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第6章 フェルナンダ=トルエバ王国へ

第55話 トンネルを抜けると、死の国だった。

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 リッチは、小さな土壁の向こうで震えていた。
「あんたは?」
「昔…… 徴用された作業員だ」

 アシュアス達は、その姿を見て、落胆をする。
 どう見ても、生きてはいるが、生身じゃない。
「残念、骨ね」
「そうだな、手がかりになるかと思ったのに」
「手がかり?」
 リッチが答える。

「弟が自家性魔力中毒症でね」
「おお。それは、良かったじゃないか」
 リッチがそう言った瞬間、アシュアスの右拳に聖魔法の光が灯る。

「ちょっと待て、どうしてだ。自家性魔力中毒症という事は、魔力が多いという事。立派な魔道士になれる器だ」
 自分をかばう掌から、煙が上がる。そして、必死で弁明をする。

「いや、魔力量が多くても、それが体を壊しているんだ」
「それは、まだ体が弱いからだ。丈夫になれば大丈夫」
 やっと右拳の光が収まる。

「治し方を知っているのか?」
「治し方って大げさな。あー。あれ? 何か処置をするだけだが……」
 そう言って考え込む。

「いや昔は、治療師のところへ連れて行けば一発だったんだ。今は駄目なのか?」
「治療方法はなく、死ぬだけだと言われている」
「そうなのか? では、時代の中で忘れられたのか……」

 それから、話を聞く。
 その当時は、アレクサンデル王国は存在せず、今大陸名になっているセントリアという国が、一国でこの大陸を治めていた。

 その国が、南北を繋ぐために、このトンネルを造り始めた。
 だが、崩落があったり、水が出たり、盤膨れと言って床面に圧力がかかり、床がはじけるような事故が多発したようだ。

 そうして、一〇年以上の月日と人材。
 膨大な国費を浪費して、工事が途絶えた。

 だが、その影響もあったのか、セントリアは滅び、今の国々に分かれたようだ。

「そうか、ありがとう」
 礼を言ったら、リッチが質問をしてくる。

「見た目、人のようだが、あんた一体何者だ? 普通じゃないよな?」
 ――リッチに、普通じゃ無いと言われてしまった。

「あー半分は人だが、姉さんと俺は、父親が精霊王と呼ばれる存在らしい」
「なんと。一体どうやって子をなすのだ?」
「さあ?」
 うむむ。と悩み始める。

 ふと顔を上げると、リッチは、リーポスに向かって言い放つ。
「魔導研究のためだ、子作りをしないか?」
 そう言った瞬間、リッチの顔半分がはじけ、粉砕される。

「いやよ。ふざけたことを言っていると、殴るわよ」
 久しぶりに見た理不尽。

 シルティアさんもそうだが、大抵、手が出るときには、とりあえず殴ってから、殴ると宣言される。
 意識を抜いていると、かなり効く。

 実際バラバラになったリッチが、集まって元の形になっていく。
「死ぬかと思った……」

「死ねば? 聖なる光で天に送ってあげるわよ」
 そう言って、ビシっと天井を指さす。
 つい釣られて、皆が天井を見てしまった。

 そして吹っ飛んでいくリッチ。
 リーポスが、胸を両手でカバーしているので、胸を揉まれたのだろう。
「死にたいの?」
「いやちょっと。肉の感触が懐かしくて」
 地面で、頭蓋骨だけがカタカタと揺れる。

「まあいい。行こうか」

 そうして、突き当たりまでは来たので、掘りながら内側を石化していく。
 向こう側との位置は、精霊が確認をしている。距離はおよそ二五キロ。
 馬車でも、一日で抜けられる距離だ。
 今は掘りながら進んでいるので時間がかかるが、走ればすぐの距離。
 便利になるだろう。


「消えた? チームごと」
「ええ。仲良く復興に手を貸してくれて、一気に町は修理されました」
「町の復旧はどうでも良い」
「どうでも良い?」
 教会関係者と、兵団の会話は続く。

「でまあ、あらかた終わったから、定宿の安楽亭に行ったんですがね。もう出発した後で。むろん何処に行ったのかは不明です」
 そう言って、隊長はニヤニヤしている。

「ええい、くそ」
「あいつらに教会が何の用です?」
「―― 貴様らには関係ない」
 そう言い放つと、教会関係者は部屋を出て行く。

「なんです、ありゃ」
「さあな。おい仕事だ」
「へーい」

「もっと早く、来れば良かった」
 領主に呼ばれて、この地の祓いをしていた。
 地揺れ。天変地異の前触れかもと言われて赴いていた。
 高額の報酬は良かったが……
「ええい」


 アシュアス達は、向こう側のトンネルへとつながり、浄化をしつつ補修を行う。
 当然出口は埋まっていたので、ちょっと火球を打ち込む。
 アシュアスは、未だに攻撃魔法の調整がいまいち出来ない。
 思いっきり、ぶち抜いてしまう。
 
 まあ精霊達が、勝手にサポートをするのが、悪い方向に働いているが。
 出てみると、畑の真ん中に大穴が開いていた。

「傾斜地でお茶を作っていたようね」
 粉々になった、お茶の木を見つける。

 適当に出口を埋め戻し、カムフラージュしておく。
 むろんお茶も、再生する。挿し木をしてお願いするだけ。

「でだ、このよどんだ空気は何かな?」
 外の方が、トンネルの中よりひどい。

「瘴気ね。さっき落盤の所で感じた空気だわ」
「気持ち悪いし、頭痛がする」
「ちょっと待って」
 一応皆を浄化する。

「あっ。楽になった」
 だがすぐに、調子が悪くなる。
 そして、ティナさんとイミティスは、急遽浄化魔法を習うことになる。

「これで、私たちも教会に追われるわね」
「そうね……」
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