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第7章 王国は議会共和制的な何かへ

第60話 王は嫌われ者

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 王都の外には、時間と共に人が集まってきた。
「どうだい。無料だよ」
 亜空間庫に入っている物を、大盤振る舞い中。

 しばらく何も食べていない人も居るようで、泣きながらスープをすする姿があちこちで見られる。

 人は増えるが、声高に目的を言う者はいない。
 言えばそれだけで、謀反。
 叛賊はんぞくとなるからだ。

 ただ判っている。
 ここに居る目的は、言わなくても同じ。
 休みつつ、夜明けを待つ。

 食事を振る舞う集団は、多少小綺麗だが、一般の民とそう違わない服装。
 装飾の付いた、ぴらぴらした貴族が着る服とは違う。
 話に聞いた、イルムヒルデ公爵家の人たちだろう。

 そうして人たちは、落ち着くと自分たちの周りに、瘴気が無いことに気がつく。

「これは一体?」
 多少ザワついたところで、リーポスが調子に乗り、言ってはならない情報を誰かに言った様だ。
「アシュアスはただの人では無い。かの精霊王の息子だ。森羅万象を司る神のようなお方だ。皆従え」
 とまあ。ザワザワが広がっていく。

 串焼きを焼いている兄ちゃんだが、確かに、周りから瘴気が消えている。

 そうして、無料の串焼きに人々が殺到する。

 やがて、数千の人たちが集まってきた頃。
 空の色が紫に変化し始める。

「満月の夜だったからな」
 班長はそう言って、正門を少し早めに開けた。

 開門がされると、人々は、静かに門をくぐっていく。
 だが、数千の人間が移動すると、地響きに似た音と振動が発生する。

 その音を聞き、町中の家からも戸が開き、人々がぞくぞくと出てくる。

 その流れは、アシュアスを先頭に、大いなる流れとなって、王城へと進んでいく。
 兵達も、その流れを止めるどころか、流れに合流して混ざっていく。
 金髪が多く、上から見るときっと金色の川のようだっただろう。

 そうして、城で焦っている人間が一人。
 宰相エジディオ=パローリ。
 王は、最近見つけた商人の娘を、食い散らかし満足して寝ていた。
 娘は、家のために我慢をした。

 そして静かに泣いていたが、妙な振動に気が付く。
「昨夜は、満月だったのね」
 これから起こることを想像し、多少溜飲が下がるが、なんとしてでもあと一日逃げれば良かったと考える。
 親たちは、店を潰してもいい。逃げなさいと言ってくれていた。

 正気を取り戻し服を着ると、静かに椅子へと座りその時を待つ。
 昨夜、人を無残に扱ったこの男が、無残な目に遭うところを見ようと。
 王である以上、いきなり殺されはしないだろう。
 恨みを言えば、晴らさせてもらえるだろう。
 だけど、それは人に委ねよう。
 獣に落ちたくはない。


 その頃、なぜか開いていた王城の門をくぐる。
「なんだ一体?」
「罠でも無さそうだ」
 周囲を探査するが、伏兵などはいない。
 いるのは、通路脇に立ち、道を空けている兵士達。

 こうなる前には、少し話し合いがあった。
「住民の間で武装蜂起が計画されているようだ」
 騎士団と兵団。それぞれの長が顔を突き合わせている。

「判っているが、俺は民に剣を向けたくはないな」
「それは俺も同じ」
 この王国において、彼らはひどく真っ当であったようだ。
 腐った貴族達と違い、おのれの信念に従う。

「今、国に呪いが蔓延をしているのは、現アルベルス王になってからだ」
 うむ。と頷く。

 実は、騎士団長ヴァルデマール=ゲルバーと兵団長オノレ=ベランジェだが、今回の王が即位してから後、彼らの力を恐れ、親族の家が濡れ衣を着せられ潰されている。
 そうこの二人、誠実な人柄から人気が高い。

 王を呪っているのは、民だけではない。

「音頭を取っているのは、二十年以上前に潰された、イルムヒルデ公爵家だそうだ。元々王家の血筋、現在の王であるアルベルス王とは違い本家だ。当時、できの良い弟を恐れた王が手を回したらしい」
「そうして、王国は腐っていったのだな」
「ああ。良い人間は私欲に走ったりしないさ」
 そう言って二人。しばし腕を組み考える。

「悪いが俺は、民側に付く。今の王に忠誠は尽くせない」
「なんだと…… じゃあ一緒だ。悪いが、あれは駄目だ。宰相の傀儡だし、宰相自体が駄目だ」
「誰が見てもそうなるよな」
 そう言って笑い合う。

「お迎えしよう」
「おう」
 そんな事があった。

 考えがないから、無駄に恐れ、つまらない策に走る。
 そんな事をするから、周囲から慕われず。敵が増える。
 見事な悪政のスパイラル。

 ついには、自国の武力にも見放されていたようだ。

 もともと、地球の中世ヨーロッパでは、王は生け贄的な意味もあった。
 日照りが起こった。王を吊るせ。
 病気が蔓延。王を吊るせ。
 それと似たような心理が働いたのか、兵達も黙って従った。

 王を代えれば、きっと今の呪いから解放される。
 
 そう、皆が心から、王の断罪を望んでいた。

 まあ、そんな事を知らないアシュアス達。
 妙なウェルカムムードで迎えられ、戦闘が当然あると思っていたのに気が抜ける事となる。

「なあ、周り変じゃねぇ?」
 流石に、リーポスもそう感じたようだ。
 むろん、ベルナール=イルムヒルデも、この異様さに目を白黒させる。

「アルベルス王はこちらです」
 案内まで……
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