栄えが悪うございますな。知らぬ者が見れば向こうの国力が上かと勘違いをしそうな有様」
「そうだな」
 皇帝はその言葉だけを短く返す。

 先触れの兵が走り、向こうへ到着の報告に行く。

 ただまあ検問所の門は開きぱなしで、そこから騎兵が五騎出てくる。
 一応礼を取り、皇帝たちの列に、誘導する旨が伝えられる。

「護衛の兵もかまわぬか?」
「ええ。どうぞどうぞ」
 一万の軍勢を見ても、驚きもしない。


 先日、案内を出してから考えた。
 皇帝を王都まで入れるのはかまわないが、何かがあると後々面倒だ。

「そうだ、国境に町を造ろう」
 アシュアスが簡単に決めて、町の建築が始まった。

 そもそも、国境の町というのは危険であり、些末な宿屋や市が立つ程度で、何かがあればすぐに逃げられる程度の物しか造らない。
 実際に、他国でもそんな感じで、もっと自国に入った所に大きめの町ができる。
 それも、堅牢な城郭都市が普通だ。

 辺境伯が、そこに軍を配置して警戒をする。
 それがこの世界の常識。

 だがまあ、ティアー川が自然の掘りとして存在し、いざとなれば橋を落とせば良いので、ある種要塞として安全ともいえる。

「北の山脈を、景色として売りにできるから、あの辺りに木を生やして」
 アシュアスは、借景の技術を応用して、迎賓館と辺境伯邸の別館を建てる。
 そして、兵の宿舎と、迎え入れた要人の供達専用宿舎。
 景色を楽しめるよう、東西に長く。それを、スピナエ山脈側に造り上げる。

 そこから庭園を挟んで、街道に向けて見事な石造りの道を造り、両側に商店を建てる。
 その奥に住民用の家屋が造られ、区画ごとに道が造られていった。
 大規模な、新興の住宅地。

 少し離れた所には、倉庫街。

 必要そうな所に、火災延焼防止用に植林と小川。
 そして、住民の憩いの場を造り区画を分けていく。
 むろん、上下水道完備。

 ただまあ、基本となる商売相手がこの街道なら、帝国の商人しかいないため小規模だが、売り出したものが特殊なため、辺境伯の治める領都シャールカから商人が買い付けにくることになる。
 そのため、少し商店街が広がる事になる。

 基本ではあるが、見事な武具と防具。
 そして、見たことのない魔導具や、精霊の力を封じた特殊な宝玉。
 これは、割ることで解放され、極炎や氷結などの魔法を使うことができる。
 そして、魔導具では箱の中を冷やす収納庫。
 逆に温める収納庫。

 水晶で作られた器中に封じられた保存食。
 これは開封しないと何時までも腐らないが、蓋を開けると数日で傷むため製法が謎とされた。商人達は、空いた器に新しい食べ物を入れてみたがやはりすぐに腐った。

 そんなまねをできない技術と、まねをできる物。
 国境の町として出来上がった、バウンダリーの町。その噂は国内で、すぐに広がった

 すぐに食べられる物として、作られたもの。
 見たことがないほどふかふかのパンを薄く切り、中に生で食べられる薄い葉物野菜と獣肉を甘辛く焼いた物を挟み、銅貨一枚で売っていた。
 それと一緒に買える、細かく砕かれた氷が入った果実水。

 同じように、小麦粉へ肉や野菜を放り込み、混ぜ合わせて焼いた物。鉄板の上で焼かれ、タレがかけられると、それが焼け、暴力的な匂いが周囲に広がる。

 定番の串焼きも、魚醤をベースに作られたタレと、マメから作ったタレ。
 他の町で売られている、血抜きもまともにしていない肉とは違い、塩焼き一つでも洗練されて、味わったことのない旨さがあった。
 そして見たことのない、イカという生き物を焼いた物。
 これも絶品だ。
 海にいる生き物らしいが、魔法で凍らせて持ってくるらしい。
 そして、それを干したスルメという物が美味い。

 そう、アシュアス達が旅で知った食べ物や、調味料。
 そんな物を惜しげも無く教えた。

 そのおかげで、造って数週間で人がごった返していた。

 その光景を見た、皇帝一行は唖然とする。
「この国が、あの死にかかっていると報告された、フェルナンダ=トルエバ王国なのか?」
「明らかに、報告とは違いますな」
 商店の一角には、見事な珊瑚が飾られ、金や銀細工が、店頭に普通に飾られている。
 盗賊じゃなくとも盗んでいこうと考えそうな物だが、そんなことを考える人間がいないようだ。

 そんな時、大きな音がする。
「なんだぁ、また帝国の商人か。貧乏国はさもしいなあ」
 危惧したように、店頭から盗もうとして、捕まったようだ。
 だが呆れたように発せられた言葉。
 『帝国の商人』そして『貧乏国』。

 これは、皇帝の責任であった。
 軍拡と周囲への戦争の弊害で、戦費としての供出は帝国国民を思った以上に疲弊させていた。
 今こちら側に入ってこられるのは、善良とされた商人達だが、ある程度安く買い込み帝国側で高く売っていた図式が基本だった。
 適正な商売が始まった瞬間、彼らは追い込まれたのである。

 皇帝たちは、呆然とする……
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