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第5章 聖魔法を極めよう
第47話 交渉
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教会へ向かう。
イミティスさんの話もあるが、何とか聖魔法と呼ばれる回復魔法の話を聞きたい。
この町で聞けなければ、王都まで行かなければいけなくなる。
「ギルドは良いんですか?」
「ええ。マスターには、休むことを伝えました」
イミティス…… 姉さんは、かくかくの動作をやめた。
あれはあれで、結構辛かったらしい。
休みの報告を行ったという言葉を、何も考えずに聞いたアシュアス達だったが、それはもう……
マスターがイミティスの変化に驚いているうちに、本人がいなくなり。
いま、仕方なくマスター自らが、カウンターに座っている。
そして考える。
柔らかな物腰で、表情すら柔らかくなっていた。
あれは男が出来たのか? とまあ、マスターだけではなく皆考えた。
人形のようだったが、奇妙さを除けば容姿は良いし、結構人気があったようだ。
随分と柔和になったが、それでも背筋は伸び、颯爽と歩くイミティス。
表情と雰囲気が変わったことで、人の目を引く。
道行く人が、ふと振り返る。だが、いままで向けられていた奇異の目とは違い。見惚れる様な視線。
「ただいま」
イミティスがそう言って入って行くのは、比較的こぢんまりとした教会と、それに併設された孤児院。
「まあ、お帰りなさい。今日はどうしたの?」
出迎えたのは、少しご年配のシスター。
「これを皆で」
イミティスは途中で買った果物を、シスターに渡す。
少し表情が戻っている?
「まあ、まあまあ。皆が喜ぶでしょう」
口ではそう言うが、こちらも表情が少し……
後で聞くと、お金を渡すと喜ぶが、子供達に届かないと言っていた。
「此処に残されている、私に関する物は、もうありませんでしょうか?」
「あの、お手紙以外はありません」
シスターは、ほんの少し考える振りをしたが、すぐにそう答える。
ティナが前に出て、シスターに一礼後、聞き始める。
「失礼。私はイルムヒルデ公爵家に仕えていた家の娘。サーシャ様は公爵家の証。家紋の入った、指輪か何かをお持ちだったはずでございます」
「まあ、関わりのある者が見つかったのね。ご覧になって分かる通り、細々と営んでいる孤児院で、一人育て上げるのにも大変で……」
ティナさんがそう言うと、分かりやすい金の無心が始まる。
「そうですか、指輪かペンダントには、王家に対する呪いが封じられ、そろそろその封印が破られる頃なのですが? 未だに追っ手が来ていないことから、売られたとは考え辛いし。あれが解放されれば、大変なことに……」
「でもそんな物なら、見つけた方が、やはり売られたのでは」
少し表情が変わり、オロオロするシスター。
「紋章入りの物を? 発見された時の状態からすると、見つけた者としては、家を見つけ礼を貰おうとするでしょう。紋章に詳しい者は、ギルドにだっています。すると、国を追われ、それも逃走中の貴族だと知る。関わればまずいことは、よっぽどの愚か者でなければ理解できる。指輪を見られただけで、捕らえられ、知っていようがいまいが、拷問の上殺される。とまあ考えたわけですが、その上にあれはとても危険な物。きっと町の一つくらい…… いえ失礼しました」
そう言って、その場を後にする。
「探査しながら、見張っておこう」
「さすが、アシュアス。あれで分かったの?」
「うんまあ。呪いは本当?」
「うそ。そんな危ないもの、娘に託すなんて……」
そう言いながら、多少は不安になる。
「まあまあ、貴族の紋章付きのものなんて、簡単に売れやしないわよ。きっと」
そう、平民なら関わるのを避ける。
碌なことにならないから。
そして貴族の手に渡れば、冗談ではなく。追っ手が来ていたはず。
もう二十年以上経つのだ。
「魔法について、聞ける感じではなかったわね」
「まあ、いいさ」
そういった理由により、発見者は他のものは売ったが指輪を残していた。
どう見ても紋章付き。
従者もいない様子から考える。
家から追い出されたものなら、紋章付きの指輪など持っているのがおかしい。貴族の妾? とも考えたが、それなら下手に連れていくと、騒動に巻き込まれることになる。
手紙の文字など読めないし、困った果てに、手紙と一緒に孤児院へ渡した。
受け取った孤児院でも、指輪からどういった家かを調べ、関わるのはまずいと判断をした。
そして、夜半。
シスターは、孤児院の裏で庭先を掘り起こしていた。
「呪いですって? 忌々しい」
ほとぼりが冷めたら、売ろうと考えていた。
没落して久しくなれば、装飾品の材料として売れる。腕やマウントは金だし、良い値が付くはずだったのに。
「この辺りだったはずなのに。あった」
入れていた木箱は朽ち果て、包んでいた布もなくなっていた。
泥まみれだが、ランプの明かりの中で、盾の中で向かい合う蛇の入った紋章が怪しく見える。シスターは気が付かなかったが、盾の上部は王冠で、王家から別れた家であることを表していた。
蛇はウロボロス。その目に埋められた、赤いルビーが光を妖しく反射する。
「ひっ」
思わず投げてしまう。
「確かに、返していただきました」
指輪を拾い上げる、イミティス。
脇から、ティナがシスターに、金貨を一枚手渡す。
「御礼です。扱いは聞きましたので、相応だと思います。ああ、そうそう。人にはあまりイミティス様のことは、言わない方がよろしいですよ。間者の耳に入れば攫われますから」
そう言って、にまっと笑う。
御礼が安くなった。
従者の鏡。とか思いながら……
イミティスさんの話もあるが、何とか聖魔法と呼ばれる回復魔法の話を聞きたい。
この町で聞けなければ、王都まで行かなければいけなくなる。
「ギルドは良いんですか?」
「ええ。マスターには、休むことを伝えました」
イミティス…… 姉さんは、かくかくの動作をやめた。
あれはあれで、結構辛かったらしい。
休みの報告を行ったという言葉を、何も考えずに聞いたアシュアス達だったが、それはもう……
マスターがイミティスの変化に驚いているうちに、本人がいなくなり。
いま、仕方なくマスター自らが、カウンターに座っている。
そして考える。
柔らかな物腰で、表情すら柔らかくなっていた。
あれは男が出来たのか? とまあ、マスターだけではなく皆考えた。
人形のようだったが、奇妙さを除けば容姿は良いし、結構人気があったようだ。
随分と柔和になったが、それでも背筋は伸び、颯爽と歩くイミティス。
表情と雰囲気が変わったことで、人の目を引く。
道行く人が、ふと振り返る。だが、いままで向けられていた奇異の目とは違い。見惚れる様な視線。
「ただいま」
イミティスがそう言って入って行くのは、比較的こぢんまりとした教会と、それに併設された孤児院。
「まあ、お帰りなさい。今日はどうしたの?」
出迎えたのは、少しご年配のシスター。
「これを皆で」
イミティスは途中で買った果物を、シスターに渡す。
少し表情が戻っている?
「まあ、まあまあ。皆が喜ぶでしょう」
口ではそう言うが、こちらも表情が少し……
後で聞くと、お金を渡すと喜ぶが、子供達に届かないと言っていた。
「此処に残されている、私に関する物は、もうありませんでしょうか?」
「あの、お手紙以外はありません」
シスターは、ほんの少し考える振りをしたが、すぐにそう答える。
ティナが前に出て、シスターに一礼後、聞き始める。
「失礼。私はイルムヒルデ公爵家に仕えていた家の娘。サーシャ様は公爵家の証。家紋の入った、指輪か何かをお持ちだったはずでございます」
「まあ、関わりのある者が見つかったのね。ご覧になって分かる通り、細々と営んでいる孤児院で、一人育て上げるのにも大変で……」
ティナさんがそう言うと、分かりやすい金の無心が始まる。
「そうですか、指輪かペンダントには、王家に対する呪いが封じられ、そろそろその封印が破られる頃なのですが? 未だに追っ手が来ていないことから、売られたとは考え辛いし。あれが解放されれば、大変なことに……」
「でもそんな物なら、見つけた方が、やはり売られたのでは」
少し表情が変わり、オロオロするシスター。
「紋章入りの物を? 発見された時の状態からすると、見つけた者としては、家を見つけ礼を貰おうとするでしょう。紋章に詳しい者は、ギルドにだっています。すると、国を追われ、それも逃走中の貴族だと知る。関わればまずいことは、よっぽどの愚か者でなければ理解できる。指輪を見られただけで、捕らえられ、知っていようがいまいが、拷問の上殺される。とまあ考えたわけですが、その上にあれはとても危険な物。きっと町の一つくらい…… いえ失礼しました」
そう言って、その場を後にする。
「探査しながら、見張っておこう」
「さすが、アシュアス。あれで分かったの?」
「うんまあ。呪いは本当?」
「うそ。そんな危ないもの、娘に託すなんて……」
そう言いながら、多少は不安になる。
「まあまあ、貴族の紋章付きのものなんて、簡単に売れやしないわよ。きっと」
そう、平民なら関わるのを避ける。
碌なことにならないから。
そして貴族の手に渡れば、冗談ではなく。追っ手が来ていたはず。
もう二十年以上経つのだ。
「魔法について、聞ける感じではなかったわね」
「まあ、いいさ」
そういった理由により、発見者は他のものは売ったが指輪を残していた。
どう見ても紋章付き。
従者もいない様子から考える。
家から追い出されたものなら、紋章付きの指輪など持っているのがおかしい。貴族の妾? とも考えたが、それなら下手に連れていくと、騒動に巻き込まれることになる。
手紙の文字など読めないし、困った果てに、手紙と一緒に孤児院へ渡した。
受け取った孤児院でも、指輪からどういった家かを調べ、関わるのはまずいと判断をした。
そして、夜半。
シスターは、孤児院の裏で庭先を掘り起こしていた。
「呪いですって? 忌々しい」
ほとぼりが冷めたら、売ろうと考えていた。
没落して久しくなれば、装飾品の材料として売れる。腕やマウントは金だし、良い値が付くはずだったのに。
「この辺りだったはずなのに。あった」
入れていた木箱は朽ち果て、包んでいた布もなくなっていた。
泥まみれだが、ランプの明かりの中で、盾の中で向かい合う蛇の入った紋章が怪しく見える。シスターは気が付かなかったが、盾の上部は王冠で、王家から別れた家であることを表していた。
蛇はウロボロス。その目に埋められた、赤いルビーが光を妖しく反射する。
「ひっ」
思わず投げてしまう。
「確かに、返していただきました」
指輪を拾い上げる、イミティス。
脇から、ティナがシスターに、金貨を一枚手渡す。
「御礼です。扱いは聞きましたので、相応だと思います。ああ、そうそう。人にはあまりイミティス様のことは、言わない方がよろしいですよ。間者の耳に入れば攫われますから」
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