僕は弟を救うため、無自覚最強の幼馴染み達と旅に出た。奇跡の実を求めて。そして……

久遠 れんり

文字の大きさ
上 下
55 / 80
第6章 フェルナンダ=トルエバ王国へ

第55話 トンネルを抜けると、死の国だった。

しおりを挟む
 リッチは、小さな土壁の向こうで震えていた。
「あんたは?」
「昔…… 徴用された作業員だ」

 アシュアス達は、その姿を見て、落胆をする。
 どう見ても、生きてはいるが、生身じゃない。
「残念、骨ね」
「そうだな、手がかりになるかと思ったのに」
「手がかり?」
 リッチが答える。

「弟が自家性魔力中毒症でね」
「おお。それは、良かったじゃないか」
 リッチがそう言った瞬間、アシュアスの右拳に聖魔法の光が灯る。

「ちょっと待て、どうしてだ。自家性魔力中毒症という事は、魔力が多いという事。立派な魔道士になれる器だ」
 自分をかばう掌から、煙が上がる。そして、必死で弁明をする。

「いや、魔力量が多くても、それが体を壊しているんだ」
「それは、まだ体が弱いからだ。丈夫になれば大丈夫」
 やっと右拳の光が収まる。

「治し方を知っているのか?」
「治し方って大げさな。あー。あれ? 何か処置をするだけだが……」
 そう言って考え込む。

「いや昔は、治療師のところへ連れて行けば一発だったんだ。今は駄目なのか?」
「治療方法はなく、死ぬだけだと言われている」
「そうなのか? では、時代の中で忘れられたのか……」

 それから、話を聞く。
 その当時は、アレクサンデル王国は存在せず、今大陸名になっているセントリアという国が、一国でこの大陸を治めていた。

 その国が、南北を繋ぐために、このトンネルを造り始めた。
 だが、崩落があったり、水が出たり、盤膨れと言って床面に圧力がかかり、床がはじけるような事故が多発したようだ。

 そうして、一〇年以上の月日と人材。
 膨大な国費を浪費して、工事が途絶えた。

 だが、その影響もあったのか、セントリアは滅び、今の国々に分かれたようだ。

「そうか、ありがとう」
 礼を言ったら、リッチが質問をしてくる。

「見た目、人のようだが、あんた一体何者だ? 普通じゃないよな?」
 ――リッチに、普通じゃ無いと言われてしまった。

「あー半分は人だが、姉さんと俺は、父親が精霊王と呼ばれる存在らしい」
「なんと。一体どうやって子をなすのだ?」
「さあ?」
 うむむ。と悩み始める。

 ふと顔を上げると、リッチは、リーポスに向かって言い放つ。
「魔導研究のためだ、子作りをしないか?」
 そう言った瞬間、リッチの顔半分がはじけ、粉砕される。

「いやよ。ふざけたことを言っていると、殴るわよ」
 久しぶりに見た理不尽。

 シルティアさんもそうだが、大抵、手が出るときには、とりあえず殴ってから、殴ると宣言される。
 意識を抜いていると、かなり効く。

 実際バラバラになったリッチが、集まって元の形になっていく。
「死ぬかと思った……」

「死ねば? 聖なる光で天に送ってあげるわよ」
 そう言って、ビシっと天井を指さす。
 つい釣られて、皆が天井を見てしまった。

 そして吹っ飛んでいくリッチ。
 リーポスが、胸を両手でカバーしているので、胸を揉まれたのだろう。
「死にたいの?」
「いやちょっと。肉の感触が懐かしくて」
 地面で、頭蓋骨だけがカタカタと揺れる。

「まあいい。行こうか」

 そうして、突き当たりまでは来たので、掘りながら内側を石化していく。
 向こう側との位置は、精霊が確認をしている。距離はおよそ二五キロ。
 馬車でも、一日で抜けられる距離だ。
 今は掘りながら進んでいるので時間がかかるが、走ればすぐの距離。
 便利になるだろう。


「消えた? チームごと」
「ええ。仲良く復興に手を貸してくれて、一気に町は修理されました」
「町の復旧はどうでも良い」
「どうでも良い?」
 教会関係者と、兵団の会話は続く。

「でまあ、あらかた終わったから、定宿の安楽亭に行ったんですがね。もう出発した後で。むろん何処に行ったのかは不明です」
 そう言って、隊長はニヤニヤしている。

「ええい、くそ」
「あいつらに教会が何の用です?」
「―― 貴様らには関係ない」
 そう言い放つと、教会関係者は部屋を出て行く。

「なんです、ありゃ」
「さあな。おい仕事だ」
「へーい」

「もっと早く、来れば良かった」
 領主に呼ばれて、この地の祓いをしていた。
 地揺れ。天変地異の前触れかもと言われて赴いていた。
 高額の報酬は良かったが……
「ええい」


 アシュアス達は、向こう側のトンネルへとつながり、浄化をしつつ補修を行う。
 当然出口は埋まっていたので、ちょっと火球を打ち込む。
 アシュアスは、未だに攻撃魔法の調整がいまいち出来ない。
 思いっきり、ぶち抜いてしまう。
 
 まあ精霊達が、勝手にサポートをするのが、悪い方向に働いているが。
 出てみると、畑の真ん中に大穴が開いていた。

「傾斜地でお茶を作っていたようね」
 粉々になった、お茶の木を見つける。

 適当に出口を埋め戻し、カムフラージュしておく。
 むろんお茶も、再生する。挿し木をしてお願いするだけ。

「でだ、このよどんだ空気は何かな?」
 外の方が、トンネルの中よりひどい。

「瘴気ね。さっき落盤の所で感じた空気だわ」
「気持ち悪いし、頭痛がする」
「ちょっと待って」
 一応皆を浄化する。

「あっ。楽になった」
 だがすぐに、調子が悪くなる。
 そして、ティナさんとイミティスは、急遽浄化魔法を習うことになる。

「これで、私たちも教会に追われるわね」
「そうね……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

処理中です...