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第6章 フェルナンダ=トルエバ王国へ

第51話 何者……

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 ジェニファーは、痛みで泣きながら。横で感じていた。

 これは何? 怖い。こいつら全員が普通じゃない。
 私たちは、一体何を相手にしているの?
 受けた浄化により、さっぱりはしたが、膝に食い込む階段の踏み板の角。

 上の階で、ドヤドヤと声が聞こえる。
「三百七十七号室は、やっぱりねえ」
 導き手ベルツハルドはやっと諦め、女将さんに聞きに行こうとして、戻ってきたようだ。

 そうして当然、階下の様子を見る事になる。
 だがそこには、何かが居た。
 導き手ベルツハルドは、通り名の通り皆を従え、導いてきた分経験がある。
 その経験が、警鐘を鳴らす。
「あいつらは、やべえ」
 
 見た目は、どこにでもいそうな若造達。
 だが、やばそうなモンスターと、目が合ったような状態。そんな気配がする。
 動けない。目がそらせない……

 その瞬間に、やられる。

 だが経験が浅い者達は、気が付かない。

 暗器のジミーと、小芝居のリーンが階段を降りようとする。
「待て二人」
 その瞬間、何かに足を取られたように躓き、階段を落ち始める。
 暗器のジミーは、落下した瞬間。自分の暗器が体中に刺さる。

 そして、小芝居のリーンは、ジェニファーの上に落ちる。
 全身に突き刺さる、階段の角。
「ふんぎゃあ」
「ごめん」
 リーンは小柄だが、階段上からのダイブは、かなりキツかったようだ。

 二人の足を躓かせたのは、風の魔法。
 切らずに、歩みを抑える感じで放たれた。

 二人も、さっさと縛られる。

 階段の上と下。一見すると、上の方が有利そうだが、そうでもない様だ。

 睨み合う両者。
 まだ経験の浅い、名も無き者達が、此処で手柄をと突っ走る。そして、当然のように階段から落ちる。
 下で、アシュアス達が流れ作業のように、落ちてきた奴らを縛っていく。

 あっというまに、階段上には一人。
 宿の周りに、あと二人いるようだが、そいつらは後で良い。
「あんたは来ないのか?」
 上にいる、導き手ベルツハルドを睨んでみる。
「くっ」
 行きたいが、見て判ったように、以外と不利な条件。相手は化け物。
 恐怖も手伝い、足は動かない。だが少しずつ階段までの距離を詰めていく。

 だが、見えない何かに、いきなり足が払われ、階下へ落ちてしまう。
 そして、ジェニファーへ頭突きをする羽目になる。
「ふんぎゃ」
 今回、ジェニファーへの災難が、かなり大きい様だ。

 とりあえず、宿にも迷惑なので、盗賊という事にする。
 すっかり、顔なじみとなった詰め所へ引きずっていく。
 兵も、またあんたかという感じで、あっさり手続きは終わった。

 翌日、教会関係者に連絡が来たが、その時にはすでに、アシュアス達は出発をしていた。

 順調に、旅は続く。

 峠を越え、スキームで一泊。
 むろん、旅の止まり木亭へ泊まる。

「おっ来ね」
 宿に入った瞬間に、女将さんから呼ばれる。

「あの村に、飼育とかを半分依頼したよ」
「結構遠いですが、大丈夫ですか?」
「ああ、彼らの方が持って来てくれるからね。随分助かるよ」

 そんな話をしながら、メルカトアさん達も泊まる。

 その晩出された、骨付きの足は絶品だった。
 オーブンの中で、出た油を掛け回しなから、じっくりと焼くらしい。
 香草で独特の臭みを取り、うま味だけが口に広がる。

 隠しメニューとして、親の足もあったが、そちらはさらに美味しかった。
 確かに、肉は固い。
 だが、噛んだ後に口の中に広がるうま味は、信じられなかった。
 皆が無言で、もぎゅもぎゅと咀嚼をする。

「これはすごいですね」
 メルカトアさんも大満足の様だ。


 そんな頃、ステレンビュルフ大司教は、ルノフとジェニファーのフード付きの修道服が綺麗になっているのを見つめていた。
「一度でこれを?」
「ええ。一瞬でした」
 他の者達が着ている物と比べるが、信じられないほどの差がある。
 そう、繊維の奥まですっきり綺麗。まるで輝くような白さ。
 修道服を脱がされ、もじもじと立たされている二人に目を向けると、下着なども、真っ白だ。

「教皇様よりも力が上だ。本当に人か……」
 教皇などは力を示すため、魔力アップなどの魔導具でゴテゴテと武装をしている。
 キンキラキンの衣装や杖は、伊達ではなかった。だがそれを持ってしても、アシュアスにかなわない。

 魔導具によるブースト状態でも、ここまで強力な力は使えない。
「なんという事だ……」
 落ち込む大司教だが、ふと目の前で震えている、傷だらけの脛が目に入る。

「名前は?」
「はっはい。ジェニファーです」
「ふむ」
 上から下まで、ざっと見る。

「生娘か?」
「えっはい」
「来い。その足、治療してやろう」
 そう言って、手を引かれて行ってしまった。

 そして、大司教の側仕えになったとか……


 メルカトアさんは、放心状態だった。
「こここ。ここは?」
「鳥の飼育は、もう少し手前を、山へ入ったところだそうです。堆肥として良いそうですよ」

 とんちんかんな受け答えだが、隠れ村にやって来た一行。

 街道から、見にくい分岐を入ってきて、いきなり開けたと思ったら、王都でも見ない様な整備された村があった。
 栄養状態も良いのか、走り回る子供達も元気で明るい。

「人が増えたようね」
「そうだね。バレなければ良いが」
 そう、人の流れがあればどうしたって話は広がる。
 だが封鎖された場所だと、生活は行き詰まる。
 すべてが揃っているわけではない。

「久しぶり」
 声をかけると、皆が深々とお辞儀をする。
 オールト達も、随分ふくよかになっていた。
「元気そうで何より」
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