僕は弟を救うため、無自覚最強の幼馴染み達と旅に出た。奇跡の実を求めて。そして……

久遠 れんり

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第7章 王国は議会共和制的な何かへ

第65話 帝国のプライド

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 連絡は、すぐに帝都へとやって来る。

「なんだと? 属国のくせに。我に刃向かうのか。潰せ。周辺国に、我が国の意を示す。一兵たりとも生かすな」
「はっ」

 軍務卿キール=ヴァイセンブルク侯爵は、血に飢えた目を怪しく光らせる。
 この男、他者を虐めるのが大好き。
 合法的にそれが行える。それがために出世して、この立場へと上り詰めた。
 むろん真っ当では無く、幾人もの目障りな者が、裏で秘密裏にその姿を消した。

 敵を捕らえ、命乞いをする者を、じわじわと虐めながら切り捨てる。
 彼の直属部隊に殲滅させられ、亡国となり併呑された国もある。

「戦だ、準備をしろ」

 彼はフェルナンダ=トルエバ王国を舐めていた。
 元々国力は低い。
 それが、さらにこの数年、瘴気が発生したために弱体化をした。
 惨めな国。それが彼の中にある王国の現状。

 そのためゆっくり遊ぼうと、直属の部下三千名を使うことにする。

 この専任の兵士達は、そろいもそろって悪魔のような奴らばかり。
 帝国内でも嫌われている殲滅部隊。

 軍務卿自らが先頭に立ち、彼らは意気揚々と帝都を後にする。
 
「よろしいのですかな?」
「先に舐めたことをしたのは奴らだ」
 宰相はたしなめたが、皇帝イヴァン=スチェパーノは冷たい目で隊列を見送る。
 そう宰相は、彼らが行けば相手がどうなるか、その悲惨さを想像していた。

 実際。現実は、実に悲惨なことになった…… 彼らが。
 一月後。三千人が、冷たい川を流れていた……

 少し時は戻り、帝国側の関所へと隊が到着。

「あれが王国の関所か?」
 見た目は、橋をまたぐ門のような物。
 その脇に、小規模な詰め所が建っている。

 橋自体は、谷底にある高水敷。つまり普段は水が流れない河川敷へ柱が建ち、両側から橋脚が延びている。その柱を介して低水路。つまり常時水が流れる川の上部は、ロープで橋桁を吊っている吊り橋構造となっている。

 つまり、非常時はロープを切れば中央の橋桁は落ちる。その区間の長さはおよそ十メートル。

 川を渡るとき、最も注意しなければならない。

「面倒だな。向こうへ行って、見張りを切ってこい」
「はっ」
 喜びながら、十人ほどが、橋を渡っていく。

 中央部まで来ると、王国兵がやって来る。
「なんだお前達。なんの目的で我が国へ?」
「やかましい、死ねや」
 もう儀礼も何もない。いきなり切り込む。

 キンと、いい音がして、空中で剣先が止まる。
「はっ?」
「乱暴者だな。目的は知らんが、通行不可。頭を冷やせ」
 そう言って押し返す。

 後はいつもの様に、ぽいぽいと。
 それをみて、詰め所から兵がでてくる。
 だが普段、そんなに多く詰めているわけではない。
 日の出から日の入りまで通行可で、夜間は門を閉じている。
 全員で、十人足らず。

「おい連絡をしろ」
「はっ」
 兵が一人詰め所に走る。

 隊長は、捕まえては投げ込みながら、向こう側に帝国兵が大量にいることに気が付く。
「王に、櫓を建てて貰おう。だが、たちまち応援は間に合うのか?」
 今でも、投げられている様子を見て敵の応援がやって来る。

「キリがねえ」

 その頃、詰め所で魔導具が破壊される。
 その瞬間、王都の城の中で警報が鳴る。
「帝国との国境、何かが起きたようです」
「急げ」
 のろしが順に上がっていく。

 それを見て、古竜が若いのを数匹連れて飛び立つ。

 セイクリッド国アウストルギガ帝国方面守備隊隊長レイナウト=アグスタが、橋を落とそうとした時、そいつらはやって来た。

 古竜を中心に両側に二匹。

 まだ真昼なのに、なぜか夕日をバックに飛んでくる姿が見える。
 きっと、見ている者達の頭の中で、『ワルキューレの騎行』が流れていただろう。

 橋の上をフライパスし、自分たちの姿を帝国兵に見せつける。
 そうしてから、舞い戻り口がパカッと開く。

 その口腔内では炎が渦を巻く。
「ここに居ると橋ごと焼かれる。野郎ども退避だ」
 帝国兵達は、当然帝国側へと戻るが、そこに炎が降りそそぐ。
 帝国側の詰め所は燃え始め、全員が逃げ惑う。

 だが囲い込むようにドラゴン達は旋回し、帝国側からまた炎のカーテンがやって来る。

 逃げるが、先にあるのは十メートルの崖。

 当然橋へと戻ってくるが、王国側の門は早くも閉じられている。
 生き残るには……
 そう橋の真ん中から、川へと綱無しバンジージャンプをするしかない。

 腹をくくり、次々に飛び込んでいく。
 その間も、上空を舞い踊り揶揄うように炎が吐かれる。

 気が付けば、全員川を流れることになった。

 そしてドラゴン達は、ご褒美とばかりに、残された馬たちを美味しくいただき。
 幾頭かを掴んで、巣へと戻って行った。

 セイクリッド国側の門が開いたとき、対岸には誰も居なかった……

「あんな応援が来るなんて、聞いていなかったぞ」
 守備隊隊長レイナウトまでが呆然とする。

 だがまあ、この後要塞が建てられ、かなりしっかりとした守備体制が取られることになる。
 そして、セイクリッド国側から、跳ね橋を降ろすと対岸へ橋が繋がるようになった。そんな施設が、ティアー川沿いに五箇所ほど造られた。

 そういつもの様に、一夜のうちに。

 そして、鎧を着ての水泳はかなりキツかったらしく、二割程度しか帰還をしなかった。軍務卿は殉職のようだ。

「ドラゴンだと? おのれぇぇ」
 その報告を受けて、皇帝が吠えたとか……
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