上 下
58 / 80
第6章 フェルナンダ=トルエバ王国へ

第58話 お茶会会議

しおりを挟む
 ふと目を覚ますと、アシュアス達は、優雅にお茶会をしていた。
 あそこにいるのは、サーシャお姉様。いつから瞳の色が変わって……

 だけど、起き上がると、僕は大人で、場所も家の中庭では無かった。
 見た事のない場所……

 俺が起きた事に気が付きレイラがやって来る。
「あなた。アシュアスさまが、多分あなたにあうだろうと。服をくださって」
 意識が覚醒し、思い出す。
「ああ。ありがとう」

 見回せば、家と言うより城が出来ていた。
 そして、皆がさっぱりとしている。

「本当に風呂まで造ったのか?」
 そう聞いた事で、言いたい事が分かったようだ。
「ええでも、これはお風呂じゃ無くて、皆を浄化してくれて。ものすごくさっぱりしました」
「はっ? 浄化?」
「ええ。とても便利だそうよ。呪術の天敵だけど……」
 少し、レイラの顔に影が落ちる。

「お風呂は、薪が必要ないように、よく分からないけれど、源泉掛け流しだそうよ」
 源泉掛け流しは判らないが、薪が必要ないのはありがたい。
「薪が? それはありがたい」
「あなたのお部屋は、二階の奥にあるから。行きましょ」
 そう言って手を引かれる。

 屋敷の中央に、観音開きの大きな尖頭アーチのドアがある。
 それをくぐると、少し天井の高いホールがある。左右で分かれているのは、右側が、客室。正面の奥が食堂。左が、会議室や執務室だそうだ。食堂の脇に階段があり、上階へ上がれる。

「これはすごいな。僕は一体、何年寝ていたんだ?」
「嫌ですわ、数刻。時間で二時間くらいでしょうか?」
 そう言って笑う、レイラのドレスもすごく薄く。シルクのような艶がある。

「そのドレスは?」
「これも頂き物。木綿や羊毛と違ってすごく軽くて、ナイフも刺さらないんですって。もちろん矢も。素材は怖くて聞けなかったわ……」
 そう言って、嬉しそうなのに、声が小さくなり顔が曇っていく。

「そっ、そうか。良かったな」
「本当に。精霊の力ってすごいのね。すべてが初めて。あっそうそう、アシュアスさまが練習をさせてくれっていうので、歯も治していただいたの。治療の上級魔法を練習中だそうよ。教会では存在していなくて、自分で創っていらっしゃるみたい。ははっ……」
「そうか、親族として迎えられて、ありがたいな……」
「本当に……」
 敵となった時の恐ろしさが、二人とも想像できなかった。

 いきなり、木が生えるし、成長をする。
 そうかと思えば、移動していったり、根ごと抜けて倒れる。

 地面が波打ち、真っ直ぐに整地され、芝生がいきなり生えそろう。

「そういえば、脱出用の地下通路や、地下には牢獄もあるんですって」
「本当の城だったか」
「そうね、さっきまで住んでたお家もあるけれど、どうしましょう? 一応おいといて貰ったのだけど」
 聞かれて悩む。
 レイラとベアトリス。この二十年の生活が、あそこにはあった。

「思い出もある。残して貰おう」
「そうね。補強はしてくださったみたいよ」
「そうか。ありがたい。後で行って見よう」
 そっと、レイラが腕を組んでくる。

 自分たちの寝室は十畳ほどもあり、床には毛足の長い絨毯が敷かれ、石造り特有の床からの寒さを感じない。大きなベッドが据えられ、真っ白なシーツが掛けられ、羽毛がつめられた掛け布団まである。
 当然中身はないが、クローゼットやチェスト。
 大きな姿見まで、備え付けられていた。

 重厚なテーブルと椅子。
 ここにも、執務机が置かれていた。
 窓は、艶がなく向こうが見えないが、水晶がはめ込まれているようだ。
 曇りガラスを知らないベルナールであった。

 すべてが違う。
 調度品などを見ても、イルムヒルデ公爵家よりも良いものが揃っている。
「これはすごいな」
「あっという間に造られたの」
 少し遠い目になる、レイラ。

「かなり願望が入ったお願いだったのだが、叶えられた様だな」
「ええ。何十年も経つからどうなるか判らないけれど、うちで働いていた人たちが戻ってきても大丈夫ね」
 ベルナールはレイラをそっと抱きしめる。

「家の復興をしなければならないな。この家に見合うように」
「そうね。それについても、彼らが何かをしようとしているみたい」
 先ほどのお茶会。
 庭の隅に植えられた御茶の木。

 新芽を摘んで、蒸して揉み、乾燥。幾度か繰り返し、最後に炒る。
 これで、グリーンティが出来る。
 炒らずに、発酵をさせると紅茶が出来る。

 さっきは、紅茶を飲んでいた。
 どちらの茶葉も、十キロくらい作ったようだ。

 まあそんなお茶会。
 優雅な笑顔を浮かべての話だったが、内容は……

「呪いがレイラさんの仕業というのは判った。どう手間を掛けずに王を倒すかだよね」
「元々コロコロと王が代わるなら、民からの信用はないでしょうし、今の状況を利用して、民を先導して責任を取らせましょう」
 フィアもノリノリのようだ。

「ただ倒すのは、駄目なのか?」
 リーポスらしい意見だが、それは良くない。

「ただ武力で倒すと、逆に反感を買うときがある。もっともらしい理屈が無いと駄目だ。さっきフィアの言った今の現状が、王の責任だと追及するのが良いと思う。噂をある程度流して、そこに、姉さんが現れ、扇動をする。今が別の国からの傀儡となっているのも、民を苦しめる原因だと、触れ回るのも良いだろう」
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

前世が魔王だったことを思い出して最強の力を得たけど、そんなことより充実した高校生活を送りたい

のみかん
ファンタジー
高校進学のために地方から上京してきた少年、新庄玲央(しんじょう れお)は入学式の前夜、唐突に自分の前世が異世界で無双していた魔王だったことを思い出す。 記憶の復活と共に魔王時代のチートパワーも取り戻した玲央。 その力のせいで彼は学園の四天王と呼ばれる不良たち。 異世界帰りの元勇者。 地球を侵略するために潜伏していた宇宙人など。 様々な連中から目をつけられるハメになってしまうのだが……。 現代で最強の力はちょっぴり持て余す? それでもポジティブに生きていこう。 目指すは充実した青春だ! 無敵でマイペースな元魔王が、最強パワーでいろいろブッ飛ばしながら高校生活を謳歌しようとする話です。 ※この作品はカクヨムにて先行して公開しています

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

ある日仕事帰りに神様の手違いがあったが無事に転移させて貰いました。

いくみ
ファンタジー
寝てたら起こされて目を開けたら知らない場所で神様??が、君は死んだと告げられる。そして神様が、管理する世界(マジョル)に転生か転移しないかと提案され、キターファンタジーとガッツポーズする。 成宮暁彦は独身、サラリーマンだった アラサー間近パットしない容姿で、プチオタ、完全独り身爆走中。そんな暁彦が神様に願ったのは、あり得ない位のチートの数々、神様に無理難題を言い困らせ スキルやらetcを貰い転移し、冒険しながらスローライフを目指して楽しく暮らす場を探すお話になると?思います。 なにぶん、素人が書くお話なので 疑問やら、文章が読みにくいかも知れませんが、暖かい目でお読み頂けたらと思います。 あと、とりあえずR15指定にさせて頂きます。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...